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常世の楽園  作者: ミホコハク


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8/8

プロローグ 8. イヴ

 やっと……!名前が……!出せます!

 長かった……そして、何度プロットを組み直した事か……。

 長らくお待たせしてしまって申し訳ございませんでした!

 今回は少し宗教的な事に触れている箇所がありますので、苦手な方や嫌悪感のある方はその部分は読み飛ばして頂けますと幸いです。読み飛ばしても大丈夫な程度の世界観の設定的なアレなので、本当にご無理はなさらず楽しく読んで頂けますと嬉しく思います。

 家の中は微かに石鹸の香りが漂っていた。

 じいちゃんが別宅へ移ってからは一人暮らしのような状態だったので、家の中に誰かの気配がある事に少しだけ安らぐ。

(やっぱりひとりは寂しい……)

 僕はまだひとりぼっちになった事が無い。

 生まれてからずっと、誰かが側に居てくれていたから。

 けれども、この島にはもう僕とじいちゃんの2人だけ。

 いつか僕はひとりになるのだ。

(いつかが遠い未来であればいいな……)

 先の事なんて今までに何度も考えて来た。それでも、いつだってそれは現実感の無い想像の世界で、僕は覚悟なんて全然出来ていないのだと思い知る。

(いっそ、あの子がずっと居てくれたらなんて……無理に決まってるのにね)

 永遠に近い命を持った天使ならば……。

 そんな思いが頭を過って悲しくなる。

(僕の寂しさを誰かに押し付けたらダメだ)

 これが僕の運命なのだから、受け入れなければ。

 いつかは別れが来る。だから、今を精一杯楽しもう。

 天使は巣へ帰る。それは変えようの無い現実だ。だからこそ、今を大事にしよう。

「楽しい思い出をいっぱい作って、また来てもらおう!」

 僕は願いを声に出す。願いは言葉にすると力が宿る。昔、何かにそう書かれていた気がする。

 大きく首を横に振って、寂しい気持ちを振り払う。

(まずは、あの子の様子を見に行かないとだ)

 気持ちを切り替えて、僕は天使が居るはずの部屋へ向かった。


 コン、コン、コン

 また居なかったら……と少し不安になりつつノックをする。

「入るよー。」

 ひと声掛けて扉を開けると、ベッドの端に座る天使と目が合った。

「あ、えっと、服のサイズはどう?」

 少しドギマギしながら聞いてみると

「…………。」

 天使は立ち上がり、くるりとその場で回って見せた。

 スカートの裾がふわりと広がって円を描く。

「ぴったりだね!よく似合ってる!」

 嬉しそうな天使は、見て見てと言わんばかりに裾を振ったりその場でクルクル回ったりしていて、まるで踊っているようだ。

(かわいいなぁ)

 少女のようなその姿に、頬が緩む。

「気に入ってくれた?」

 僕が聞くと、大きく首を縦に振る。

「よかった〜。」

 表情が無くても、こうして表現してくれるので気持ちが伝わってくる。

 天使が声を出さずに、ありがとうと唇を動かした。

 嬉しさで胸がギュッと締め付けられる。

(作って良かった)

 心からそう思った。

 窓から差し込む光が天使の髪とワンピースをキラキラと輝かせている。

 きっと外で見たらもっと素敵だろうと思った僕は、

「ねぇ、もしも体調が悪くないなら、一緒に畑の水やりに行ってみない?そのままお昼を外で食べてピクニック……なんてどうかな?」

 畑の水やりと言う名のピクニックに誘ってみた。

「……!」

 天使は嬉しそうに大きく頷く。

「決まり!お弁当の用意をしないとだね!準備が出来たら呼ぶから、ここで待っていて。えっと……。」

 少しの間の後、

「君の事、なんて呼んだらいいかな?」

 名前を()いてみる。

 すると、天使はすっと右手をあげて、I…V…と文字を虚空に描き出す。

「……イ、ヴ?」

 天使……イヴは少し目を見開くと、大きく1つ頷く。

「イヴ……イヴ……うん、素敵な名前だね。」

 僕の言葉にイヴが嬉しそうに微笑んだような気がした。

(いつか、本当の笑顔が見られるといいな)

 イヴの感情が表情として現れるまで、まだまだ時間が掛かるだろう。様々な感情を知って色々な表情が出来るようになったイヴは、きっと誰からも愛される。

 そんな姿を想像して、胸が暖かくなるのと同時に少しだけ痛む。

 沢山の愛を受けるイヴの姿を僕は見ることが出来ないから。

「それじゃあ、また後でね。」

 僕はサイドテーブルの上にある空になったコップとメモを回収して、寂しさを振り払うように笑って手を振り部屋を後にする。

 扉が閉まる瞬間までイヴが手を振り返してくれているのが見えてとても嬉しい。

(もっと話したいな)

 天使の声は武器なので、会話が出来るほど声帯が発達しないらしい。

 けれども、イヴの飲んでいる薬はある意味万能薬のような物だ。そのうち声帯が発達して会話も出来るようになるだろう。

(どんな声なんだろうなぁ)

 昔読んだ本に美しい歌声を天使の歌声と表現している物があったので、天使の声はとても綺麗な声なのかも知れない。

 失われた時代には今よりも多くの感性や情緒があったから、本を読むと、今では分からない表現が出てくる事が多々ある。

 天使の認識もそうだ。

 この時代の天使は実在していて兵器であり脅威だが、失われた時代では実在しなくとも崇め敬われる存在であったそうだ。

 そして、存在しない(概念である)からこそ、宗教という長い歴史が終焉してしまったと言えなくもない。

 第四次世界対戦後の世界は、神は死んだと誰もが口にするほど悲惨な状態だった。

 それでも暫くは信仰する者が残っていたのだが、信仰では何も得られず、誰もが生きるのに必死な今の世で頼れるのは神ではなく人であると思い知り、徐々に廃れてしまったのだ。

 そうして今の人間至上主義な社会が出来上がっているのだから、これもある意味宗教に近いのかもしれない。

(結局、人間は何かに縋りたいんだろうな)

 人は独りでは生きてはいけない。それは誰が言ったのだったか……。

 そんな事を考えながら、僕はお弁当とじいちゃんの夕食の準備に取り掛かる。

(まあ、何を信じようと縋ろうと、僕のやる事は何も変わらないんだけどね)

 今1番大事なのは、料理をする事だと僕は思考を切り替えた。

 さて、お弁当には何を入れようかな。


 宗教的なお話は入れるかどうかかなり悩んだのですが、入れないとこの先の本編でのアレコレが進まなくなりそうなので敢えて入れる事にしました。苦手な方や不快に思われた方がいらっしゃいましたら誠に申し訳ございません。

 ちなみに作者はわりと神仏や心霊を信じている派です。何度か実体験をした事がありまして……。

 プロローグは本編前の前知識的な形で進めておりますので、そうなのか〜程度に読んで頂けますと作者としては有り難い限りです。

 そして亀の歩みのこの作品を読んでくださる皆様に、本当に感謝感激極み入っております。

 本当にありがとうございます!

 次話はもっと早く更新出来るように頑張ります!(切実)

 次話でも貴方とお会い出来ますように。

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