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37話 オペレーション∶ワルキューレ


 翌朝。

 王城の豪奢な食堂の長テーブル上にはこれまた豪華な食事が並ぶ。

 テーブルの端でターバンを頭に被り、でっぷりと突き出た腹を揺すりながらガメッツイ・ブルジア国王は目の前の料理にかぶりつく。


「うぅ〜ん♡ ンまぁあ〜〜いっ!」


 この国ではなかなか口に入らない魚のムニエルをむしゃむしゃと咀嚼(そしゃく)を。


「お気に召していただけたようで何よりです」


 傍らに立つコックがコック帽を手に取りながらお辞儀する。


「よいよい。わしは満足じゃ……んがっ」


 いきなり国王が口の中に指を入れた。唾液が付いたものを取り出す。魚の骨だ。


「ほ、骨じゃ! わしを殺すつもりだったのかえ!?」

「めめめ、滅相もございません! 骨はすべて取り除いたのかと……!」


 すぐさま床にひれ伏し、「どうかお許しを!」と懇願する。だが、腹の虫が治まらない王は衛兵を呼びつけた。


「こやつを引っ立てぃ! 暗殺の疑いで処刑じゃ!」

「そんな! どうか、どうかお慈悲を……!」


 だが無情にもコックは二人の屈強な衛兵によって連れ去られ、ばたんと扉が閉まる。


「わしの命を狙うとは……不届き者めが」


 取り出した骨を指でぴんと弾く。


「陛下、お怪我はありませんか?」

「うむ。大事ない」


 宰相にそう答え、ふわあっとあくびをひとつ。


「ときに陛下、明日の夜の催しですが……」

「ん? おお、希少な石のお披露目会じゃな。もっともあの石は(ちまた)では魔鉱石と呼ばれとるようじゃな」

「は、その会場なのですが、警備兵の数を増やしてはいかがでしょうか? 現時点での兵の数はいささか心許ない気がするのですが……」


 すると国王がにやりと口を歪めた。


「わしにはわしの考えがあるのじゃ。心配はいらん」

「さようでございますか。さすがは陛下であらせられます」


 褒めそやされて上機嫌な国王は左右に長く伸びた(ひげ)をつまんで引っ張る。


「万事わしに任せておけ」


 ◇◆◇


 コックが引っ立てられた頃、一行は王城の近くまできていた。

 陽が差しているのでヴェルフェ、リリア、テンの三人は太陽光を遮断するケーブを頭から全身まで覆う。


「ここが王城、そしてお披露目会の会場となる場所だよ」


 ダークことティアが顎でしゃくる。


「昨日、言ったように会場の下見はあたしら三人で行くからね」

「うむ。わしらは脱出経路の確認じゃな。ゆくぞテ……いやパープル!」

「ラジャー!」


 パープルことテンが敬礼を。


 ヴェルフェとテンが市街に行ったのを見届け、ティアがふたたび会場を見やる。


「さて、下見だけどどうやって入るかね……」


 真壁がふと会場の入口を見た。入口からは会場の準備で大忙しのスタッフが出たり入ったりしている。


「名案があるぜ」


 ◇◆◇


「おう新入り! 次はその荷物をそっちに運んでくれ!」


 スタッフに扮した三人が現場監督の指示のもと、荷運びを。

 指定された場所に箱を置き、真壁がふぅっとひと息つく。ティアも同様に額の汗をぬぐう。


「なるほど、これなら怪しまれずに会場の下見ができるね」

「いえいえそれほどでも。お頭」


 ティアがしっと唇に指を当てる。


『ここからは念話で話そう。これなら会話を聞かれる心配もないからね』

『OK』


 シルヴィーから受け取った魔道具『思念の指輪』でふたりは会話を交わす。

 そこへ別の人物からの念話が頭に飛び込んできた。


『さっさと会場の奥行きとか高さとか報告しーや』


 シルヴィーからだ。真壁が慌てて額につけたゴーグルを下ろして装着する。

 レンズを回しながら会場の奥行きや高さを測定していく。


『えっと……入口から魔鉱石をお披露目する台座までの距離が約32メートル、高さが……』


 頭上を見上げる。かなりの高さの天井だ。壁にはアーチ状の窓がある。


『だいたい45メートルかな』

『OK。これで会場の正確な見取り図がつくれるで』

『そのゴーグル便利だけど、怪しまれないのかい?』


 すると真壁がちっちっちと指を振りながら。


『リリアのほう見てみろ』

 

 彼女のほうを見ると、スタッフと一緒に荷を運んでいるところだ。

 心なしか男性スタッフの鼻息が荒いように見える。


「あ、あの……この荷物、そんなに重くないですから私ひとりで大丈夫ですよ?」

「いいや! 何かあってからでは遅いんだ! おじさんにまかせなさい!」

「はぁ……」

 

 鼻息荒くするスタッフの目線は荷物の上に載せたリリアの豊満な膨らみだ。

 やがて指定された場所に荷を置き、ふうっとひと息つくと、今度は別のスタッフから声をかけられた。


「き、きみ。今度はこの荷物を僕と一緒に運んでくれないかな?」

「それくらいお前ひとりで運べるだろ! ささ、おじさんと一緒にこの荷を!」

「抜けがけするな! この荷物をあそこまで一緒に運んでほしいんだ。ちょっと遠いけど……」


 当然ながらスタッフの視線は彼女に集まり、ティアと真壁には一瞥(いちべつ)もくれない。


『……男って単純だね』


 ◇◆◇


 その頃、ヴェルフェとテンは脱出経路の確認のため、市街地にいた。


「この地図によれば城壁の出入り口はいくつかあるようじゃな」

「でも入り組んでてわかりづらいヨ」


 テンの言うとおり市街地は屋台が並び、路地は迷路のように入り組んでいる。


「脱出の際は馬車で行くからのぅ。馬車が通れる通路の確認もせんとな……」


 先を進もうとしたとき、目の前にみすぼらしい身なりの少女が立っていた。

 昨日、リリアがパンをやった少女だ。彼女もふたりに気づいたのか、近寄ってくる。


「どうしたの?」

「お主、また性懲りもなく金の無心か?」


 ヴェルフェの問いに少女がふるふると首を横に振る。


「パンのおれいしたい」

「礼じゃと? お主、意外と義理堅いのじゃな」

「それなら経路を教えてほしいネ」


 テンあらためパープルが地図を見せながら言う。むろん脱出経路の確保のことは伏せてある。

 少女はこくりと頷くと、付いてきてと手招きした。


「願ってもない僥倖(ぎょうこう)じゃな! ゆくぞパープル!」

合点(がってん)だヨ。ピンク」


 三人は入り組んだ道かつ馬車が通れる経路を歩き、テンがペンで地図に脱出経路のルートをなぞっていく。

 しばらく歩くと目の前に門が見えた。ゴール地点である。


「でかした! これなら馬車に乗ったまま外に出られるな!」

「マッピング完了だヨ!」


 経路の確保に意気揚々とするふたりを少女がじっと見つめる。


「む、そうじゃ。これは礼じゃ」


 ヴェルフェが屋台からリンゴを購入し、それを少女に渡す。

 少女がわあぁっと顔をほころばせる。


「あ、ありがと……!」

「うむ、苦しゅうない。労働に見合った対価を手にするのは当然のことじゃ」


 少女はリンゴを大事そうに抱え、たたたっとその場を後にした。


「……のぅパープル」

「どうしたネ? ピンク」

「いや、ふと思ってな。もしわしが父の跡を受け継いだ(あかつき)には貧富の差のない世界を作ろうと思うのじゃ」


 どうじゃろうか?とテンのほうを見る。すると会計係のキョンシーはこくりと頷きながらサムズアップを。


「なんだか照れくさいのぅ……よし、念のため元のルートをたどるぞ」

「合点だヨ」


 ◇◆◇


 その日の夜――

 夕食を終えた一行がティアの部屋に集まり、調査報告を。


「あんたらの報告で見取り図できたで」


 煙管を咥えたシルヴィーがテーブル上にばさりと紙を広げる。

 正方形の枠のなかには真壁たちの報告をもとにして描かれた細部や距離が書かれている。


「台座から近い壁の上に窓があったから潜入するのはそこが一番だね」


 ティアが見取り図に描かれた窓を指さしながら。


「んで、先生が会場に入り、タイミングがきたら魔鉱石を俺たちで盗むわけだ」

「せやね。『思念の指輪』があれば合図出せるしね」


 ぶかりと紫煙を吐く。


「わしたちも脱出経路を確保できたぞ」


 見取り図の上に市街地の地図を広げる。迷路のような経路をテンが書き記したルートがヘビのようにのたくっている。


「……ずいぶんと入り組んだ経路ですが、これで最短なのでしょうか?」


 リリアが不安そうに見つめながら言う。


「昨日リリアからパンをもらった子が教えてくれたヨ。ワタシもいろいろパターンを考えたけド、これが最短のルートネ」


 計算だけでなく測量もお手の物のテンが自信たっぷりに言う。


「それなら万事準備はOKだね。決行は明日の夜だよ!」


 全員がおう!と相槌を打った。


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