18話 熱烈
「ライラ」
愛おしげに囁かれる声にぴくりと反応する。振り向けば立っているのはメディルスで、すっぽりと抱きしめられたライラは彼から額に与えられる口付けを受け入れた。
メディルスは愛する人へのスキンシップは惜しまないらしい。
先日、唐突にライラの事を一番にすると宣言した彼はその宣言通りライラを愛情深くあつかった。
口付けをしたり、触れてきたり、撫でてきたり、見つめてきたり、抱きしめてきたり……その頻度はライラが人前ではやめてくれと懇願するほどだ。
今も夫婦の寝室で抱きしめられたライラは彼の膝に乗せられながら雑談をしていた。ゆるゆると彼の指がライラの髪を梳く。
あまりの熱烈さと今までの彼との変化に、ライラはドギマギするしかない。心の中で情けない声を発しながらメディルスのされるがままになる。
「それで今度はリューゲルの街へ視察に行くことになったんだ。ライラも一緒に行く?」
「リューゲルの街ね……どんなものがあるのかしら」
「あそこは酪農の町でね、美味しいチーズが堪能できるよ」
「まぁ。チーズは好きよ」
「だろう?一緒に行こう?」
いいわねと頷くと、メディルスはにっこりと笑いちぅとライラの耳に口付ける。
(……し、心臓がいくらあってももたないわ……)
メディルスは自分の顔が良いことをよく分かっているし、その使い方も異様なまでに心得ている。ここ数日でライラはその事を深く実感していた。今もちらりと彼の方をみやれば、ん?と綺麗な顔は柔らかい慈愛の笑みをたたえていた。
この愛情振りまきモードのメディルスの攻撃を振り切った彼の想い人の心は鋼かと尊敬してしまうレベルである。
いたたまれなくなって離してとメディルスの胸を叩けば、彼はようやっとライラを離してくれた。
「ふふ。ライラは照れ屋さんなのかな?」
「からかわないでメディルス」
そっと彼の隣に座りなおすと、手を繋がれる。
ライラはこういう風に扱われることにあまり慣れていなかった。スヴェインはボディタッチは控えめな方だったのだ。メディルスは一般的に見ても過激な方だろう。
「嫌ならやめるけど……」
なんて言うメディルスは、まるで捨てられた子犬のようだ。
ライラはムズムズとした気持ちを抱えながら彼の手を握り返す。
「……嫌というわけではないわ。少し……慣れてないだけ」
「……そう」
彼は嬉しそうに笑うとライラの肩口に顔を埋めてきた。
こうなっては仕方がない。ライラはよしよしと彼の頭を撫でる。
「ライラは……」
「……?なぁに?」
彼に呼ばれて返事をするが、一向に先が続かない。
何か言いにくい事でも言おうとしたのか。
メディルスは結局「なんでもない」と言ってライラを抱きしめてぼふりとベッドに転がった。
「明日は早いからもう寝ようか」
「そうね」と頷くと彼は夜具を上からかけてくれた。
ライラを抱きしめるのをやめる気はないらしい。
最近はいつもライラはメディルスの腕の中で眠ることになっていた。夜中こっそり抜け出しても朝起きた時にはいつの間にか腕の中に戻っていることがよくある。
(熱烈な愛情表現ね……)
ライラは彼の愛情表現が恥ずかしくはあったが、嬉しくもあった。彼は本当にライラを一番に想ってくれているのだと行動で示してくれているから。少し過激ではあるがライラは彼の愛情を余すことなく受け入れられていた。
ふと、自分はどうだろうかと考える。ライラもメディルスを愛すると決めたはいいが、それが彼に伝わっているのだろうか。ジィっと息がかかるほど近くにある綺麗な顔を眺める。
「?どうしたの?」
彼は愛情を形にして伝えてきてくれる。対して自分は受け入れることはしても、愛情を積極的に伝えようとはしていただろうか。
何かを言おうとして言い淀んだメディルスを想う。
一方的な愛情は疲れてしまう。彼は不安なのではないだろうか。
ライラはぎゅうとメディルスに身を寄せる。
「私、貴方を愛しているわメディルス」
そういうとメディルスは目を見開く。
「もちろん一番に、よ」
そう伝えればメディルスは「嬉しい」と言って、より一層強い力でライラを抱きしめた。