プロローグ 3. 戦争の狭間
3話はこの世界についての解説的な内容になります。
本作の根幹となる部分になりますので、あまり面白くないかも知れませんが……読んで頂けますと、この先のお話が分かりやすくなるかと思われます。
どうぞお付き合いよろしくお願い致します。
この世界は30年前から戦争をしているらしい。
僕達は島の外の事は分からないが、天使が投入されているなら、おそらく第5次世界大戦に突入しているのだろう。
戦争のない世紀はないと、昔誰かが言っていた。
天使はこの戦争を終わらせる事が出来るのだろうか。
今から約130年前に、世界は終わりかけた。
第4次世界大戦。それは、核を使った核戦争であった。
放射能に汚染された大地は人々だけでなくあらゆる生物から命を奪い、生き残った人々は汚染を免れた土地に移住した。
戦後の世界では総人口がおよそ1億人まで減少しており、その結果生命の価値が激変する。
最も価値のある生命は、科学や工学などの頭脳労働者となった。
富や名声は、この終わりかけの世界では何の意味もない。
生き延びる術を与えられる者が、最も価値ある生命として尊重され、敬われた。
次に価値があったのは、食糧となる植物や動物であった。
生きる為には食べなければならない。故に、頭脳労働が出来ない人間は家畜よりも下の扱いになった。
そして、その状態が50年ほど続いたある日。とうとう放射能を除去する方法が解明され、それが切っ掛けとなり、今度は肉体労働者の価値が上がった。
放射能に汚染された大地で、除去システムを稼働するための施設の建築をする彼らは、まさにヒーローの扱いであった。
それまでは人体を放射能と共存させる研究をしていた者たちも、これにより、放射能を防ぐ為の衣服や防具の開発に専念し始め、建築は一気に進んでいった。
世界が終わりかけた戦争から86年。東西南に新たな国が誕生していた。
生命の価値は戦争前とほぼ同じに戻ったが、人間が最も価値があり、その生命は平等だとする考え方が一般的となり、争いもなく穏やかな日々が続いた。
だが、戦争の火種は残されたままだった。
ようやく世界に平和が訪れた。そう思われていた6年後、放射能と共存出来る合成獣が開発された。
それは人よりも頑丈で、賢く、強い。
キメラを造った東の国は労働力としての開発であったが、他国から見ると、それは脅威以外の何物でもなかった。
これにより、キメラの開発が各国で進み、様々な能力を持ったキメラが造られた。
第4次大戦から約100年、各地で生物兵器を使った争いが頻発していた。
切っ掛けは曖昧な国境の侵犯についてだった。
1度終わりかけた世界には明確な国境が存在しておらず、そもそも国内から1歩出れば放射能に汚染された土地になるので、誰も気にしていなかった。
だが、キメラはその地を自由に闊歩出来る。その結果、汚染地域にも国境を作るべきだとする声が出始めていたのだ。
そして、1体の西のキメラが南へ飛んで行ってしまった事で、争いへと発展する。
争いは各地に飛び火して、とうとう生命を奪い始めた頃には手が付けられなくなっていた。
その頃には人間は既に戦場に立つ事は無かったが、争いに巻き込まれて多くの命が失われる現状がキメラの開発を推し進める結果となってしまった。
何故戦うのかすら分からずに、ただただ敵を殺すキメラ達。この争いはただの殺し合いでしかなかった。
誰もが世界の終わりを思い始めた頃、この状況を憂いた1人の研究者が、全てを終わらせる存在、最強の天使の開発に成功する。
僕とじいちゃんは、そこから先の事は分からない。
争いが激化した頃から、この島には誰も来なくなったから。
でも、この島は戦争とは無縁だから、何も分からなくても問題は無い。
たまに流れてくる死体はあるが、死体は何もしてこない。
だからこの島はいつも平和で穏やかだ。
ここは戦争の狭間。
誰も知らない小さな楽園。
きっと面白く無かっただろうと思いつつ、この後書きを書いています……。
すみません、次話からはプロローグ本編に戻ります!
ようやく天使との生活が始まる本編、お楽しみ頂けますと幸いです。
次話でも貴方とお会い出来ますように。