表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

所在不明のとある村で

作者: ふる吉

 とある森林地帯――――

 ドゴォォォッッーーーー!!!!

 何があった!? こんな派手な攻撃は予定していない。――敵か!

 前線の方に目を凝らすと、煙が漂っているのが微かに見えた。

「作戦は失敗!! 撤退だ、走れ!!」

 連絡を取っていた兵の叫びに、皆して雑木林を駆け抜ける。

 一網打尽を避けるため、各々別の方向へ。

 この森は方向感覚を狂わせる。方向を知るために方位魔石は必須だ。

 俺は撤退する中、左腕に着けた方位魔石を確認する。

 円盤型の小さな容器に入った魔石の欠片は、片寄ることなく中心に留まったままだ。

 

 ――方位魔石が、反応しない?

 故障したのか? それにしてはタイミングが悪過ぎる。

 併走する仲間に問う。

「レイト、方位魔石はどうだ?」

「ダメだ。魔石が動かない」

 やはり妨害されたか……くそっ、魔族め……!

 ドゴォォォォォッッッッーーーー!!!!!!!! 

 再び大きな音が響き渡った。

 最初より明らかに俺達から近い! このままでは追い付かれる!

 そんな中、レイトが口を開く。

「ジン、僕に策がある」

「策って……どんな策だ?」

「一刻を争う状態だ。悪いが言う通りに動いてくれないか?」

 策が何なのかは気になるが……レイトは冷静だし、レイトの風魔法は強力かつ応用が利く。

「ああ、分かった。お前を信じよう」

「よし、まずは――――」

 俺はレイトの指示通り、レイトの前で自分の身体に防御魔法をかけながら走った。

 指示が終わると、すぐにレイトは催促。

「――それじゃあ、行くよ」

「ああ。生き残ったら一杯やろうぜ」

「……そうだね」

 どことなく、気乗りしていないように聞こえた。

「今だ!!」

 すぐさま発されたレイトの合図に疑念を振り切り、俺は前方へ高く跳ぶ。

 その刹那、レイトの風魔法が俺の身体を覆った。

 そして――レイトは叫ぶ。


「僕を置いて逃げろ!! 引き返したら許さない!!」

 

 何!? ――まさか!

「おい!! ま――」

「<ウィンド・ジェット>!!」

 高出力の風魔法が俺の足元に放たれ、みるみる内にレイトの姿が小さくなっていく。


「レイトォォォォォォォォォーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


 俺が叫んだ直後――レイトのいたところは、煙に包まれた。


 

 ――もう、あれから五日が過ぎた。

 この森は、水辺も見つからなければ、食糧にもありつけない……。

 荷物を最小限にしたのが、裏目に出た……。

 《緑の要塞》と言うのも頷ける。

 ダメだ……意識を保て。一歩でも前へ。早く、拠点へ戻らなければ……。

「うっ……」

 そのまま前へ倒れる。

 急に、力が入らなくなった……。今にも、気を失いそうだ……。

 ――済まない、レイト。


 ――そうして、俺は力尽きた。




『――ジン。僕は、魔族全員が悪だとは思わない』

『んぁ? いやいや……優しい魔族なんて見たことねぇだろ? そんなこと、皆の前で言うなよ?』

『分かってる。でも……見たんだ。魔族が人間の子供を庇うところを』

『何? いやいや、見間違いじゃないのか?』

 ――ああ……そんなことを話してたな。

『それより、お前の彼女について詳しく聞かせろ! 生きて帰ったら、プロポーズするんだろ?』

『……ああ、僕には勿体ないくらい良い人だからな』

 レイトは幸せそうに、はにかんだ。


 そうだ――レイトには彼女がいた。

 どうしてだっ…………俺には誰もいないってのにっ……なんで俺を助けたっ……。

 彼女が悲しむだろうがっ……。

 俺は、お前みたいに優しくない。

 俺は、お前みたいに賢くない。

 お前が助かった方が、ずっと、良かったってのにっ。




「――っ…………」

 傍の窓から差し込む眩い光に、俺は目を覚ました。

 …………ここは、どこだ?

 身体を起き上がらせ辺りを見回す。

 木造建築の部屋で、俺が寝ている寝台の向かい側には木製の本棚と机があった。

 ――…………どうやら、誰かに命を救われたらしい。

 と、何やら足音が聴こえてくる。

 足音は大きくなっていき、寝台から向かって左奥の扉付近で足音が止まった。

 トントントンと、ノックが響き、扉が開く。

「おはよう……って、目が覚めたみたいだね」

 そう言って入って来たのは、背中まで掛かった長い黒髪の女性だった。

 そして――

 

 耳がとても長いっ! 魔族か――!

 肌の色は魔族と異なり白っぽいが……

 俺はすぐさま立ち上がり、警戒するよう構える。

「どうして俺を助けた?」

「……君は、魔族について誤解しているようだね」

 平然と彼女は答えた。

「ハッ、良く言うぜ。人間をさんざん苦しませておいて――」


『――僕は、魔族全員が悪だとは思わない』


「…………っ」

 レイトの言葉を思い出し、口を(つぐ)んだ。

「……どうして、俺を助けた?」

「困っている人は放っておけない(たち)なんだよ」

「…………」

 彼女はそう言うと、机の方へ向かい、左手に持っていた湯気の立ったカップを机の上に置いた。

 ほのかに紅茶の香りがする。

「良かったら、はちみつ入りの紅茶、飲んでね」


 魔族であることを除けば、悪い奴には見えない……。

 正直、魔族のことは憎いが……命の恩人でもあるし、この際、親友の言葉を信じてみるか。

「命を救ってくれたことには感謝するが……俺はお前を信じられない」

「うん、分かってる。だから、僕達の日常を見て判断してよ」

 食糧も無ければ、方位魔石も故障している。――…………仕方ないか。

「ああ、そうさせてもらう」

 俺がそう返すと、彼女は得意げに微笑んだ。


「――きっと、驚くと思うよ」



 彼女の不敵な笑みを、俺は五割――いや、七割は警戒していたが…………


「何だ……これは……?」

「どう? この様子を見た感想は?」

 そう言って、彼女はしたり顔。

 彼女の予想通り、俺はこの光景に驚愕した。

「俺は……夢でも見ているのか……?」

「夢じゃないよ」

 そう思うのも当然だった。

 

 ――人間と魔族が、仲良く生活していたのだから。

 村を行き交う人間と魔族の人々。

 その人々の中――夫婦、あるいはカップルだろうか。人間と魔族が手をつないで歩いている。

 そして、人間の肌と魔族の特融の耳を持った魔族がちらほら……――魔族なのか? ……まさか――

「これを見ても、僕の言う事が信じられない?」

「……いや、こんな光景見せられたら、流石に信じざるを得ない」

 俺は素直に答えると、彼女に頭を下げた。

「本当に申し訳なかった! 命を助けられたというのに、失礼な態度を取ってしまった! 許して欲しい!」

「いや、別にいいよ。慣れてるし」

 少し困惑したように彼女は答えた。

 ……許してもらえたのはいいが、

「せめて、何か礼を――」

「別にいいって。それより、君はまだ体力が回復してないんだから、先に休まないと」

「うっ……それもそうだな……本当に、済まない」

 彼女に諭されてしまった。

 色々と世話になっているようで……彼女には頭が上がらない。

 俺が少し気落ちしていると、彼女は気さくに口を開く。

「あ……まだ名乗ってなかったね。僕はチサキ・ルベーラ。気軽にチサキって呼んでね! 人間の母と魔族の父から生まれたハーフだよ」

「……っ、まさかとは思ったが、人間と魔族のハーフがいたとはな……。俺は、ジンだ」

 互いに名乗ると、彼女は俺に手を差し伸べた。

「ようこそ、僕達の村へ」



 ――俺はチサキに村長の下へ案内され、彼女と村長に俺が森で倒れた経緯を話した。

「――なるほど。よもや《緑の要塞》で魔族相手に偵察……あわよくば奇襲を仕掛けようとは」

 初老ながらも端正な顔立ちをした黒髪の男性。チサキの父であり、この村の村長――カズヤ・ルーベラは厳かに呟いた。

 俺は素朴な疑問を問う。

「あの……話は変わるのですが……なぜ、この村は魔族と人間が仲良く暮らしているんですか?」

「約二百年前――まだ魔族と人間が対立していなかった頃から、一部の地域では人と魔族は仲良く暮らしていたのだよ」

「そうなんですか!? そんな話、聞いたことがありません!」

 俺の反応に、村長は(おもむろ)に頷いた。

「そうだろうな。対立してからは、人間には魔族の悪行、魔族には人間の悪行が広まるようになったのだ。人間も魔族も、善人がいれば悪人もいる――ただ、それだけのことだというのに」

 村長は悲壮な面持ちで語った。


 俺は家族を魔族に殺され、魔族を憎んでいた。

 軍に入ったのも、魔族へ復讐するためだ。

 だがっ……俺がしてきたことは、間違いだったのかっ? 俺はどうすれば良かったっ?


 俺は目頭が熱くなるのを堪える。

 ――と、肩に温かい手の感触。

 振り向くと、穏やかな表情のチサキが、俺の肩に手を置いていた。

「大丈夫。ここの村には、君のような人もたくさんいるよ」

「私達は、魔族と人間が和解するために活動しているのだ」

 村長は娘の言葉に付け加えるように言うと、不意に俺へ頭を下げる。

「君が魔族を憎んでいるのは分かっている。だが……魔族と人間の和解に、どうか協力して欲しい」


『――僕は、魔族全員が悪だとは思わない』

『――見たんだ。魔族が人間の子供を庇うところを』


 レイトの言葉を再び思い返す――

 ――レイト、お前の言う通りだったよ。魔族には善人もいた。

 チサキとお前に救われた命だ。

 俺のやることは決まっている。

 それなら、足を止める暇はないよな。


「――分かりました。よろしくお願いします」

 

 そう言って――俺は魔族と手を交わすのだった。





 

 


 













 

 


お読みいただきありがとうございました!


よろしければ、感想、レビュー、お願いします!


※読者の皆さんの声次第では、続編を検討

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ