1.父、卓也の場合
「お父さん、自分にとって何か大事なものある?きらきらしたモノ」
珍しく定時に終り、気持ちよく帰宅した北村 卓也(42歳)に、これまた最近では滅多に話しかけてこない小学3年生の次女が自ら話を振ってきた。
明日は雨かなと思いながらも娘の質問について、イカの刺身を口に放り込みながら考える。
「そうだなぁ。最近、休みの日に釣りをするのがはまってるけど。好きな事とは違うんだよな?」
「うーん、とにかく大事できらきらしているモノ」
なんだか質問者が曖昧だな。そう口にしたら、また怒り出しそうだしな。きらきらしたモノ⋯。
「あ、一つある」
「何?」
「クローゼットを漁らないとダメなんだよ。とりあえず、食べてからでいいか?」
不満そうな顔をしながらも渋々娘は頷いた。
✢〜✢〜✢
「まだ?」
「まてよ。あ、あったぞ。コレコレ」
少しくたびれた紺色の厚みのある箱を次女に手渡した。
「⋯なんか、きらきらじゃなくてギラギラな感じ」
開いて出てきたソレは、金色の時計だった。
「ガラスが傷だらけ」
最近観たドラマの悪役がしていそうな感じ。一つ気になったのは、かなり使った物らしくガラスだけでなく他も細かな傷が無数についていた。
「懐かしいな。これは、じいちゃん、五月からすれば、曾祖父さんの物だよ」
「へぇ」
五月は、ちょっと驚いた。何故なら北村家では、ひいおじいちゃんの話は避けている話題だった。
随分前に死んでいる、ひいおじいちゃんは、とても自由人で、周りは大変だっらしい。お正月など皆が集まる日には、必ずヒソヒソとその名が聞こえてくるのだ。
「初めて見た時、欲しくてさ。まぁ、くれるわけないわな。当時は高級品でさ。まぁ今もいい値がついてんだろうな。あ、コレはメンテナンスだけで金が、結構かかるだけで価値はあまりないかもな」
価値がないけど、きらきらなの?
「交通事故で死んだんだが、その数日前に、いきなり腕から外してな、俺にやるって言われてさ。気に入ってるって知っていたから驚いたの、今でも覚えているな」
そのお世辞にも綺麗とは言えない腕時計をまるで宝物のように触る姿も、普段のだらしのないお父さんとは、なんか違った。
「皆、曾祖父さんの事を賭け事ばかりでフラフラしてと怒っていた。だけど、そんな自由に生きる姿は、俺にとっては、とても羨ましかったんだ」
傷だらけのガラスを撫でる様子は、悲しいような優しいような不思議な顔だ。
「前は、面接とか重要な時は、ボケットにこの時計をいれていたよ」
お守りの代わりだな。
「壊れてる?」
「どうだろう。電池を入れ替えて、メンテナンスすれば動くなもな」
でも、部品交換とか値段するかもと呟いた。
「なら、お店を探したら?」
正直、お父さんには、その時計は、あまり似合わないかもしれない。けれど、その時計は使われたがっているように感じた。
「⋯そうだな。修理だすかぁ」
金がと呟くお父さんの顔は、何故か嬉しそうだった。
お父さんの大事な物・きらきらしたモノ
ひいおじいちゃんの腕時計。




