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2話 サレン伯爵家にて

「ようこそライラ嬢。私はカイラス・サレン。メディルスの父親だ」

「初めましてカイラス様。ライラ・エル・クレイヴァンと申します」


サレン家に着いたライラはメディルスの父親だというサレン伯爵に出迎えられていた。淑女の礼をとると、カイラスはにっこりと笑う。


「これは器量のいいお嬢さんだ。遠いところよく来たね」

「ありがとうございます」


カイラスは紫色の髪を撫でつけた逞しいご老人だ。老人と言っても50代くらいだろうか筋肉質な彼はどこか若々しくみえた。


「昨日は雨も降っていたし、疲れただろう。すぐに部屋を用意させよう」

「はい。ありがとうございます」


にっこり笑いながら屋敷のホールへ案内される。と、カイラスがホールの吹き抜けの上を見あげた。


「ちょうど良いところに、メディルス。来なさい」

「?はい」


メディルスという呼びかけにライラは身をかためる。自分の旦那様になる人の名前だったからだ。優雅にホールの階段から降りて来るのは、薄紫色の長い髪を三つ編みに結った美丈夫だった。ほうっとライラは思わず見惚れてしまった。琥珀のような金色の瞳と目が合う。


「……?父上、こちらのご令嬢は?」

「お前の婚約者だ。挨拶なさい」

「こ、婚約者!?」


驚愕で目を見開くメディルスに疑問を抱く。ライラが来ることを聞いていないのだろうか?その答えはすぐに分かった。


「どういうことですか父上!聞いていません」

「言ったらお前、断るだろうが」

「当たり前です!!」

「お前もそろそろ身を固めるべきだ」

「必要ないといっているでしょう!?」


なるほど。どうやらライラとの婚約はメディルスは関わらず、カイラスが強行したもののようだ。目の前で言い合いをはじめる2人をオロオロとライラは眺めていた。

するとハッとこちらに気づいたメディルスは申し訳なさそうにライラと向き合う。


「失礼、レディの前でするような会話ではありませんでしたね。はじめまして、私はメディルス・サレンと申します」

「は、はい。はじめまして。ライラ・エル・クレイヴァンと申します……」


メディルスはにっこりと天上の天使かと思うような笑顔を向けてくる。どうやら良識はあるお方のようだ。ライラを気遣う姿を見てそんなことを思った。


「ライラ嬢はわざわざお前のためにリュミエール王国から来てくださったんだ。結婚式は内々で来月に執り行う」

「待ってください父上。少し話し合いが必要なようです」


メディルスは天使の顔を歪めてカイラスを睨む。


「決定事項だ。ライラ嬢と親交を深めるように。ではライラ嬢、私は失礼させてもらうよ」


そう言ってバシンとメディルスの背中を一回叩きカイラスは奥へと向かって行ってしまった。

メディルスはチッと舌打ちをすると、相変わらず良い笑顔でライラに向き合う。


「ゆっくりお過ごしください、レディ。ファバル、ご令嬢を部屋へ」


「はい」と返事をしたのは屋敷の執事だろうか。

ファバルと呼ばれた老紳士にライラは預けられ、メディルスは早足でカイラスを追っていってしまった。


―――


「私は歓迎されていないのかしら、エデル」


今は夕食をすませ、案内された部屋で休息中だ。夕食の時間にメディルスもカイラスも来なかった。ごめんなさいねと申し訳なさそうに笑うご婦人はメディルス様のお母上ミレナ様だ。彼女は帝国へ来たばかりのライラが退屈しないようにとても気遣ってくれた。

姑との関係は良さそうだとライラは安堵する。


「屋敷の侍女達から話を聞いてまいりましたわ」


曰く、メディルスには忘れられないご令嬢がいるのだそうだ。


「なんでも三年前の四カ国合同親善試合で民衆の前で婚約を打診したらしいですわ『この大会優勝出来たら結婚して欲しいと』」


四カ国合同親善試合。それはリュミエール王国、ザイファルト帝国、アーライル王国、ノクス連邦の四つの国が合同で行う、友好の証となる公開試合だ。騎士の部、魔術師の部と二部門あり、四年に一度行われるそれは毎回大変な賑わいをみせる。


「まぁ。熱烈ね。そういえばそんな話を聞いたことがあった気がするわ。それで、結果はどうなったのだったかしら?」

「メディルス様は決勝戦で敗れたそうです。しかもその意中のご令嬢は優勝者から月桂樹の冠を受け取ったのだとか」

「……それは……」


複雑な事情がありそうだなと思う。通常優勝者が月桂樹の冠を贈るというのは愛の証明を意味する。要するに、そのご令嬢と決勝戦を戦った相手とメディルスは三角関係であったということだ。

そしてどこかメディルスに親近感を覚えた。彼も想い人と結ばれることが出来なかったのだろう。


「結局ご令嬢は優勝者の方と結ばれ、彼女が忘れられないメディルス様は頑なに婚約を拒んでいるのだとか」

「それで白羽の矢がたったのが私というわけね」

「ええ。国外からわざわざ出向いたお嬢様をお優しいメディルス様は手酷く追い返したりしないだろうと考えられたそうですわ」


なるほど。とりあえず使用人達から「優しい」という評価を得ているらしいメディルスに、怖い人ではなさそうとほっとする。

ライラは考える。自分だってまだスヴェインの事が忘れられないのだ。想い人と結ばれない。それがどんなに辛いことかライラにはよく分かっていた。


(三年も想い続けているだなんて、なんて一途で素敵な人なんだろう)


メディルスへのライラの評価はそうだった。

ライラは彼となら幸せな結婚生活を送れるかもしれないと期待していた。お互いに一番に想う人が別にいるのだ。メディルスの理解さえ得られば上手くやっていける。そんな気がした。


「私、明日メディルス様にお会いしてくるわ」


「そうですか」と、エデルはほっとしたように笑った。


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