プロローグ 7. 忙しい朝
前話からものすごく間が空いてしまって大変申し訳ありません……!
夏から秋へ、まさかの季節が変わるまでにプロローグが終わらないと言う遅筆……。もっと速く書けるようになりたい。(泣)
プロローグもそろそろ終盤へと進み始めます。可愛い天使に少しでも癒されて頂けましたら幸いです。
夜明けと共に目が覚めた。
いつもより早く目覚めたのは、きっとワクワクしすぎているからだろう。
起き上がって窓を開ければ、まだ夜気を残す風がやわらかに頬を撫でる。
夜から朝へ、ゆっくりと空を彩りながら今日の幕が上がってゆく。
早めに目が覚めたから、じいちゃんの所に洗濯物の回収にでも行こうかな。じいちゃんは早起きなのでそろそろ目覚める頃だろう。
「よし!始めるか!」
朝食は何にしよう。そんな事を考えながら僕は動き出す。いつもと同じ朝なのに、いつにも増して輝いて見える。
(天使は服を気に入ってくれるかな)
少しの不安と大きな期待。
きっと今日もいい日になる。
朝はとても忙しい。今日は特に忙しい。
大量のパンを焼いている間に朝食作りと洗濯物の回収を終え、あっと言う間に空は青く染まっていた。
今日の朝食は野菜スープだ。
パン生地を発酵させている間に竈の予熱をするので、ついでに鍋を火にかけ鶏ガラを煮込んで灰汁を取り、細かく刻んだ人参じゃがいも玉ねぎを加えて塩と香草で味を調えたスープを作った。
鶏の旨味と野菜の甘さが溶け合った、寝起きの胃に優しい一品だ。
出来上がったスープは鍋ごと蒸釜に入れておいたので、保温もバッチリ出来ている。
トレーに焼きたてのパンと野菜スープ、水とお薬セットを載せる。
天使は起きているだろうか。
大きめの椀に入れたスープが溢れない様に、慎重に運んだ。
コン、コン、コン
「おはよう。朝ご飯を持って来たよ。」
扉を開けると、予想外の事態が起きていた。
居るはずの天使が見当たらない。
「え!?何で!?」
トレーを置いて、部屋の隅から隅、窓の下を覗き込んで探していると、
「…………。」
扉からこちらを覗く天使と目が合った。
「びっ………………くりしたぁぁぁぁ。」
申し訳なさそうに佇む天使が、指で扉に文字を描く。
『お手洗いをお借りしました』
なるほどそれは仕方がない。
と納得して、重大な事に気が付いた。
「そういえば、僕、お手洗いの場所とか教えて無かったよね!?」
焦る僕とは対照的に、
『すみません、勝手に探しました』
天使は冷静に文字を描く。
「ごめんね……。うっかりしてた……。」
よく考えれば、天使は体力さえ回復すれば歩けるのだ。そして薬でよく眠っていたからといって生理現象が無くなる訳では無い。
天使という存在が特殊すぎて、そんな当たり前の事を忘れてしまっていた。
(この子も基本的には人間と同じなんだ、忘れないようにしないと)
申し訳なさに肩を落としていると、天使が心配そうに近付いて来た。
「朝ご飯、食べる?」
心配ないよと伝える代わりに、明るく聞いてみる。
「…………。」
目を輝かせた天使は、すぐさまベッドへ向かいトレーの載ったサイドテーブルを寄せてお祈りを始める。
「召し上がれ。」
天使はトレーを見て、スープ用のスプーンが見当たらない事に気付いて小さく首を傾げる。トレーの上にあるカトラリーは、水飴用の小さなスプーンだけだった。
「このパンを浸して食べてごらん。」
スープの野菜はほぼ溶けているのでスープ用のスプーンは用意していない。だからスープ皿やカップではなく椀にしたのだ。
僕の言葉通り、天使はパンをちぎって野菜の旨味が凝縮されたスープに浸す。硬めに焼いたパンがスープを吸ってふやけて滴る。
パクリと口に入れると、
「…………。」
頬に手を添え嬉しそうに咀嚼した。少し微笑んでいる様に見えるのは、僕の願望からだろうか。
パンを食べ終え残ったスープを椀から啜って飲み干すと、天使は自ら薬を飲んで涙目になりながら両手をこちらに向けて伸ばす。
僕が水飴を差し出すと、右手で嬉しそうに受け取り頬張った。
(腕の方はかなり再生してきたな)
欠損していた左腕は、今では肘の辺りまで再生されていた。
左翼はまだ時間がかかりそうだが、この調子ならあと2〜3日程度で完全回復となるだろう。
(嬉しいけど……少しだけ……寂しいね)
回復したら天使は巣へと帰ってしまう。それは仕方のない事だが、何故か無性に胸が苦しくなった。
水飴を舐め終えた天使がスプーンをトレーに置いたところで、僕は湯浴みを提案する。
「まだ動けそうなら、お風呂に入っておいで。」
天使はコクリと頷く。
「場所は分かるかな?」
今度は少し考えて、コクリと頷いた。
「タオルや着替えは用意しておくから、ゆっくり入ってね。」
再びコクリと頷いて立ち上がると、そのまま扉へ向かって歩き出した。
「行ってらっしゃい。」
僕が声を掛けると、振り向いて小さく手を振る。行ってきますと言っているのかな。
天使が階段を降り終わった頃に、僕もトレーを持って部屋を後にする。
(どんどん可愛いくなっていくなぁ)
きっと昔の人々が信仰していた今は無き宗教に出てくる天使も、こんな感じだったのだろう。
そんな事を考えながら、手早く自分の朝食を済ませた。
まだまだ朝は忙しい。
朝食の片付け等を終えると、僕はタオルと着替えを持って風呂場へと向かう。脱衣所の扉をノックして、返事がないのを確認してから中に入る。
水音のする浴室に、
「タオルと着替え、籠の中に置いておくよー。」
と声を掛けると、コン、コン、と桶を叩く音が聞こえた。
おそらく了解の合図だろう。
僕は持ってきたタオルと着替えを籠の中に置き、畳んで置いてあった服を回収する。
今日の洗濯物はいつもより多めだ。
自分の服とじいちゃんの服、それから天使の着ていた服に、タオルとシーツ。
考えただけで疲れてしまいそうだ。
(気合いを入れて、いざ洗濯だ!)
部屋からシーツを回収して、他の物と纏めて大きな籠に詰め込み、裏庭の洗濯場へと向かう。
この島には洗濯機はあるようで無い。
昔は使っていたのだが、修理の為の部品調達が大変だったので使わなくなったのだ。
だから洗濯は手洗いなので、かなり時間が掛かってしまう。
風呂場に居る天使が上がって来た時の為に、部屋にメモと水を置いておいたが、気付いてくれるだろうか。
モヤモヤと考え事をしながらも手は動く。
洗濯も手慣れたものなので、考え事をしている間にどんどんと洗われて、最後にシーツを洗い終えた頃には夕飯のメニューまで決めてしまっていた。
(考え事は洗濯中が1番捗るんだよな)
洗濯物を干しながら、部屋に戻っているであろう天使の事を考える。
(そういえば……あの子の名前は何だろう……?)
兵器である天使にも、きっと呼び名はあるはずだ。
(あとで聞いてみようかな)
干し終えたシーツが風に揺れて、それがスカートの裾を想起させる。
天使はワンピースを気に入ってくれただろうか?
僕は少しドキドキしながら、足取り軽く家の中へと戻った。
プロローグにはこの先に続く本編への布石を随所に散りばめてあります。
本編の投稿が始まった際には、是非ともそう来たか!や、やっぱりね!と思って頂けますと作者冥利に尽きますので、その辺りも楽しんで頂けますと幸いです。
次話でも貴方とお会い出来ますように。