プロローグ 1.嵐の置き土産
はじめまして、ミホコハクと申します。小説家になろう様では初投稿となります。
こちらの作品はpixiv様にてミホ名義で投稿した本作のプロローグ部分にあたる短編小説、常世の楽園に大幅な加筆・修正を加え、本編を新たに執筆する完全版となっております。
まだまだ拙い文章ですが、皆様どうぞよろしくお願い致します。
ここは常世の楽園
世界で1番幸せな島
3日間に渡る嵐が去り、朝日が水滴に反射してキラキラと大地に降り注ぐ。
昨日までの大雨が嘘のように、今日は雲ひとつ無い快晴だ。
僕は朝食を食べ終え皿を洗うと、すぐに裏庭で洗濯に取り掛かる。3日分の洗濯物は数が多くて大変だが、火山島であるこの島は一年中温暖な気候なので、朝干しておけば昼過ぎには全部乾くから朝の洗濯は大事な日課だ。
更に今日は嵐の置き土産の掃除や畑の被害状況の確認等もあるので、やる事が山のようにあって大忙しである。
この島には僕とじいちゃんの2人しか住民がいない。だからそれぞれが家事や仕事を分担して暮らしていて、体の小さい僕が料理と洗い物、力持ちのじいちゃんは掃除と家畜の世話を担い、農業は分担して野菜や果物を育てている。
島での暮らしは楽ではないが、毎日が充実していて僕にとっては最高の生活だ。
「洗濯おわり!」
風に揺れる洗濯物を眺めながら、腰に手をあて背を伸ばす。
先に朝食を食べ終えたじいちゃんは、島の被害を確認するため奔走している。僕はじいちゃんの分も畑の確認に行かなければ。
(ついでに少し野菜の収穫もしよう)
玄関にある収穫用の籠を背負うと、
「よし、行くか。」
先ずは家から1番遠い畑へ向かう。
どの畑も何度か様子を見に行っていたが、見てない間に何か起こっているのではと長雨の間は気が気でない。
何事もありませんように。そう祈りながら歩を進めた。
幸いな事に、畑はどれも大きな被害を免れていた。事前に風雨避けを作っていたのが功を奏したのだろう。畑仕事も長年やっていれば知恵が付く。これも年の功と言ったところか。とは言え、
(今回は無事だったけど、次も無事とは限らない。油断は禁物だな)
自然の恐ろしさを肝に銘じつつ、僕は各畑の風雨避けを片付けながら野菜をいくつか収穫して進み、最後に家の近くにある温室へと向かった。
温室は管理が難しいので、造った当初から僕が担当している。ここでは地熱発電による電力を用い、温度や湿度等の調節をする事で本来この島で育つはずのない野菜や穀物を育て、収穫していた。地熱は火山島の最大の利点である。
作物の状態や電気系統の確認を済ませると、こちらも問題が無さそうだったので、僕はレタスを1玉収穫して家で昼食の準備を始める事にした。
(昼はサンドイッチだな)
この3日間でずいぶん備蓄が減ってしまった食糧庫を眺めながら、メニューを決める。ここも温室と同じく温度調節が可能な為、低温貯蔵庫として重宝していた。
(そういえば魚が無いんだった。後でじいちゃんに釣りに行ってもらお)
食糧庫をぐるりと見回し足りない物を確認すると、必要な食材を取り出して台所へ向かう。
今日のお昼は採れたてのトマトとレタスとヤギのチーズを使った野菜サンドに、タマゴたっぷりのタマゴサンドだ。
時間の掛かる物から作るべく、僕は残っていた卵を全部、庭にある蒸釜に入れて温泉玉子にする。島では薪は貴重なので、料理には出来るだけ温泉の蒸気を使ったこの蒸釜を活用していた。
玉子を待つ間に、野菜サンドを作りテーブルに運ぶ。採れたばかりの野菜を使った野菜サンドは瑞々しくて食欲を唆られる。ついつい1つつまみ食いしてしまった。
温泉玉子が出来たら、殻を剥き、粗めに潰してマヨネーズと香草を混ぜ合わせ、それをパンに挟めばタマゴサンドの完成だ。
出来上がったサンドイッチと、たっぷりの水が入った水差しをテーブルに運び、昼食の準備が整ったところでタイミング良くじいちゃんが帰宅した。
「ただいま。」
「おかえり、ちょうど出来たところだよ。」
じいちゃんは手を洗うと僕の向かい側の席に座り、いただきますと言いながらタマゴサンドを食べ始める。
「島の方は大した被害はなかったが、そっちはどうだ?」
僕はカップに水を注いでじいちゃんと僕の前に置くと、野菜サンドに手を伸ばしながら、
「こっちも大丈夫そう。僕は夕飯の仕込みをしたら海岸の掃除に行くよ。」
この後の予定を伝える。
「じいちゃんは魚を釣って来てくれると助かる。備蓄がなくなっちゃったんだ。」
魚釣りはいつもじいちゃんに頼んでいた。じいちゃんなら僕が行けないような穴場にも行けて、大漁の魚を釣って帰ってくれるからだ。
「わかった。他は大丈夫か?」
「卵とミルクも欲しい。」
「りょーかい。帰りに小屋に寄ってくる。」
モグモグと口を動かしながらお互いに昼からの予定を話し合う内に、大量にあったサンドイッチはあっという間に無くなった。
「ごちそうさま。じゃ、行ってくる。」
食べ終えると直ぐさま席を立ち、釣り竿と大きな麻袋を持って、じいちゃんは穴場である北の海岸へと飛んで行った。
この島は半日歩けば1周出来る程の広さなのだが、北東には火山があり、西と東南の海岸以外は全て崖になっている。僕とじいちゃんは島の真ん中辺りに住んでいるが、東南の海岸は岩場が多く海鳥の生息地となっているので、行く事は滅多にない。特に僕は動物から嫌われる体質なので、生態系を守る為にも近付かないようにしているのだった。
「さてと、僕も掃除に行きますか。」
食事の後片付や夕飯の仕込み、乾いた洗濯物の取り込みを手早く済ませると、休む間もなく西の海岸の掃除に向かう。
嵐の後の海岸には沢山の漂着物がある。それはこの島では貴重な資源となる物も多いので、僕はまるで宝探しに行くような気分で海岸へと歩いて行った。
予想通り、砂浜には沢山の物が流れ着いていて、流木やビン缶それに金属片や謎の機械など、多種多様な何かがずらりと並んでいる。
「大量だなぁ……。」
僕は砂浜の右端から、使える物と使えない物を大雑把に分けて進む。西の海岸はそこそこ広いので、片付けるのに2日は掛かりそうだ。
ガラスや金属、機械類は溶かしたり修理をすれば再利用が出来るので、波に拐われない位置まで移動させて、この位置を使える物ラインとして置いていく。
流木も乾かせば薪に出来るのだが、大きな物は重くて動かない。これは明日じいちゃんに頼むとしよう。
布やビニール、プラスチックは劣化が激しいのでこのままにして、後でまとめてゴミ置き場に移動させれば効率が良い。
いる、いらない、いる、いらない。
黙々と作業は進み、半分ほど進んだところで陽が傾いている事に気が付いた。
「そろそろゴミに取り掛かるか〜。」
あと30分もすれば陽が沈む。
大きくひと伸びして海岸を見回すと、ふと、左端で何かが光ったような気がした。
(何だろう?)
まだ明るい海岸線に目を凝らす。
(白い……布?)
白い何かが風に揺れている。
(何でだろう……すごく気になる)
僕は何かに導かれるかのように、その白い何かへと近付いて行った。
この物語は私が子供の頃に設定だけ作り、いつか文字に起こしたいと温め続けていた世界なので、とても思い入れがあります。
まだまだ先は長いですが、どうかこの物語が貴方の心に何かを残せますようにと願うばかりです。
次話でも貴方にお会い出来ますように。