No.0001 価値ある勇気
会議室の空気をひんやり漂わせた。
「えっ・・・それ言う???」
誰かの小さな声が天井にはじける。ざわめきの中一人立っている一ノ瀬凛。
空気の読めない女?いや、読まないのか?または、雰囲気を読み取る考えがないのか?
彼女は上司の発言を真っ向から否定し企業案の矛盾を淡々と指摘した。言い方も表情もありのままで。
「数字が合いません、プレゼンの資料の6ページ、今朝と内容が変わってます」
会議の終わり、上司が
「ちょっと残ってくれる」
と低い声で言った。
周囲は目を合わせないように視線を落とし凛だけが素直に頷いた。
翌日・・・
その上司が突然社内から姿を消した。
机の上には、「内部告発・証拠資料」そして、凛の名前が記された書類。
「やっぱり、やったのはアイツじゃないの?」
「究極レベルの非常識だからなぁ・・・」
まわりの声は、凛の耳にはギリギリ届いていない。
凛は何も知らないまま、いつものようにオフィスに現れ、その瞬間空気は凍りついた。
「おはようございます」
誰も挨拶を交わさない。それでも何もなかったように、彼女は席に着き、モニターを付け業務を始めた。
凛の非常識の条件は"罪の意識がないこと"なのかもしれない。
でも、その奥にあるのは誰も知らない、彼女が持つ"正しさ"だった。