No.0003 細工跡のログ始末
「このログ消えてますよね」
花園が指を指したのは社内サーバーのアクセス記録だった。一ノ瀬凛と調べ始めてから3日目。上司の失踪前日に使われていたはずのファイルが、ログ上には存在しない。
でも、物理サーバーにはアクセスの痕跡が残っていた。
「誰かが操作ログを消したってこと?」
「可能性はあり得るな・・・技術的にはバックドアか、専用権限を使えば・・・」
「それできる?」
「僕には無理 でも、社内にひとだけいます」
凛の指が止まった。
その名前は元上司が信頼していたシステム管理責任者。現在まったく関係ない部署に"異動"させられた人物だった。
「会って話してみますか?」
花園が言うと凛は一瞬口をつむり、ゆっくり首を縦に動かした。
午後別館の片隅にあるIT保守室。そこにその人物はいた。
「ログの件、急に言われても・・・・・」
疲れた目でモニターを見つめながら、彼は曖昧に笑って答えた。
続けて
「ただ一つだけ言えるとすれば、このファイルを消去したのは"私"じゃない」
そう言いながら、マウスを操作しながらファイルを開いた。
「えっ・・・」
「ファイルのタイムスタンプの通常の管理者権限じゃ触れない形式になっているから」
彼は無言で画面をズームした。そこには明らかに"社内の権限を超えた何者か"の操作した痕跡があった。
ログを消しデータを差し替え濡れ衣を仕組んだ何者かが・・・。
凛が小さく漏らす。
「この人も巻き込まれているんですね」
「ああ、でも俺は何も言っていない、これ以上輪をかけて巻き込まれるのはごめんだよ」
彼の眼はどこか怯えていた。
部屋を出た後花園は尋ねた。
「そのままどうやって真実を明らかにしましょう」
一ノ瀬は足を止めまっすぐ前をみつめたまま答えた。
「言葉が通じないなら、証拠を用意するしかありません」
「でもそれは・・・」
「私のやり方で明らかにします、何を言われても・・・」
「それでいいと思います。僕はあなたのやり方好きですよ」
花園は小さく微笑んだ。
その日の夜。
凛は無人の会議室に再び入り、USBメモリーを手にした。
そこには元上司が隠していた、もう一つのログが保存されていた。
その中には、内部告発に関する恐るべき内容、"ある幹部"の名前が明記されていた。