No.0004 告発の原点
USBの情報は衝撃だった。複数の取引先との【裏契約】の記録偽装請求書、そして、
「この文書あの上司の手によるものですね」
一ノ瀬凛の声がかすれ震えていた。花園も言葉を失った。
内容が事実であれば、資料の改ざん、データー持ち出しの問題ではないのだ。社内全体が揺らぎる大事件になる可能性が大きい。
「誰がリークしようとしたんですか?」
花園の問いにしばらく沈黙が続いた。一枚のスクリーンショットを開き、表示されたのは『匿名アカウント』から本社広報宛てに送られた告発メールの下書き、発信元は凛のパソコンだった。
「先輩・・・」沈んだ声で花園が言った。
凛は左右に首を振った。
「これは上司の手によるもの。私のパソコンを借りたまま、ログアウトし忘れ、下書きが残っていた」
つまり凛が"不正アクセス"したのではない。"使用された"ことにより、濡れ衣と言う結果を招いたのだ。その事実が消されたのはなぜか?
理由はUSBの中に。社内幹部の一人の名前と、その人が関与した資金の流れ、内部調査委員会のメンバーに彼の名前があること。
つまり、【情報隠蔽】、上層部の一部が"真実を埋めた"ということになるのだ。
花園は歯を食いしばった。怒り・悔しさ・言葉にできない感情を圧縮して・・・
「僕は信じていた、正しいことが味方になると・・・」
「えぇ、でもまだ終わってない」
花園は凛の前にUSBを差し出した。
「これを握った以上僕たちは選択が可能、沈黙に染まるか、それとも・・・」
「告発するか、ですね」
二人の声が意思が重なった。
凛は深呼吸し、
「その前に確認したいことがある」
[何を?」
「このデーターを最初に見つけた人は誰か?本当に上司なのか?」
その夜、二人は再びIT保守室を訪ねた。
鍵は花園が開けた。誰もいないはずの部屋に光が灯っていた。
「誰かいますよ・・・」
花園がつぶやいた瞬間、足音が逃げた。
モニターはログイン状態、画面にはUSBにあったデーターをコピーするウィンドが開いたままになっていた。
凛が、
「花園君、あの人が"真の告発者"なのかもしれない・・・」