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6話 こちら魔界王立パンデモニウム女学園生徒会室


「それでは、これより会議を始める。今回の議題は――」


 パンデモニウム女学園の生徒会室にて生徒会長――ヴェルフェが開口一番に言う。

 今回の議題はいかにして生徒から学園に対する改善点や悩みごと、相談事を集めるかだ。


「知ってのとおり、我がパンデモニウム学園は創立されてから歴史が浅い。よって諸君からアイデアを募りたい」


 少し間を置いてから威勢よく「はい!」と手を挙げる者が。副生徒会長であるヴィクトリアだ。

 

「脳波を調べる装置を造れば生徒が何に悩んでいるか一目瞭然だよっ☆ アルファ波とベータ波の波長を読み取って――」

「却下だ。生徒の安全に関わるからのぅ」


 ぶーっとふてくされるヴィクトリアの横で手を挙げる者が。会計係であるキョンシーのテンだ。


「ワタシの秘術で生徒たちの魂に問いかければすぐ一発ネ!」

「それも却下だ。第一、ひとりずつやっていては時間がかかるわ」


 すると、手を挙げる者が。雑務係の真壁だ。


「俺のいたガッコじゃ、目安箱置いてそれで要望とか聞いてたぞ」

「メヤスバコとはなんでしょうか?」


 真壁の横で書記係のサキュバスのリリアが首を傾げる。


「あー……目安箱ってのは、生徒が要望を紙に書いてそれを箱に入れるんだ。まぁ中にはふざけたことを書くやつもいるけどな」

「なるほど……良いアイデアじゃな。それなら時間も手間もかからんじゃろうし……問題は箱じゃな」

「じゃボクが手頃なのを造るよ!」

 

 ゴーグルを装着したヴィクトリアが両腕を組みながら。


「そうか。ではよろしく頼むぞ。ヴィクトリア」

「まかせて!」


 ――三日後。ヴィクトリアから箱が完成したという知らせを聞いた生徒会役員一同は彼女の研究室兼自室にいた。

 

「やあやあ、みんなよく来てくれたね!」


 ヴィクトリアが両腕を広げながら一同を迎える。


「それでメヤスバコとやらに使う箱はどこかの?」


 ヴェルフェが辺りを見回す。すると、ヴィクトリアの後ろにこれ見よがしに白い布が被せられたものが。


「目安箱にしてはでかくないか? これ」


 真壁の言うとおり、それは布越しでも人ひとりがすっぽり入るほどの大きさだとわかる。


「まぁボクのような天才美少女発明家にかかれば非凡なものに出来上がるからね☆ それじゃお披露目といくよっ」


 ヴィクトリアが「じゃーん」と言いながら布を剥ぎ取るように。

 現れたのは箱――というより宝箱だ。


「わぁ! ステキな箱ですね!」


 リリアがぱちぱちと拍手。

 

「確かに立派だけど……これどうやって紙を入れるんだ?」


 真壁が箱を調べながら言う。見た限り紙を入れる穴は見当たらない。蓋を開けようとしてもびくともしなかった。


「ふふーん。ただの箱じゃないんだなコレが。まあ、まずはこの紙を近づけてみてよ」


 そう言って真壁に紙を渡す。

 

「どれどれ……『期末試験を無くしてください』? なんだこ」


 言い終わらないうちに箱がいきなり開いたかと思うと、真壁の半身を飲み込んだ。

 

「!?!? 痛たたたたっ! 暗いよぉおおおお!! 怖いよォオオオオオ!!」


 すっぽりと半身を宝箱に飲み込まれた真壁は両足をバタバタさせる。


「い、いかん! みんな真壁を助けるのじゃ!」


 ヴェルフェの一声で全員が真壁の両足を持つと、そのまま引っ張り出し、やっと箱から抜け出した真壁が一息つく。


「ぶはっ! 喰われるかと思ったぞ……」

「どうやら実験は成功だねっ」


 見るとヴィクトリアが自信満々にふふんと胸をそらす。


「なぁ……これはどういうことなんだ?」


 ヴィクトリアから手渡された紙を見せる。紙は食いちぎられてボロボロになっていた。


「え、だってイタルこないだ言ってたじゃん。ふざけた事を書くやつがいるって」


 ボロボロになった紙を受け取る。


「だから、ふざけた内容の紙が入れられたらさっきみたいに飲み込まれるトラップを造ったんだよ☆」

「だから三日かかったのか! 危うく窒息死するところだったぞ!」

 

 ぎゃあぎゃあとふたりの丁丁発止をヴェルフェが「もうよい!」と止める。


「とにかく、生徒を飲み込むトラップは安全に関わることじゃから却下じゃ。どんな内容であれ、生徒会は真摯(しんし)に受け止めるぞ」

 

 釘を刺されたヴィクトリアがえぇーっと落胆を。


「ボクのせっかくの自信作が……」

「と、とにかく、メヤスバコのことを全生徒に伝えねばなりませんね。全校集会をかけましょうか?」

「うむ。手はずは頼んだぞ。リリア。それと――」


 真壁の方を見る。


「こないだリリアの部屋で魔鉱石が見つかった件もあることじゃしな。ついでに魔鉱石を見かけた者にも名乗り出るよう伝えておこう」


 後日――。

 

 全校集会で目安箱のことが伝えられると、ただちに箱は要望の紙でいっぱいになった。


「すごいよ! 初日でこんなに集まるなんて!」


 生徒会室にてヴィクトリアが要望が書かれた紙を机にぶちまける。


「うわっ、すごいな……ざっと見て50枚くらいあるんじゃねーか? これ」

 

 真壁が紙の山を前にして言うと、そばでリリアが首を傾げる。


「ですが、何も書いてないのもありますね……」 

「ふむ、いたずらか何も書くことがなくて試しに入れたんじゃろうな」

「やっぱりボクの提案通りにすればよかったんじゃない?」

「空欄の紙10枚、名前を書いただけの紙が29枚、ちゃんと要望が書いてあるのが15枚ネ」

 

 テンが算盤(そろばん)をパチパチと弾かせながら言う。


「というか、ちゃんと要望が書いてあっても生徒会でどうにかなるもんじゃねーのばっかだな」


 そう言って真壁がひらひらと振ったのは『お金持ちになりたい』、『イケメンの彼氏が欲しい』や『今度の試験の内容を教えて』と言ったものばかりだ。


「じゃな……これでは選別するのも一苦労じゃのう……む、これは?」


 ヴェルフェが取り出した紙には『もっと良い部屋に住みたい』と書かれている。そこへ真壁が手を挙げた。


「あ、それ俺だわ。いい加減今の牢屋みたいな部屋に飽きてきたし」

「今のところ、部屋に空きはないんじゃ。それまで我慢するのじゃな。じゃが……」

 

 ヴェルフェが玉座を模した椅子の上に立ち上がる。

それでやっと全員と同じ目線に立つ。


「目安箱のアイデアを出してくれたこともあるしな……こうしよう。これらの要望を一定以上叶えてやったら考えてやらんこともない」

「ホントか!?」

「魔族に二言はない。わしの言葉を信じよ」

「よっしゃ! いい加減風呂に入りたいしな!」


 いつもは洗面器の水で拭くしかない真壁がガッツポーズを取る。

 一方、目安箱が置かれた廊下では黒髪の少女が箱の前に立っていた。


「…………」


 真壁やヴィクトリアのいるクラスの学級委員長を務めるスカーレット•ツェペシュはしばらく目安箱を見つめたのちに、ふんとそっぽを向くとその場を去った。

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