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38話 ダーク・テールズ5


 生徒会一行が作戦会議を終えた日の翌日の夜――

 すなわち、魔鉱石のお披露目会の日。

 ひゅるるると音がしたかと思うと、夜空に花火が打ち上げられた。次いで色違いの花火が打ち上げられ、黄金色の玉ねぎ形の屋根を照らす。

 極彩色に彩られた夜空の下、一台の馬車が王城から少し離れたところに停まる。

 幌が張られた荷台ではそれぞれが準備を整えているところだ。


「いよいよ作戦開始だよ」

 

 盗賊の黒装束に身を包んだお頭ことティアが言う。

 

「おう」


 真壁がリボルバーのシリンダーに麻酔弾を込めながら。計十発なので残りの四発はガンベルトの弾丸入れに収め、最後に消音器(サイレンサー)付きのリボルバーをホルスターに収めた。


「いよいよですね!」


 リリアが自ら作成した黒装束に身を包みながらむんっと自ら鼓舞するように。むろん真壁も同様のものを着ている。


「ピンクとパープルはここで待機。脱出のタイミングは念話でね」

「うむ。気をつけるのじゃぞ」

「武運を祈ってるヨ!」


 御者台に座るふたりが同時に頷く。


「それじゃまずはシルバー、会場への潜入頼んだよ」

「ええ、任せて」


 すでに魔術による幻視で見目麗しい金髪のうら若き女性へと姿を変えたシルヴィーが扇子で口元を覆いながら。

 その様はどこからどう見ても深窓の令嬢そのものだ。


(なま)りまで抑えてるとは……さすがだね。っと、忘れるとこだった。これを」


 ティアが取り出したのは黒い球体だ。


「あたしが調合した煙幕弾さ。いざというときに頼りになるはずだよ」

「ありがとう。いざというときが来ないことを祈っておりますわ」


 煙幕弾をポケットにしまうとシルヴィーは馬車から降りて会場へと向かう。


「それじゃあたしらは予定通り会場の窓の下に向うよ! ブラック! ブロンド!」

「はいっ!」

「承知でござる! お頭!」

「……その変な語尾やめてくんない? なんか調子狂うからさ」

 

 ◇◆◇


 会場の入口では名だたる貴族がそれぞれきらびやかな衣装に身を包みながら列を作っている。当然その中には令嬢に扮したシルヴィーも。


「よし、どうぞお入りください」


 衛兵によるチェックを終え、貴族たちが続々と会場へ入っていき、シルヴィーの番までもうすぐだ。

 

『兵士のチェックがあるみたいやね。ま、ウチの変装は完璧やから問題ないやろ』


 念話で一行に状況を伝えていると、目の前の婦人が封筒を衛兵に差し出すのが見えた。


「どうぞ。()()()ですわ」

「うむ確かに。どうぞ」

 

――まずい!


『招待状!?』


 異口同音が念話で流れる。


『どうするのじゃ!? 招待状がなくては入れんぞ!』

『今から用意できねーのか!?』

『ムリや! もうすぐウチの番や!』


 そこへ衛兵が「招待状を」と催促してきた。


『くっ! しかたあらへん!』


「あ、あの……実は招待状を家に忘れてしまいましたの。そこをなんとか」

「招待状がなければ何人たりとも入ることは許されません」

 

 苦肉の策は衛兵の非情な物言いでぴしゃりと遮られる。


『ど、どうすればいいのでしょうか……!?』

『落ち着くんだ! ここで慌ててもどうにもならないよ!』

『ワタシの計算だと成功率ガ――』

『ええい! 黙っとき!』


 どうするか考えあぐねていると、衛兵の背後から声をかけるものが。


「どうしたのかえ?」


 ブルジア国王がでっぷりとした腹を揺すりながら言う。


「は、申し訳ございません。こちらの方が招待状をお持ちでなかったので……」

「なに?」


 国王はシルヴィーを頭から爪先までじろじろと舐め回すように見つめたのちに、にやりと口を歪める。


「ああよいよい! わしが許そう!」

「し、しかし。素性の知れない者を入れるわけには……」

「くどい! わしが決めたんじゃ! それともわしのやり方に文句でもあるのかえ?」

「いえ、滅相もございません!」


 国王はシルヴィーを手招きしながら、むふんとほくそ笑む。


「あ、あの本当によろしいのでしょうか?」

「よいよい! あなたのような美しい御令嬢なら文句は言わせんぞえ! おっと申し遅れましたな。この国を預かる国王、ガメッツイ・ブルジアじゃ」


 そのままシルヴィーの手を取り、ちゅぱっと音を立てながら口づけを。

 

「お、お招きにあずかり光栄ですわ……」


 ひくひくと顔を引きつらせながらもなんとか笑顔を貼り付ける。


『なんとか、上手くいったみたいだね……』

『だな。んじゃ次のフェーズだ』


 ◇◆◇


 ティア、真壁、リリアの三人は予定通り会場の窓の下の近くまできた。

 三人は(やぶ)のなかから様子を伺う。その視線の先には見回りの兵士が槍を手にして歩いている。


「警備兵か。やっかいだね」

「どうしましょう?」

「俺に任せとけ。こいつの出番みたいだ」


 そう言って取り出したのはリボルバーだ。むろん弾丸は麻酔弾だ。

 藪からそろりと出、忍び足で兵士のところまで近づく。兵士がふわあっとあくびをするところへリボルバーを構え、トリガーを引いた。

 空気の抜ける音がしたかと思うと、麻酔針の付いた弾丸は兵士の首に命中する。


「……っ!」


 何が起きたかも分からずに兵士はその場でどさりと倒れ、そのまま眠り込んだ。


「へへっ。いっちょあがり!」

「おい! 何をしてる!?」

 

 別の兵士が槍を構えながら誰何(すいか)を。だが、次の瞬間にはその兵士も倒れ込んだ。


「背後にも注意だよ」


 手刀を喰らわせたティアが言う。


「さんきゅ! 助かった!」


 ふたりの兵士を藪の中に隠し、あらためて窓の下へと。窓までの高さは下見通り、約42メートルといったところだ。


「さてと、あとはシルバーの合図を待つだけだね」

「合図がきたら、このグラップネルガンで窓まで登るってわけだ」

「次に私たちが煙幕弾を投げてその隙に魔鉱石を奪うということですよね」


 段取りを確認し頷く。


『シルバー、こっちは窓の下に来たよ。合図はまだかい?』

『まだや。国王のアホがしつこいんや』


 その頃、シルヴィーは延々と国王から自慢話を聞かされているところだった。


「――というわけで、やっと魔鉱石を落札したのじゃ」

「まあ。陛下はお金持ちであらせられますのね」

「ふほほほ。わしの手に入らないものはこの世にはありませんでな」


 左右に長く伸びた(ひげ)を指で引っ張りながら。依然として視線はシルヴィーの豊満な胸に注がれている。

 シルヴィーは睨めつけるような視線になんとか表情を崩さないよう堪えて言う。


「あの、その魔鉱石はどこで展示されるのでしょうか?」

「あちらの台座ですよ。もっとも今は布がかけてありますが」


 国王が指さす先には確かに布が被せられた展示台が。


「時間が来たらわしが紹介する手はずになっておりますのでな」

「楽しみにしてますわ」


『……おかしい。妙や』


 シルヴィーの疑念が念話で全員に伝わる。


『どういうことさ? 魔鉱石はここにあるんだろ?』

『兵士の数が少ないんや。希少な魔鉱石のお披露目会にしてはな』


 ティアの問いにシルヴィーが答える。


『もうちっと探ってみるわ』


 シルヴィーがさらに国王に近づく。それこそ豊満な胸が国王の腕に当たるくらいに。


「ど、どうされましたかな?」

「見張りの兵の数が少ないように思いますの。このままでは簡単に泥棒に入られてしまうのではないかと思うと、怖くて……」


 ぎゅっと国王の腕を握る。それに気をよくした王はにんまりと微笑む。


「ふほほほ。あなたがご心配なさることはありませんよ!」

「でも……」

「あなたには特別に教えてあげましょう。実はあそこにあるのはよく出来たイミテーションでして、本物は別の場所に保管してあるのですじゃ」


『別の場所か!』

『ここじゃないってのか!?』

『ど、どこなのでしょうか?』


 窓の下で待ち構えている三人の念話を無視してシルヴィーはさらに問う。


「大丈夫なのでしょうか? もしかしたら……」


 国王が目の前でちっちっちと指を振りながら。


「本物はこの裏側の塔にあるのです。もちろん警備は厳重ですよ♡」


 そこへ宰相が「お時間です」と声をかけたので、国王はその場を後にした。


「それではまた後ほどお会いしましょう」

「え、ええ……」


『聞こえたろ? 裏側の塔にあるみたいやで』

『OK、これから塔に向うよ!』


 念話を終えたティアはふたりのほうを振り向く。


「どうやら目当ての物はここじゃなくて別の場所だね。さぁ行くよ!」

「はいっ!」

「合点でござる! お頭!」

「……その『ござる』ってのやめろっつーの」


 三人は闇に紛れながらその場を後にする。向かうは裏側にある塔へと――。


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