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プロローグ 2.天使

 長いプロローグの2話目となります。

 ここからのお話は本編に繋げる為にpixiv版から大幅に加筆修正しておりますので、pixiv版をご一読頂いた皆様にも違いを楽しんで頂けますと幸いです。

 それは、潮風に揺れる大きな白い翼だった。

 まるでそこだけが輝いているかのような不思議な存在が、漂着物に埋もれ横たわっている。

 ミルクのような白い肌に、淡い金の髪、そして背中から生えた真っ白な翼、歳は12〜13歳くらいだろうか。少女のような姿のその存在は、紛うことなき天使である。

 急いで周りの物を除けて天使を引っ張り出すと、天使は左半身に大きな怪我を負っていた。左腕は肩から下が失われ、頭からも出血していたのか、乾いた血が髪の毛にこびり付いている。よく見れば左翼も半分になっていた。

(生きてる……のか?)

 顔色は青白く、普通ならば生きているとは思えない状態だが、これは天使だ。人ではない。

(呼吸は……かなり微かだけど……ある)

 口元に耳を寄せて確認すると、僅かな息遣いを感じた。

(……………じいちゃん、ごめん!)

 僕は近くの倉庫まで走り、中から荷車とソリを出して、ソリだけ持って海岸へ戻る。

 荷車は砂浜では車輪が砂に埋もれて使えない。だからグッタリとしている天使をソリに乗せて倉庫の前まで引いて行き、荷車に乗せ換えるのだ。

 倉庫の前に着くと、荷車に乗せる為に天使を抱き上げる。意識の無い天使は、見た目にそぐわぬ重さがあった。

(こんなに小さくても、こんなに大きな翼があるんだもんな)

 荷車の荷台に天使を乗せて、僕は家路を急いだ。


 家に着くとそのまま風呂場へ向かい、()ずは怪我の確認をする。

 着ている服は戦闘服だろう。体にぴったりと張り付くその服は、どう脱がせたら良いのか分からないのでハサミで切る。少女の様な見た目だが、天使には性別が無いので裸を見てしまう事への罪悪感はあまり無い。

 僕はざっと怪我の確認をして、治療の必要は無さそうだと判断すると体の汚れを洗い流す。この温泉はきっと傷にも良いだろう。しかし、さすが天使と言うべきか、片腕と翼以外の怪我は治っている様だった。

 風呂場を出ると僕の夜着を着せて、使っていない部屋のベッドに寝かせた。この家は綺麗好きなじいちゃんが定期的に家中の掃除をしてくれるので、どの部屋も常に綺麗に保たれている。だから急な来客にも対応出来て有難い。

(来客なんてずいぶん久しいけどね)

 天使はよほど弱っているのだろう。目覚める気配が全く無い。怪我は薬を飲めば数日で治るだろうが、死んでもおかしくない程の大怪我なのだから、暫くは眠り続けるかもしれない。これが普通の人間ならば即死しているはずだから、即時回復は本当に凄い能力だ。

 僕は部屋を静かに出ると、これからの事を考えた。

(じいちゃんには暫く別宅に行ってもらうしかないだろう)

 天使は怪我の具合から、薬を飲めばおそらく1週間ほどで元気になって巣へ戻るはずだ。今夜中に薬を用意して、あとは服も用意しなければ。着ていた服はもう着れる状態ではないし、15歳男子の体型の僕の服だと天使には少し大きい。

(服を作るとなると明日は倉庫に行かないとだな)

 明日も大忙しになりそうだ。

 でも、それより先ずは、

「夕飯だな。」

 考える事はまだまだあるが、腹が減ってはなんとやら。僕は夕食の準備に向かった。


 昼に仕込みをしておいて良かった。下味の付いた鶏肉はあとは蒸すだけの状態なので、それを野菜と共に蒸釜に入れて、ついでにパンも温めれば夕食は完成だ。

 そろそろじいちゃんが帰って来る頃なので、急いで作り始める。

 今夜のメニューは鶏の香草蒸しと温野菜サラダとパンだ。パンは今朝、数日分をまとめて焼いていた。

(今あるパンはじいちゃんに持たせて、明日また焼くか)

 天使が居る間はじいちゃんとは別に暮らす事になるので、ひとまず手持ちのパンはじいちゃんに渡しておこう。

 夕食も別宅で食べるだろうから包まないとだ。

 僕は鶏肉と野菜を蒸釜に入れ、パンを4つ蓋の上に乗せると、食糧庫にある残りのパンを全部バスケットに入れる。

(あとは、チーズ…ジャム…)

 バスケットの中は食料でいっぱいになった。

(着替えとシーツも用意しないとな)

 別宅にもある程度の生活用品は揃っているが、こまめに掃除をしているわけではないので、衣類とシーツは持って行った方が良いだろう。

 バタバタと支度をしている内にじいちゃんが帰宅した。

「ただいま。……何かいるな。」

 さすがじいちゃん、鼻がいい。

「ごめん……打ち上げられてて……放っておけなかった。」

 じいちゃんにとって天使はとても危険な生き物だから、申し訳ない気持ちになる。

「生きてるって事は……天使か……。」

「うん。」

 じいちゃんはその会話だけで全てを察して、持っていた麻袋と籠を下ろし、

「わかった。俺は別宅に行くから、心配すんな。」

 僕の頭をポンポンと叩いて、用意しておいた食糧入りのバスケットを左手に持ち、衣類とシーツを縄でまとめた物を右手で抱える。

「夕飯を包むから、ちょっと待ってて。」

 僕は庭に出て蒸し上がった料理を弁当箱に詰め、温めたパン、小瓶に入れたマヨネーズと共に布で包みバスケットの上に載せた。

「たぶん長くて1週間くらいだと思う。その間は昼までに夕飯を作って持って行く。ただ、朝昼は自分で何とかしてくれ。」

「夕飯だけでもかなり助かる。自分で作るとイマイチな味になるからな。」

 じいちゃんはハハハと笑うと、

「じゃあ、頑張れよ。」

 そう言って別宅へ向かって歩き出す。

(ありがとな、じいちゃん)

 じいちゃんの背中を見送り、僕は残された麻袋と籠の中身を確認する。

 麻袋の中には大量の魚、籠には卵と大きなミルクの容器が2本入っていた。

(本当に、ありがとう)

 魚などを食糧庫に運び終わると、今度は自分の夕食の支度を始める。

 独りでご飯を食べるのは何時(いつ)ぶりだろうか。ほんの少しの寂しさが、何とも言えない心地にさせる。

(早く日常に戻れるといいなぁ)

 僕はぼんやりと過去を思い出す。

 あの頃はずっと独りだった。

 1人じゃないのに独りだった。

 天使もきっと同じだろう。そう思うと、何だか過去の自分を見ているような気がして堪らない気持ちになる。


【天使】

 ヒト型有翼特殊兵器。

 優れた身体能力と負傷時細胞活性反応による即時回復能力で、どんな環境下でも生存する事が可能な人工生命体。不死ではないが、心臓と脳の欠損率が80%未満であれば時間は掛かるが自己再生が可能。

 感情は無く、口頭による会話は不可。

 帰巣本能により現在地が不明でも巣へ戻る事が出来る。

 戦闘時は音波と電磁波攻撃で生物の脳や細胞に直接ダメージを負わせたり、機械を狂わせて戦闘不能状態にする。

 少女や少年の様な姿をしているが性別は無く、生殖能力も無い。


 僕が天使について知っているのは大体こんなところだ。

 ただ、ずいぶん昔の情報なので今もそうとは限らない。現在世界に何体存在しているのかも分からない。

(もしかすると、今は仲間に囲まれて楽しく過ごしていたりして)

 たとえ戦争中であっても、天使が笑顔で居られる場所があればいいのに。そんな事を考えながら僕は夕食を食べ終えていた。


 プロローグが長くて申し訳ないのですが、まだまだ続きます。

 たぶんあと2話……いや……3話……いや……もっとかも……。

 お付き合い頂けますと幸いです。

 次話でも貴方とお会い出来ますように。

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