プロローグ 6.服作り
更新が遅くなってしまってすみません……!
ようやく本編へと繋がる大事な部分を書ける所まで進みました。
これから少しずつ可愛く変化してゆく天使の姿をお楽しみ頂けますと幸いです。
家に着く頃には外は薄暗くなっていた。
ひとまず布は汚れない様に部屋の隅に置く。
急いで夕食を作ろう。
メニューは決めていた。魚のムニエルだ。
食糧庫から魚、バター、小麦粉を取り出す。ついでに付け合せ用に人参とジャガイモ、インゲンも手に取り台所へ向かった。
「よし、始めるか。」
先ずはジャガイモとインゲン、ひとくちサイズに切った人参を蒸釜に入れて、蓋の上でパンを温める。
魚は下ろして身に塩とコショウを振り、焼く直前までそのまま置いて、野菜が蒸し上がったら鉄板に替えてそこにバターを乗せる。
バターが溶け始めたら魚の両面に小麦粉を薄く付けて焼く。小麦粉を付け過ぎるとベチャっとしてしまうので、余分な粉はしっかり落とす。
そうして両面がカリッと焼けたらムニエルの完成だ。
蒸した野菜と共に皿に盛り、ジャガイモに切り込みを入れてバターをたっぷり乗せる。
バターの香りが食欲を刺激して、ぐぅぅとお腹が鳴った。
(これは天使も気に入るはず!)
僕は夕食とお薬セットをトレーに載せると、天使の部屋へ向かう。
どんな反応をするだろうかと考えるだけで頬が緩んだ。
コン、コン、コン
「ご飯持ってきたよー。」
扉を開けると、天使は既に起き上がりサイドテーブルを寄せていた。
(匂いで目が覚めたのかな)
キラキラとした瞳でこちらを見ている。
「ムニエルだよ。召し上がれ。」
僕が部屋の灯りをつけてトレーを置くと、すぐさまお祈りをしてフォークを手に取った。
そういえば、昼食時も手を拭きながらお祈りをしていた。きっといただきますをしているのだろう。
ムニエルを口に運ぶと、
「…………。」
足をバタバタとさせて嬉しそうにする。
表情は無いが、だんだんと反応が分かりやすくなってきた。
(美味しいものは偉大だな)
夕食もペロリと平らげ満足そうな天使に、
「お薬も飲もうね。」
薬を差し出す。
天使はコクンと頷き受け取ると、それを一息に飲み干し、両手をこちらに伸ばして水飴を催促してきた。
僕は水飴をスプーンで掬い手渡す。
「…………。」
天使は嬉しそうにそれを頬張った。
表情が無い分、何か反応があるだけでとても嬉しくなる。
(もう少ししたら、きっと表情も変わってくるだろうな)
そんな日を想像して、少し苦しくなった。
天使に感情があってはならない。それが本人の為だからだ。
戦争の道具として産まれてきた存在は皆すべからく脳に感情を抑制する処理が施されているが、僕が与えている薬は天使にとって万能薬となるモノだ。摂取を続けるとあらゆる細胞が活性化する。それは感情のみならず、制御や意図的に喪失されていたもの全てが回復する事を意味していた。
但し、生殖能力に関してはこの薬で発現する事は無い。元々備わっているものを回復する効果があるだけなのだ。
水飴を舐め終え満足そうにスプーンを置く天使を見て、僕は罪悪感を覚える。
この子は怪我が完治した後、戦場に戻らなければならない。だが、何も感じずただ任務をこなす日々にはもう戻れないだろう。
(ずっとここに居たらいいのにな……)
無理だと分かっているのに、思わずにはいられなかった。
「それじゃあ、また明日の朝来るね。」
僕はトレーを持ち、扉へ向かう。
「おやすみ。良い夢を。」
灯りを消して扉を閉める瞬間、天使が小さく手を振っているのが見えた。胸がギュッと締め付けられる。
せめて今だけは、優しい夢を見てくれますように。そう祈りながら静かに部屋を後にした。
自分の夕食等を手早く済ませると、天使の服作り開始だ。
とはいえ僕が作れるのは簡単な物だけなので、オシャレな服や可愛い服は作れない。もっと服飾の勉強をしておけば良かった。後悔先に立たずである。
ハサミや型紙を作る為の大きな用紙、別部屋にある足踏みミシン等の準備を整え、いざ服作りだ。
テーブルに紙を敷いて、型取りする為に天使の戦闘服を乗せる。
ボロボロになっているが、身体にぴったりとした服だったので参考になるだろうと取っておいたのだ。
だが、ご飯をしっかり食べ、来た時よりも血色の良くなった今の天使にはこのサイズだとキツくなりそうな事に気が付いた。
戦闘服は大体の目安として、ゆったり着れるワンピースを作ろう。
(巣へ戻る時には、それ用を作ればいいし)
デザインを決めて型紙を作り、布を切る。
服作りは料理に似ているなと考えながら、黙々と作業を進めて行く。
縫い合わせる時にミシンの音が気になったが、薬の影響でぐっすり眠っている天使を起こす程の騒音では無かった様で、ホッと胸を撫で下ろした。
服作りは工程が多いのだが、型紙さえあれば汎用が利く。着替え用と合わせて2着ほど完成したところで作業を終えた。
月が傾いている。まだまだやりたい事はあるが、今日はここまでにしておこう。
「気に入ってくれると良いな。」
出来上がったワンピースを眺めながら、それを着た天使を想像する。
淡い黄色が白い肌と輝く金の髪に映えて、きっとよく似合う筈だ。
僕は片付けを終えると、明日の事を考えながら自室に戻り床に就く。朝がこんなに待ち遠しいのはいつ振りだろう。
心地よい微睡みの中、天使の居る生活に思いを馳せる。
最初は面倒だと思っていたのに、今ではこんなに楽しい。
こんな日々が、少しでも長く続きますように。
じいちゃんには悪いが、そう願わずにはいられなかった。
服って作るとなるとものすっっっごく大変ですよね……。
既製品が簡単に買える時代に生まれて良かったなと書きながらしみじみ思いました。
果たして天使はワンピースを気に入ってくれるのか、どんな変化を見せてくれるのか……。
次話でも貴方とお会い出来ますように。