15話 大きな子ども(sideメディルス)
「んぅ……」
メディルスはゆっくり覚醒する。ガンガンとしていた頭の痛みは引いていた。かわりに少し鼻が詰まっていて喉が痛かった。
(……完全に風邪だ……)
油断してしまった。メディルスはあまり風邪を引いた記憶が無い。昔から健康体でちょっと咳き込むことがあっても今回のように熱を出して寝込むといったことが起きたことはなかったし、しんどい時も1日寝ればすっかり治っていた。
特に普段と変わった事をした記憶は無いが風邪をひいてしまったものは仕方がない。この喉の痛みが治るくらいまでは大人しくしていようと決める。
ふと、自分が抱え込んでいる布団から違和感のある質量を感じた。
「……ライラ?」
よく見れば自分は布団ごとライラを抱え込んでいたようだ。別室で寝ていたはずの彼女が何故……と思ったが、大方自分を心配して様子を見に来てくれたのだろうとあたりをつける。
自分より遅くまで寝ている彼女は貴重だ。夜遅くまでメディルスを看病してくれていたのかもしれない。
その事にやんわりと心が温かくなる。
彼女はメディルスの腕を枕にするようにして眠っていた。自分が動けば彼女を起こしてしまうかもしれない。メディルスはじっとライラを眺める。
伏せられたまつ毛は長く、滑らかな肌は触れたくなるほどだ。
メディルスは、つんつんと彼女の頬をつついた。
ライラはんんっと身動ぎながらその瞼を開ける。
「……メディルス?……おはよう」
「ごめん、起こすつもりはなかったんだけど……」
ライラは気にしていないというふうに笑った。
「身体の調子はどう?」
「大分マシにはなったけどまだ喉が痛いかな。鼻も詰まってる」
「そう。今日は安静にしていて。お医者さんを呼びましょう」
ライラはそう言いながら起き上がるとメディルスの頭を子どもをあやすかのように撫でた。
その手が心地よく、メディルスは目を閉じる。
サラサラと、自分の髪の隙間を彼女の指が通る。
ライラはしばらくそうすると「そろそろ支度しないと」などと言って立ち上がり、自室に行ってしまった。
(……もっと撫でて欲しかった)
ねだれば彼女は続けてくれただろうが、そんな子どものようなことをメディルスは言い出せなかった。