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4話 同類(sideメディルス)

メディルスは思い悩んでいた。

父がいつの間にか結んできた婚約。その婚約者のライラは金色の髪に碧眼の美しい人だった。大人しそうな彼女はリュミエール王国からわざわざ来たという。


正直、はじめメディルスはやられたと思った。

父はメディルスが隣国からやって来た彼女を無下には扱わないだろうと踏んでいたらしい。実際、メディルスは声を荒げれば吹き飛んでしまいそうな儚げな令嬢であるライラを粗雑には扱えなかった。彼女にはなんの非もないのだから。


若干の苛立ちを振り払うようにメディルスは剣を振るった。

上手く父にしてやられたと思うと、ボキリという音がして握っている剣の柄が折れてしまった。

身体能力強化がその能力であるウロボロスの聖印はこういう所が扱いづらい。


今日はもうそういう日だと諦めて折りたくないミスリルの剣は使わないようにしていたが、鉄の剣だとボキボキ折れて仕方がない。


どういえば穏便に彼女を国に返せるだろうか……。

ライラを紹介されてからずっとそんなことばかりを考えている。


メディルスにはずうっと忘れられない想い人がいた。

3年前に出会った彼女はイリーナ。イリーナ・サーシェス。今は結婚して姓を変えたがメディルスはその変わった姓で彼女を呼びたくなかった。醜い嫉妬がすぐに顔を覗かせるから。


(あぁ、嫌だ)


メディルスはまた湧き出てしまった嫉妬の心を振り払うように剣を振るう。そう。今はイリーナのことではないのだ。


今までも婚約の話は出てきた事があった。が、今回のように強行まではされなかったのでどれも丁寧に断ってきていた。

メディルスはイリーナ以外を愛するつもりはなかった。その事は充分父には伝えていたはずだが、あの人は全くメディルスの話を聞き入れてくれない。

チッと昨晩の事を思い出してまた舌打つ。


「どうして分かってくれないのですか!」

「やかましい。お前がさっさと嫁を取らんのが悪いんだろうが!」

「結婚する気はないとずっといっているでしょう!?」

「いつまで過去の女の影を追いかけているつもりだ。イリーナ嬢は結婚してしまっている。もうどうしようもないんだからお前も自分の幸せを考えなさい」

「私はイリーナ以外を愛することはありません!!」

「愛がなくとも結婚はできるわ!!!」


父カイラスとの会話はどこまでも平行線で、挙句殴り合いが始まってしまった。あの人はすぐ手を出す。

ひぃいと悲鳴をあげる家の者達のなか、勇気あるファバルが間に入ってその場はおさまったが父は決定事項だと譲らなかった。

「そんなもん知るか」がメディルスの回答である。

結局昨晩の夕食の席には行けなかった。


どうにかライラと話さなければと思っていると、鍛錬場に彼女があらわれた。


ライラはメディルスに話がしたいと言ってきた。その機会を待っていたメディルスは躊躇わずに頷いていた。


―――


お茶を用意させたサロンでどう話し出すかメディルスは悩んでいた。まがいなりにも隣国からわざわざ来てくれた方だ。穏便に来た道を帰ってくれとどう言うかについて、悩まずにはいられない。


ライラは約束の時間きっちりにサロンを訪れた。


(まだなんと言うか決めていないのに)


そう思いながらメディルスは彼女を迎え入れた。

こうなってはもう、ありのままを述べるしかないとメディルスはなんの前触れもなく口を開く。


「昨日の会話から察されているとはおもいますが、私はこの婚約の話を聞いていませんでね。貴女には、申し訳ないのですが国に帰ってもらいたいのです」

「……理由をお聞かせ願いますか?」


ライラは表情を変えることなく、まるで訳知りだと言わんばかりの顔だった。メディルスがイリーナを愛してやまないということは家の者なら誰でも知っている。大方どこかからイリーナの事を聞いてきたのだろうとメディルスは思った。


(それならば話が早い……)


「私には心に決めた唯一愛する人がいるのです。貴女のことは愛せない」

「それで結構ですわ。私にとってはなんの問題もございません」


メディルスは困った。そのパターンの方か、と。


「それに私は子を作る気は無いのです。貴女には白い結婚を強いる事になるでしょうね」

「まぁ。そうなのですね?それでも構いません」


なるほど、取り付く島もない。このタイプのご令嬢は厄介だ。メディルスの優しさや顔に好感を得るタイプもしくは全てをどうでもいいと捉えているタイプで、多少の説得では諦めてくれない。メディルスの考えや想いを訴えても聞く耳を持ってくれない。

結局メディルスが嫌々脅しをかけるような真似をして諦めてもらうしかない。この儚げな女性にあれをやるのかとメディルスは少しやるせない気持ちだった。


「私も同じなのです。メディルス様」


ライラの話は続いた。自分にも大切な想い人がいるのだと。話を聞けば、彼女は隣国の王太子の密かな恋人であったのだという。

その人との事を話す彼女はどこか楽しそうで、それでいて涙を流していた。


「ふふ、ダメですね。もう吹っ切れないといけないのに」


涙を拭う彼女の気持ちがメディルスには痛いほどわかった。

それは失恋の痛み。

想い人の事を話す彼女は真剣で、メディルスは厄介なご令嬢だと思った先程の評価をすぐに取り下げることになった。


「だから、私も貴方のことを愛せないかもしれません。でも、どんな貴方をも受け入れます。それに国に帰りたくないんです。愛せずともお互いに尊重はできるはず……どうか、私をお傍に置いてはくれませんか?」


それは今まで聞いたどの婚約者候補からの提案よりも甘美なものに思えた。自分と同じ痛みを抱えた女性。彼女の立場や考えにメディルスは容易に共感することが出来た。


「……少し、時間をください……」


いつもなら躊躇わず断っているメディルスも、ライラの話を聞いて、彼女となら愛というものの痛みを、愛のないかもしれない未来を、思いやりで分け合えるような気がした。

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