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最終話 二人の門出

「負けてしまったよ」


残念そうに笑いながら観戦席の方に戻ってきたメディルスをライラは笑顔で迎えた。

受賞式が終わり、月桂樹の冠はエンディオの手に渡った。

彼は躊躇うことなく自身の妻の元に足を運ぶとその月桂樹を彼女の頭にかぶせた。祝福の歓声が会場を包む。

ライラもパチパチと拍手を贈っていた。


「ふふ。惜しかったわね」

「鍛錬が足りなかったよ……やっぱりエンディオ卿は強い」


はぁと息をつくメディルスをライラは撫でた。


「お疲れ様。負けてもかっこよかったわメディルス」

「……ありがとう」


メディルスはもっと撫でてくれと言わんばかりに頭を擦り付ける。


「……次回の四カ国合同親善試合に出ることになったらライラには最前列を取ってもらうからね」

「えぇ?取れるかしら……今日も早くから並んだのよ?」

「僕が負けたのは試合前にライラからの祝福がなかったからだよ。いいなぁエンディオ卿は」

「まぁ。何を子供みたいな事を言っているの」

「いいじゃないか。僕も試合前にライラからのキスがあればもっと頑張れたのにって思っただけさ」


などというメディルスは実は相当悔しがっているのだろう。口を尖らせてそんな事を言う彼が可愛らしく、ライラはくすくすと笑った。


「分かったわ。じゃあ四年後はうんと早くから並ぶことにするわ」

「約束だよ?」

「ええ」


それは未来の約束。ライラは四年後もこんな調子のメディルスに変わらず愛されているだろう事に何の疑いも持っていなかった。そして、自分も少し過激な旦那様を変わらず愛おしく思っているのだろう。


「ねぇメディルス」

「ん?」

「私、貴方の妻になれて本当によかったわ」

「……どうしたの、急に」

「ふふ。これからもよろしくと思って」


メディルスはキョトンとしていたが、ゆったりと笑みを作る。


「僕も、こんなに素敵な未来があるなんて思ってもみなかった。全部全部ライラのおかげだよ。君の旦那様になれて本当によかった」


(私達は三角関係の失恋者同士という複雑な始まり方をしてしまったけれど、お互いの心を愛情で癒し、信頼で満たした。)


きっとこれからも、こんな穏やかな気持ちで、平和な日常を過ごしていくのだろう。


「これからもよろしく」


メディルスはライラを抱き寄せると、その唇にキスを落とした。それはまるで誓いの口付け。

結婚式の時には出来なかった夫婦として二人幸せに生きていこうという、気持ちのこもったものだった。

二人にとっては今この瞬間が新たな門出だ。




「お前らいつまでイチャついとるんだ。帰るぞ」


呆れた視線を向けてくるカイラスに急かされ、ライラ達は帰路につく。

繋がれた手は温かく、幸せな時間は続いていく。

二人の未来を祝うかのように空は晴れ渡っていた。

ライラの門出を見守ってくださり、ありがとうございました。

最後に結局どこにも出すことの出来なかったメディルスの年齢だけ置いておきます。彼は今回の四カ国合同親善試合時点で30歳です。

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