12話 裏側(sideメディルス)
「メディルス〜酷いじゃん幼なじみの俺をコケにしてさぁ」
ライラをテラスに置いて、シャンパングラスを取りに来たところ、メディルスは不貞腐れている幼なじみに捕まった。
ロベルトはメディルスの肩に手を回すとピーピーとわめき出した。
「おまえがライラに余計なことを喋ろうとするからだろ」
「えっなになに昔は陰キャだったこと言ったらまずかった?」
「陰キャではなく研究熱心だったと言い替えてほしいな」
この幼なじみは少々頭が足りていない。明るく、よく喋る彼は口が軽く要らぬことをポンポンと言ってくる。その上言葉選びも残念でとてもとても純粋なライラに聞かせられるものではない。
それでもメディルスはこの鬱陶しい友人には感謝していた。
軽々しく接せられる数少ない友人はメディルスの良き理解者でもあったのだ。
「でも良かったじゃん。俺安心したよ。おまえが結婚したって聞いて。ずうっとイリーナ嬢のこと気にかけてたからさ。失恋はつれーかもしれねーけど前向かなきゃ人生やってらんないぜ?」
「……」
やはりこの男にもメディルスは前を向けていないと捉えられて居たらしい。自身はそうではないつもりだったが、停滞していたと言われればそうなのかもしれない。
ロベルトはきょとと目を見開くとどこか遠くを眺めた。
「あれ、あのテラスって……おいあれメーガン侯爵んとこのエリザ嬢じゃない?」
「……!」
ロベルトの言う方にぼんやり視線を向けると金髪に深紅のドレスの女がライラの居るテラスに入っていくところだった。
エリザ嬢はメディルスに何度も婚約を打診してきた令嬢のひとりでメディルスが脅しあげて諦めさせた令嬢だ。
メディルスは嫌な予感がした。
「持っといて」
「えっ、おい」
メディルスは受け取ったばかりのシャンパングラスをロベルトに渡すと、急いでテラスに戻っていく。
テラスの様子を目に留め、メディルスは怒りを覚えた。
エリザ嬢がライラを叩いていたのだ。しかもライラは何かに手を伸ばすように欄干から身を乗り出し……。
「ライラ!!!」
メディルスは持てる全ての力を持って走り込んだ。ライラの身体を掴み、テラスの欄干の内へと引き込む。
あまりの出来事に心臓が止まるかと思った。
腕の中のライラをみやれば彼女は顔面蒼白で、メディルスの顔を見ることなく震えていた。そして彼女はダっと走り出してしまった。
「!ライラ!?」
何があったのかとぽかんとしてしまったが、とにかく彼女が無事でよかったと息をつく。
「メディルス様、違うのですこれはっ」
安堵したのも束の間エリザ嬢はメディルスになにかいい募ろうと口を開いていた。
(忌々しい……)
「大丈夫ですよ。貴女が何を言おうが、見えていましたから」
ガッと、メディルスはエリザ嬢の首を片手で掴む。
ひっと彼女が息を吸い込むのが聞こえた。
メディルスはじわじわと彼女の首を掴む手に力を込める。
「貴女のそういう所が私は嫌いなんですよね」
「かっ……メディ……」
メディルスの手を剥がそうとエリザ嬢は躍起になるが、ウロボロスの聖印の怪力を一般人が解くなど無理なことだ。メディルスが手を上に持っていくと、彼女の足は宙に浮いた。
「二度とライラに近づくな。これは警告だ」
メディルスが乱暴に横凪ぐように手を離せば、エリザはゴホゴホと咳込んだ。その瞳には明確な恐怖が刻まれていた。
ガサリと下方で音がして覗き込んで見ると、薄紫色のドレスが庭に降りているのが見えた。
「……ライラっ」
メディルスは何事も無かったかのようにテラスを出るとライラを追った。
(こっえ〜〜〜〜〜)
ひっそりとテラスの様子を見守っていたロベルト は渡されたグラスを両手に持ちながら戦慄するのだった。