13話 揺らぎ
「見つからないね……」
「えぇ」
何度目かの皇城の庭の探索でも未だにネックレスを見つけることはできていなかった。もう3日も経っている。鴉にでも持っていかれたのかもしれない。
あれから毎日ライラは皇城に赴いてネックレスを探していた。
部外者であるライラが皇城に滞在できる時間は短く、あのテラスの下をくまなく探すが、いくら探してもダイヤのネックレスは出てこない。衛兵の人に話を聞いてみてもそんなものは見ていないと言われてしまう。
そっと芝生を撫でながらライラはその隙間にネックレスが落ちていないかと目を凝らす。
「……もう、今日見つからなかったら諦めようと思っているの。付き合ってくれてありがとうメディルス」
「……いいの?大事なものなんだろう?」
「ええ。スヴェインにね、はじめて貰った贈り物だったの」
「……それは……」
いつまで昔の恋人に縋っているのかと女神様が罰を下したのだ。
そろそろ忘れなさいとライラからあの大切なダイヤを取り上げてしまったのだ。
じんわりと涙が滲む。そろそろちゃんとスヴェインへの想いを忘れていかなければならない。
ライラにはメディルスという素敵な旦那様がいるのだ。
彼さえいれば充分ではないか。
「もういいの。貴方にこれ以上迷惑はかけられないし、私もあれを無くしてしまったっていう覚悟ができたわ。ちょうど良かったのよ、きっと」
過去の出来事は過去の事。そんなこともあったなぁと良い思い出にしなければならない。
そんなことは分かっていても、ライラはあんなにも好きだったスヴェインの事を未だに忘れられないでいる。
今はまだスヴェインに恋していた時間の方が圧倒的に長いのだ仕方がないと、ライラは自分の気持ちに言い訳をしていた。
でも、もう潮時なのかもしれない。
すぐに切り替えることは難しくとも、ライラはスヴェインへの想いをゆっくりとでも断ち切ろうと心に決める。
だから、あのダイヤモンドは見つからない方がいいのかもしれない。あのダイヤのネックレスはずっとライラの心の支えだった。それはスヴェインに振られてしまった今でも変わらないが、あれがある限りライラの未練は振り払えない。
ふぅーとライラは深く深呼吸をする。
「帰りましょう、メディルス。一緒に探してくれてありがとう」
「……」
どこか悲しそうな顔をしながら、メディルスはライラの手を取るのだった。
―――
今日はメディルスはどこかに出かけているらしい。
静かな別邸でライラはどこか落ち着かないまま、静かに窓辺に座って刺繍をしていた。
と、ガチャリという音がして、部屋の扉が開かれる。入ってきたのはメディルスだ。
「ライラ、良かった。ここにいたんだね」
「おかえりなさいメディルス」
どこに行っていたの?と聞こうとしたが、それより先に彼はライラの手を取るとチャリと何かを渡してきた。
(……まさか)
手の中を見ればそこには鎖こそ切れてしまっているが、ライラの大切なあのネックレスがあった。
「これで良かったかな?木の上に引っかかっててね。下ばかり探してたから見つからなかったんだね」
バッとメディルスを見やる。彼はまだ皇城に行ってコレを探しに行ってくれていたのだ。ライラが諦めてしまったあとでも。
その優しさに、ライラの心はじんわりと温かくなった。
「ありがとうございます、メディルス。これは本当に大切なものなの……」
彼にはこれがスヴェインからはじめて貰った宝物だとは伝えていた。
それでも探し出して来てくれたそれは、まるでスヴェインとの思い出を大切にしていいと、その想いを捨てなくていいと言われているみたいでライラはとても嬉しかった。
「どういたしまして。良かった、やっと笑ってくれた」
なんて言いながら笑うメディルスに、ライラは震えるような心のゆらぎと微熱を感じるのだった。