10話 はじめてのデート
ザイファルト帝国の帝都は赤レンガ造りの建物が立ち並ぶとても素晴らしい街並みだった。
今いるのは中心街とも言える商店が立ち並ぶ通りで、服飾、アクセサリー、雑貨などをはじめとした多くの店が並んでいた。
舗装された道は広く、馬車の通る道の両脇に用意された歩道は人で溢れかえっている。
「栄えてますね」
「そうだね。この通りは帝都の中でも特別だよ。店は人気店ばかりだし、人が集まるのもしょうがない」
「離れないように」と、ぎゅっとメディルスの腕につかまる。メディルスはライラを気遣いながら歩いてくれた。
「そういえばリュミエール王国では結婚式で指輪を渡し合うんだっけ?」
「そうです。2人の絆を強める意味があるんですよ」
そうして交換した指輪をお互いに左手の薬指にはめて過ごす。それは既婚者の証としても機能していた。帝国にはそういった文化はないようだ。
「では僕達も指輪を買おうか」
「いいのですか?」
「もちろん」と笑うメディルスは、宝飾店屋に向かって歩き出した。
(この人はきちんと私を妻として扱っていってくれるつもりなのね)
ライラはその事が嬉しかった。彼には「愛することができないかもしれない」などと言われていたから、今のように妻として扱われることなどないかもしれないと思っていたからだ。
ライラなどは新しい兄か弟が出来たくらいの気持ちでいたほどだ。
ライラの事を気遣い、優しく接してくれる彼から、愛情を感じずにはいられない。
たとえその心に忘れられないご令嬢がいたとしてもライラは充分だった。
「やはりシルバーかな。プラチナもいいね」
「あまり飾りはないシンプルなものにしましょう?」
二人で相談しながら指輪を選ぶ。
結局選んだのはプラチナのリングだった。細やかな堀込がされただけのシンプルなリングをお互いの左手の薬指にはめる。
「僕はあまり指輪は好まないんだけどね」
「えっ、そうなのですか?」
「うん。すぐに潰しちゃいそうで……」
「まぁ」
なるほど。ウロボロスの聖印の怪力で潰してしまいそうで怖いのだろう。ならばなぜ買ってくれたのだろうとメディルスを見やる。
「この方が君にとっては夫婦感が出るだろう?」
などと言いながらウィンクしてくるメディルスに、じんわりと胸が温かくなる心地だった。国外からやってきて、形骸的な妻となったライラを気遣ってくれているのだ。
(『愛のない』なんて嘘だわ)
互いを尊重しながら過ごすことで生まれる愛があるなどライラは思ってもみなかった。未だにライラの心にはスヴェインがいるし、彼を想う心は変わらない。
それでもこんなにも優しいメディルスを愛おしく思わない理由はなかった。
(私も彼に同じだけの優しさを返したい)
そう思うことがきっと素敵な未来に繋がっているのだと思う。