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39話 MISSION IMPOSSIBLE ワルキューレ・プロトコル


 シルヴィーの念話によって三人は本命である会場の裏側へと移動する。国王によれば魔鉱石は裏側にある塔に保管されているそうだ。


「見えたよ! あれがその塔みたいだね」

『待て! 地図によれば塔は四本あるみたいじゃぞ!』


 ヴェルフェからの念話で三人は思わず立ち止まる。辺りを見回すと、確かに四本建っている。


「ど、どの塔なのでしょう?」

『ピンク! 地図になにか手がかりは書いてないのか!?』


 真壁が念話で尋ねるが、回答は得られなかった。


「一軒ずつ調べてたら時間がかかる……! なにか手は……」

「しっ! 警備兵がきます!」


 リリアが唇に指を当てながら。

 

「とにかく隠れるよ!」


 三人はふたたび(やぶ)のなかへと身を隠す。そこから様子をうかがうと、ふたりの警備兵がこちらに向かってくるのが見えた。


「あの警備兵を問い詰めれば手がかりがつかめるかも……」

「一人だけならまだしも、ふたりじゃさすがの俺たちでも手に余るぞ」


 どうするか考えあぐねていると、リリアが藪から出ようとする。


「私に考えがあります。真壁さんはひとりを眠らせてください」

「大丈夫なのかい? あんたがサキュバスとはいえ、警備兵はさすがに色仕掛けには乗らないよ」

「大丈夫です。私に任せてください」


 ◇◆◇


「……ったく、今日非番なのにいきなりかり出されるなんてな」

「そうぼやくなよ。本命はこっちなんだし」


 他愛のない会話を交わすふたりの警備兵の前に少女が近寄ってくる。

 思わぬ来訪者に警備兵たちはぎょっとし、ふたり同時に槍を構えた。


「だ、誰だ!?」

「曲者め! 名を……っ!」


 ひとりが首元を押さえたときにはすでに倒れ、真壁の発した麻酔弾で眠りにつく。


「お、おいっ! 大丈夫か!?」

「あの」


 リリアがさらに近寄る。


「よければ、私と()()()()しませんか?」


 桃色の瞳孔が露わになったサキュバスの少女はぺろりと舌なめずりを。


「貴様……! 色仕掛けで来ようとも俺には効かんぞ!」


 ◇◆◇


「……石が保管されている塔はここから北東の塔です」

「なるほど、わかりました。その塔にはなにかトラップはありますか?」

「あっ! 質量感知というトラップが、あっあっありますぅうう!」

「良い子ですね♡ そのトラップを詳しく教えてください」


 リリアの膝に乗せられた兵士の頭部を優しくマッサージすると、ふたたび兵士から喘ぎに似た声が漏れる。

 リリアいわく、サキュバス秘伝のマッサージだそうな。サキュバスは巧みな指使いで兵士から情報を引き出していく。


「あっあっ! 床一面にぃっ! なにか重さを感じるとっ、あっ! 警報が作動しますっ」

「ありがとうございます。ではゆっくり休んでください」


 真壁のほうへ頷き、麻酔弾が発射されると兵士はすぐに眠りについた。


「……やっぱりあたしが見込んだとおり、盗賊の才能あるよ。あんた」

「……ちょっとフクザツな気分です」


 兵士から得た情報をもとに三人はすぐさま北東の塔へと向かう。


 十分後。


 三人は警備兵の目をかいくぐり、北東の塔の下にいた。門の前にいる警備兵を麻酔弾で眠らせ、あらためて塔を見上げる。


「高いな……30メートル以上はありそうだな」

「この扉、複雑な鍵で閉じられてるからさすがのあたしでも骨が折れそうだよ」


 ティアが頑丈な扉をコンコンと叩きながら。


「あの、あそこから入れないでしょうか?」


 リリアが指さしたのは塔の上部のほうで、窓らしき穴があいている。


「あそこから入れそうだね」

「だな。リリア、グラップネルガンで登るから俺に掴まっててくれ」

「はいっ」


 ティアが爪を伸ばし、石壁に手をかけながら登っていく一方、真壁はグラップネルガンを発射させてフックを窓枠に引っ掛けた。


「これでよし。さ、つかまって」

「こ、これでいいですか?」


 真壁の首に手を回し、自らの豊満な胸を密着させるように抱きつく。


「お、おお。んじゃ登るぞ」


 トリガーを引くとワイヤーが巻き取られ、ふたりを上へと引っ張り上げる。


「スゲーな! やっぱヴィックは天才だな!」

「あ、あの真壁さん? なにか固いものが私のお腹に当たってるのですが……」

「へ? あ、あー悪い! ベルトの金具が当たってるんだな! うん!」

「それ、ホントにベルトの金具なのかい?」

 

 ティアが壁に手をかけながら疑念の眼差しを。

 程なくして三人は窓に到達し、中へと潜入する。だが、そこには何もない部屋だ。


「何もないですね……」

「場所を間違えたのかね?」

「待て、ゴーグルで調べてみる」


 ヴィクトリアから借り受けたゴーグルを下ろして装着し、レンズを回して測定を開始する。

 辺りを見回すと、わずかに反応が。


「魔鉱石の反応があるな……でもこの部屋じゃないみたいだ」


 さらに辺りをうかがうと、魔力量の測定に変化が見られた。床を見るとさらに変化が。


「ここだ! この下にあるみたいだ!」

「ホントかい!?」


 ティアが屈んで、床を慎重に叩く。すると一箇所だけ異なる音がした。


「ここだけ外れるみたいだね」


 ナイフを取り出し、刃先を溝に差し込んでテコの原理でこじ開ける。

 ぽっかりと開いた穴から三人が見下ろす。

 そこには部屋の中央に台座が設置され、そこには――


「ビンゴ! 魔鉱石だね」

「兵士さんがトラップがあると言ってました!」

「ああ、質量感知トラップだったよな?」


 ゴーグルで階下の部屋を測定する。レンズを回しながらすみずみまで調査を。


「やっぱりトラップがあるのかい?」

「ああ。だが、トラップは台座の周りだけみたいだ」

「どうやって取ればいいのでしょうか?」


 するとティアがベルトから道具を取り出す。


「どうやらこいつの出番みたいだね」


 取り出したのは折りたたみ式の滑車(かっしゃ)だ。穴に固定させ、その上にワイヤーを垂らす。


「あたしとリリアでワイヤーを押さえてるから、あんたは魔鉱石を取りに行くんだよ」

「へい、お頭」

「降りる前に会場の様子を聞いたほうがいいね」


 思念の指輪で遠く離れた会場にいるシルヴィーに念を。


『シルバー、そっちはどうだい?』

『国王のアホがパチモンを披露しながらえんえん自慢話してるわ』


 念話を終え、頷く。


「よし、この分だとまだ時間に余裕はあるね。さ、これをベルトに取り付けて」


 渡されたワイヤーの金具をベルトの後ろに取り付け、真壁は穴から慎重に降りていく。

 ティアとリリアのふたりがワイヤーをゆっくり緩め、真壁は台座めざして降りる。

 だが、台座までは少し離れているようだ。


「ちょっと遠いな……なんとかならないか?」

「身体を前後に揺らせないかい?」

「わかった。もう少し下ろしてくれ」

「あいよ」

 

 ティアがワイヤーを緩めようとしたときだ。彼女の横で何かが動く。それを認めたとき、「ひっ」と悲鳴をあげ、思わずワイヤーを握る手を離してしまう。


「おわっ!」


 いきなりがくんと下がり、質量感知トラップの床が顔面すれすれまで近づく。

 床とはたった十センチほどしか離れていない真壁は床に触れないよう、両手両足を伸ばしてなんとかバランスを取る。


「だ、大丈夫ですか!?」


 とっさにワイヤーをつかんだリリアが尋ねる。


「あ、ああ! 大丈夫だ。なんとか、な。何があったんだ?」

「それが……」

『ネズミ! ネズミィイイイ!』


 いきなりティアの念話が頭に響く。


「お前、猫の獣人なのにネズミが苦手なのかよ!」

「しょーがないだろ! ネズミは子どものころからニガテなんだよ!」

「あ、あの! ワイヤーつかんでてください!」 


 リリアの力が弱まってきたためか、ふたたびがくんと下がる。

 

「うおっ!」


 今度はたったの数センチしか離れていない。両手両足を伸ばしながら水平に動かしてなんとかバランスを取る。

 ようやくバランスが取れるとほっと一息つく。だが、依然として台座までの距離は変わらない。

 

「なあ、もう少し上げれないか?」

「ムリだ! 腕に力が入らなくなりそうだよ!」

「私もです!」

「マジか……」


 額の汗を拭い、溜息を漏らす。

 

さて、どうする……?


 ベルトに手が触れ、硬い感触が伝わる。


「これだ!」


 ベルトに差し込んだグラップネルガンを床に触れないよう、慎重に取り出して構える。狙うは台座だ。

 トリガーを引くとフックは台座の下部分に引っかかった。ふたたびトリガーを引くと、真壁の身体はそのまま台座へと引き寄せられる。


「やった!」


『でかした!』

『ヒヤヒヤしたヨ!』

『さっさとしーや! もうすぐ魔力が切れそうなんよ。こっちは!』


 頭のなかで念話が飛び交うなか、真壁は台座の透明ケースを外す。

 外したケースを両足で挟み、ベルベットの敷布に安置されたものをあらためて見る。手のひらほどの大きさだ。


「この大きさだと10%以上は間違いないな……」


 念のため、ゴーグルを装着して魔鉱石を鑑定する。すぐに魔力量が測定された。


「本物だ」

「よし。さっさとここからおさらばするよ!」


 石を手に取り、黒装束の胸ポケットへとしまう。


「OK。引き上げてくれ」


 グラップネルガンをベルトに差し込むと、そのままワイヤーで上昇を。

 するすると上へ昇っていき、真壁が屋根裏の穴から顔を出す。


「やったね。あんたならやってくれると思ってたよ。さ、手を」

「ああ」


 差し出されたティアの手を掴もうとしたとき――


 ベルトに差し込んだグラップネルガンがするりと抜け、そのまま下へと落ちていく。

 真壁とティアが呆気(あっけ)にとられるなか、グラップネルガンは台座に一度当たったのちに床へと。

 金属音が響くのと同時にけたたましい音が鳴り響いた。

 真壁とティアが互いに見つめ合うと、すぐにその場を脱出した。鳴り止まない警報を背に受けながら。


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