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プロローグ 5.火山の活用法

 プロローグが長くなりすぎて飽きられていないか不安な作者ですが、この作品はお料理系ではない事をここに書いておきます。

 違うんです。何故かご飯を書いてしまうだけなんです。書いてる本人も謎なんです。

 本編が始まったらきっと書くことも無くなるので、それまで作者の謎料理にお付き合い頂けますと幸いです。

 畑仕事を終え、僕は足早に家を目指す。

 昼食は何にしよう。

 片腕でも食べやすいサンドイッチが良いかな。

 栄養を摂らせたいから肉も良いな。

 様々なメニューを考えて、

「よし、ラップサンドにしよう。」

 片手でも食べやすいラップサンドを作る事にした。


 家に着いたら食糧庫から材料を取り出す。

 鶏肉、キャベツ、トマト、チーズ。

 生地を作る為の小麦粉や卵も忘れずに。

 ラップサンドの生地は、蒸釜に鉄板を置いて焼く。ここの蒸気は高温なので、薄い生地ならすぐ焼ける。

 台所に材料を並べると、先ずは時間の掛かる鶏肉を蒸釜に入れる。蒸し上がるまでに、野菜とチーズを切って、生地とソースも用意した。

 そして余った時間で、天使の為に水飴を作る。薬があまりにも不味そうだったので、口直し用だ。

 金属のカップに砂糖と水を入れてよく混ぜる。水飴は水の量が多いと加熱しても固まらず、少ないと焦げてしまう。簡単だけど繊細なのだ。

 カップを蒸釜の蓋の上に置いて、かき混ぜながら砂糖を溶かす。()()()が出たら完成だ。これ以上加熱すると、冷めた時に固まって飴になってしまう。

(これで少しはマシになるかな)

 出来た水飴を空いているビンに移し、練りながら粗熱(あらねつ)を取る。余熱でも固まってしまうので、しっかり練っておかなければ。

 鶏肉が蒸し上がったので、次は生地を焼きはじめる。多めに作ってじいちゃんにも食べさせよう。

 焼けた生地に具を乗せ、マヨネーズとトマトケチャップで作ったオーロラソースをかけて巻けば、ラップサンドの完成だ。

 ラップサンドの皿と水のカップ、薬と水飴、スプーンをトレーに載せる。

(気に入ってくれるといいな)

 どんな反応を見せてくれるのか、ワクワクしながら天使の居る部屋へと向かった。


 コン、コン、コン

「お昼ご飯を持ってきたよー。」

 部屋に入ると、天使はまだ眠っていた。

 本当はこのまま寝かせてあげたいが、薬を飲ませなければと、心を鬼にして肩を揺する。

「起きてー。お昼だよー。」

 声を掛けながら揺すっていると、瞼が震えてゆっくりと開いた。

「おはよう。お昼ご飯だよ。」

 まだ眠そうな天使にラップサンドの皿を見せると、パッチリと両目が開いた。

 いそいそと自分で起き上がり、壁に凭れて座る。

 よほどお腹が空いているのだろう。

「これは手掴みで食べる物だから、これで手を拭いてね。」

 持っていたお手拭きを渡すと、天使は素直に手を拭き始める。まるで小さな子供の様だ。

 お手拭きを置き、ラップサンドを掴むと、大きく口を開けてパクリとひとくち。

「…………。」

 微かに肩が震えている。

(美味しかったんだな)

 天使はあっという間にラップサンドを食べ終えた。

「それじゃあ、お薬飲んでね。」

 僕が薬を差し出すと、ゆっくりと受け取り、一息に飲み干した。

「…………。」

 固まる天使に、スプーンで(すく)った水飴を差し出す。

「口直しだよ。どうぞ。」

 天使はゆっくりと口を開けて、スプーンを口に含む。

「…………。」

 目を見開いてまた固まるが、これは美味しいからだろう。

 表情も言葉も無いのに、何故か分かるから本当に可愛い。

「水飴だよ。ちょっとはマシになったかな?」

 天使はスプーンを口に含んだまま首をブンブンと縦に振る。

 よほど気に入ったのだろう。

「また、お薬の後にあげるから、お薬頑張って飲もうね。」

 これには少し嫌そうにコクリと頷いた。

 素直なのが可愛いすぎる。

 天使から舐め終わったスプーンを回収すると、

「それじゃあ、また夜にご飯を持って来るから、それまで寝ててね。おやすみ。」

 僕はそう言ってトレーを持ち、手を振って部屋を後にした。


 天使の可愛らしさを思い出しながら、自分の昼食と家事を手早く済ませる。

 昼からは掃除の続きが待っている。出来れば今日中に終わらせたいので、早く行こう。

 昨日使った荷車を倉庫に戻して海岸へ向かうと、既にじいちゃんが3分の2ほど掃除を終えてくれていた。

「じいちゃんお疲れ。ゴミもありがとう。」

 僕が昨日そのままにしていたゴミが、綺麗に無くなっている。

「お疲れ。今回も大量だな。」

 この島のゴミはじいちゃんが火山の火口に捨てている。

 生活で出た生ゴミは堆肥(たいひ)にしているが、その他の要らなくなった物は燃やして処分する。これも火山の有効活用と言えるだろう。

「じいちゃん、昼は食べた?」

 僕も掃除を始める。

「お前がバターを置いてってくれたから、パンにバターを塗って食べたぞ。やっぱりパンにはバターだな!」

 じいちゃんは僕では動かせない大きな物を次々に除けていく。

「昼にラップサンドを作ったから、じいちゃんの分も持って来たよ。後で食べて。」

「ラップサンド!それは有り難い。さすがにパンだけじゃ物足りなかったからな。」

 じいちゃんの喜び様を見て、ラップサンドを持って来て正解だったなと思う。

 時々休憩を入れつつ2人で黙々と作業を進めて、陽が傾く前に掃除が終わった。

(あとはゴミ捨てと使える物の分別だな)

 これは急がないので、時間のある時に少しずつやろう。

 綺麗になった海岸線を見て達成感に浸っていると、じいちゃんが拳をこちらに向ける。

「お疲れ!」

 僕は拳をコツンと突き合わせ、ニッと笑った。

「じいちゃん、あとは任せていい?」

「ゴミは捨てて、使えるやつはいつもの倉庫に置いとく。」

「ありがとう、助かるよ。サンの倉庫に行かないとなんだ。」

「サンの倉庫か……。あんまり張り切りすぎるなよ。」

 じいちゃんは僕の頭をクシャっと撫でた。

「大丈夫。楽しいよ。」

 笑いながら、また明日と言って海岸を後にする。サンの倉庫は南にあり、家から少し遠い。陽が落ちる前には帰りたいので急いで向かった。


 「ここに来るのは半年振りかな。」

 サンの倉庫は普通の民家だ。そもそも、この島で倉庫と呼ばれる建屋の殆どが、今はいない住民達の家だった。

 この島にはかつて16人の住民がいた。

 それぞれの特技を活かして皆と楽しく暮らしていたが、寄る年波には逆らえない。

 倉庫に入る度、昔の記憶が思い出されて寂しくなる。だから、家とは呼ばずに倉庫と呼んでいた。

(じいちゃんも……いつかは……)

 1人で倉庫に来ると、どうしても考えてしまう。だけど、

「今は(ぬの)!」

 暗くなりそうな自分に言い聞かせる様に、大きな声で気持ちを切り替える。

 この倉庫では布を保管していた。

 かつて住んでいたサンという住民が、島外との交流があった頃にとにかく布や革などの素材を求めていたので、ここには物凄い量の布がある。

 サンは裁縫が得意だった。今でもクッションやカーテンなどが、様々な場所で主のいない部屋を彩っている。

(布なんて作ればいいと思ってたから、サンには感謝だな)

 布作りには根気と時間が掛かる。

 だからこの倉庫は宝の山だ。

 僕は素材別に保管された部屋を見て回り、1つの生地を手に取った。

「うん。これにしよう。」

 淡い黄色で柔らかな手触りのこの布は、きっと天使に似合うだろう。

 僕は棒状に巻かれた生地を棚から引き抜いて、抱える。

 生地はずっしりと重みがあり、荷車を持って来るべきだったと少し後悔した。

 生地を抱えて玄関に向かう。

「またね。」

 僕はひと言呟くと、倉庫を後にした。


 水飴やベッコウ飴は子供の頃によく作っていました。

 お弁当用の小さなアルミのカップを、フライパンいっぱいに並べて作ったあの頃がとても懐かしいです。

 次話でも貴方にお会い出来ますように。

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