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所在不明のとある村で

作者: ふる吉
掲載日:2025/05/04

 とある森林地帯――――

 ドゴォォォッッーーーー!!!!

 何があった!? こんな派手な攻撃は予定していない。――敵か!

 前線の方に目を凝らすと、煙が漂っているのが微かに見えた。

「作戦は失敗!! 撤退だ、走れ!!」

 連絡を取っていた兵の叫びに、皆して雑木林を駆け抜ける。

 一網打尽を避けるため、各々別の方向へ。

 この森は方向感覚を狂わせる。方向を知るために方位魔石は必須だ。

 俺は撤退する中、左腕に着けた方位魔石を確認する。

 円盤型の小さな容器に入った魔石の欠片は、片寄ることなく中心に留まったままだ。

 

 ――方位魔石が、反応しない?

 故障したのか? それにしてはタイミングが悪過ぎる。

 併走する仲間に問う。

「レイト、方位魔石はどうだ?」

「ダメだ。魔石が動かない」

 やはり妨害されたか……くそっ、魔族め……!

 ドゴォォォォォッッッッーーーー!!!!!!!! 

 再び大きな音が響き渡った。

 最初より明らかに俺達から近い! このままでは追い付かれる!

 そんな中、レイトが口を開く。

「ジン、僕に策がある」

「策って……どんな策だ?」

「一刻を争う状態だ。悪いが言う通りに動いてくれないか?」

 策が何なのかは気になるが……レイトは冷静だし、レイトの風魔法は強力かつ応用が利く。

「ああ、分かった。お前を信じよう」

「よし、まずは――――」

 俺はレイトの指示通り、レイトの前で自分の身体に防御魔法をかけながら走った。

 指示が終わると、すぐにレイトは催促。

「――それじゃあ、行くよ」

「ああ。生き残ったら一杯やろうぜ」

「……そうだね」

 どことなく、気乗りしていないように聞こえた。

「今だ!!」

 すぐさま発されたレイトの合図に疑念を振り切り、俺は前方へ高く跳ぶ。

 その刹那、レイトの風魔法が俺の身体を覆った。

 そして――レイトは叫ぶ。


「僕を置いて逃げろ!! 引き返したら許さない!!」

 

 何!? ――まさか!

「おい!! ま――」

「<ウィンド・ジェット>!!」

 高出力の風魔法が俺の足元に放たれ、みるみる内にレイトの姿が小さくなっていく。


「レイトォォォォォォォォォーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


 俺が叫んだ直後――レイトのいたところは、煙に包まれた。


 

 ――もう、あれから五日が過ぎた。

 この森は、水辺も見つからなければ、食糧にもありつけない……。

 荷物を最小限にしたのが、裏目に出た……。

 《緑の要塞》と言うのも頷ける。

 ダメだ……意識を保て。一歩でも前へ。早く、拠点へ戻らなければ……。

「うっ……」

 そのまま前へ倒れる。

 急に、力が入らなくなった……。今にも、気を失いそうだ……。

 ――済まない、レイト。


 ――そうして、俺は力尽きた。




『――ジン。僕は、魔族全員が悪だとは思わない』

『んぁ? いやいや……優しい魔族なんて見たことねぇだろ? そんなこと、皆の前で言うなよ?』

『分かってる。でも……見たんだ。魔族が人間の子供を庇うところを』

『何? いやいや、見間違いじゃないのか?』

 ――ああ……そんなことを話してたな。

『それより、お前の彼女について詳しく聞かせろ! 生きて帰ったら、プロポーズするんだろ?』

『……ああ、僕には勿体ないくらい良い人だからな』

 レイトは幸せそうに、はにかんだ。


 そうだ――レイトには彼女がいた。

 どうしてだっ…………俺には誰もいないってのにっ……なんで俺を助けたっ……。

 彼女が悲しむだろうがっ……。

 俺は、お前みたいに優しくない。

 俺は、お前みたいに賢くない。

 お前が助かった方が、ずっと、良かったってのにっ。




「――っ…………」

 傍の窓から差し込む眩い光に、俺は目を覚ました。

 …………ここは、どこだ?

 身体を起き上がらせ辺りを見回す。

 木造建築の部屋で、俺が寝ている寝台の向かい側には木製の本棚と机があった。

 ――…………どうやら、誰かに命を救われたらしい。

 と、何やら足音が聴こえてくる。

 足音は大きくなっていき、寝台から向かって左奥の扉付近で足音が止まった。

 トントントンと、ノックが響き、扉が開く。

「おはよう……って、目が覚めたみたいだね」

 そう言って入って来たのは、背中まで掛かった長い黒髪の女性だった。

 そして――

 

 耳がとても長いっ! 魔族か――!

 肌の色は魔族と異なり白っぽいが……

 俺はすぐさま立ち上がり、警戒するよう構える。

「どうして俺を助けた?」

「……君は、魔族について誤解しているようだね」

 平然と彼女は答えた。

「ハッ、良く言うぜ。人間をさんざん苦しませておいて――」


『――僕は、魔族全員が悪だとは思わない』


「…………っ」

 レイトの言葉を思い出し、口を(つぐ)んだ。

「……どうして、俺を助けた?」

「困っている人は放っておけない(たち)なんだよ」

「…………」

 彼女はそう言うと、机の方へ向かい、左手に持っていた湯気の立ったカップを机の上に置いた。

 ほのかに紅茶の香りがする。

「良かったら、はちみつ入りの紅茶、飲んでね」


 魔族であることを除けば、悪い奴には見えない……。

 正直、魔族のことは憎いが……命の恩人でもあるし、この際、親友の言葉を信じてみるか。

「命を救ってくれたことには感謝するが……俺はお前を信じられない」

「うん、分かってる。だから、僕達の日常を見て判断してよ」

 食糧も無ければ、方位魔石も故障している。――…………仕方ないか。

「ああ、そうさせてもらう」

 俺がそう返すと、彼女は得意げに微笑んだ。


「――きっと、驚くと思うよ」



 彼女の不敵な笑みを、俺は五割――いや、七割は警戒していたが…………


「何だ……これは……?」

「どう? この様子を見た感想は?」

 そう言って、彼女はしたり顔。

 彼女の予想通り、俺はこの光景に驚愕した。

「俺は……夢でも見ているのか……?」

「夢じゃないよ」

 そう思うのも当然だった。

 

 ――人間と魔族が、仲良く生活していたのだから。

 村を行き交う人間と魔族の人々。

 その人々の中――夫婦、あるいはカップルだろうか。人間と魔族が手をつないで歩いている。

 そして、人間の肌と魔族の特融の耳を持った魔族がちらほら……――魔族なのか? ……まさか――

「これを見ても、僕の言う事が信じられない?」

「……いや、こんな光景見せられたら、流石に信じざるを得ない」

 俺は素直に答えると、彼女に頭を下げた。

「本当に申し訳なかった! 命を助けられたというのに、失礼な態度を取ってしまった! 許して欲しい!」

「いや、別にいいよ。慣れてるし」

 少し困惑したように彼女は答えた。

 ……許してもらえたのはいいが、

「せめて、何か礼を――」

「別にいいって。それより、君はまだ体力が回復してないんだから、先に休まないと」

「うっ……それもそうだな……本当に、済まない」

 彼女に諭されてしまった。

 色々と世話になっているようで……彼女には頭が上がらない。

 俺が少し気落ちしていると、彼女は気さくに口を開く。

「あ……まだ名乗ってなかったね。僕はチサキ・ルベーラ。気軽にチサキって呼んでね! 人間の母と魔族の父から生まれたハーフだよ」

「……っ、まさかとは思ったが、人間と魔族のハーフがいたとはな……。俺は、ジンだ」

 互いに名乗ると、彼女は俺に手を差し伸べた。

「ようこそ、僕達の村へ」



 ――俺はチサキに村長の下へ案内され、彼女と村長に俺が森で倒れた経緯を話した。

「――なるほど。よもや《緑の要塞》で魔族相手に偵察……あわよくば奇襲を仕掛けようとは」

 初老ながらも端正な顔立ちをした黒髪の男性。チサキの父であり、この村の村長――カズヤ・ルーベラは厳かに呟いた。

 俺は素朴な疑問を問う。

「あの……話は変わるのですが……なぜ、この村は魔族と人間が仲良く暮らしているんですか?」

「約二百年前――まだ魔族と人間が対立していなかった頃から、一部の地域では人と魔族は仲良く暮らしていたのだよ」

「そうなんですか!? そんな話、聞いたことがありません!」

 俺の反応に、村長は(おもむろ)に頷いた。

「そうだろうな。対立してからは、人間には魔族の悪行、魔族には人間の悪行が広まるようになったのだ。人間も魔族も、善人がいれば悪人もいる――ただ、それだけのことだというのに」

 村長は悲壮な面持ちで語った。


 俺は家族を魔族に殺され、魔族を憎んでいた。

 軍に入ったのも、魔族へ復讐するためだ。

 だがっ……俺がしてきたことは、間違いだったのかっ? 俺はどうすれば良かったっ?


 俺は目頭が熱くなるのを堪える。

 ――と、肩に温かい手の感触。

 振り向くと、穏やかな表情のチサキが、俺の肩に手を置いていた。

「大丈夫。ここの村には、君のような人もたくさんいるよ」

「私達は、魔族と人間が和解するために活動しているのだ」

 村長は娘の言葉に付け加えるように言うと、不意に俺へ頭を下げる。

「君が魔族を憎んでいるのは分かっている。だが……魔族と人間の和解に、どうか協力して欲しい」


『――僕は、魔族全員が悪だとは思わない』

『――見たんだ。魔族が人間の子供を庇うところを』


 レイトの言葉を再び思い返す――

 ――レイト、お前の言う通りだったよ。魔族には善人もいた。

 チサキとお前に救われた命だ。

 俺のやることは決まっている。

 それなら、足を止める暇はないよな。


「――分かりました。よろしくお願いします」

 

 そう言って――俺は魔族と手を交わすのだった。





 

 


 













 

 


お読みいただきありがとうございました!


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※読者の皆さんの声次第では、続編を検討

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