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36話 レザボア・キャッツ


 宿屋の店主から鍵を受け取る。部屋は最上階の三階だ。

 

「部屋に行く前に腹ごしらえしたほうがええで」


 シルヴィーの提案に全員が賛成したので食堂へ。幸い他に宿泊客がいないので貸し切り状態だ。

 程なくしてコックがテーブルに料理を運ぶ。


「お、肉料理か」

「ここは海から遠いうえに川も近くにないからな。肉料理が中心さ。魚料理が食えるのは金持ちの連中だけだよ」

 

 コックが皿を並べながら説明を。

 真壁がナイフで肉を切り、フォークで口に運ぶ。


「うまっ!」


 真壁だけでなく全員も同じ感想だ。


「だろ? ゆっくりしてってくれ」


 料理を褒められて上機嫌のコックは厨房へと戻った。


「みんな、あとで部屋に集合だよ。確認したいこともあるからね」

 

 ティアが全員を見回し、頷いたのを確認してから自身も頷く。


「ムズカシーことは後回し。ますは腹ごしらえやで」


 シルヴィーがワイングラスを傾ける。


 ◇◆◇


 食事を終え、荷物を各自の部屋に置くとティアの部屋に集まった。


「全員揃ってるね?」

 

 一同が勢揃いしてるのを確認し、テーブル上に地図を広げる。商人から購入したものだ。

 

「今日は遅いから明日、下見に行くよ。宿屋がここ。王城がここね」

 

 地図上の宿屋からつつと指を這わせ、王城のところでぴたりと止まる。

 

「魔鉱石のお披露目会は王城内で行われるらしい。会場へは」

「ウチの出番やね」


 ぷかりと紫煙を吐きながら。


「で、でも先生のその身なりではその、目立ってしまうのではないでしょうか?」


 リリアの言うとおり、シルヴィーの出で立ちはまさに魔女そのものだ。

 ただでさえ抜群のプロポーションは嫌でも視線を集めることだろう。特に男性の。


「その点は抜かりないで」


 呪文を唱えながらくるりと煙管を回したかと思うと、魔女から上品な令嬢へと姿を変える。

 その早い変わり身に一行がおおっとどよめきの声。


「す、スゴいです! あっという間に変身できるなんて!」


 リリアがぱちぱちと拍手を。


「正確には幻視や。実際の姿は変わらんよ」

「うむ……これは使えるな。じゃが、先生。その訛りは隠したほうがいいと思うのじゃが」

「やね。当日はうまーく乗り切るわ」


 令嬢から元の姿へと変えたシルヴィーが煙管を咥える。


「先生の会場への侵入は問題ないとして……あとは、会場に忍び込む方法だね。こればっかりは実際に下見をしないことにはねぇ」


 とんと地図上の王城を指さす。簡易的に描かれたものなので細部まではわからない。


「明日、王城の下見に行くよ。下見にはあたしとリリア、真壁で行くからね。ほかに質問がなければ」

「ちょいまち。出そうと思ってたのをすっかり忘れてたわ」

 

 シルヴィーがポケットから何かを取り出す。テーブルに出されたそれは指輪だ。


「『思念の指輪』や。これを嵌めれば離れていても意思の疎通ができるっつー優れもんやで」


 一同からおおっとどよめき。


「こりゃいいね。ありがたく使わせてもらうよ先生」

「どーいたしまして」

「さてと今日はここまでにするけど、最後にひとつだけ」

 

 ティアが指をぴんと立てながら。


「これからあたしたちは名前で呼ぶことは禁止。さっきみたいに誰かさんが正体バラしそうになったしね」


 じろりとヴェルフェを睨む。


「す、すまぬ……」

「それでお互いをどう呼ぶネ?」

「そうさね……」


 一同を見回してから「よし」と頷く。


「ちょうどみんな髪の色がバラバラだからそれで呼ぼう。まずは会長、あんたは『ピンク』だよ」

「ピンクか……こそばゆいが、承知した」

「可愛いです! 会長! ピンクなんて!」


 ヴェルフェあらためピンクの隣でリリアがぱちぱちと拍手。


「それとあんたは金髪だから『ブロンド』ね」

「はいっ!」


 次に指をテンのほうへ。


「あんたは『パープル』さ」

好的(ハオダ)! 了解だヨ!」


 右手を上げてびしっと敬礼を決める。


「んで、あんたは『ブラック』ね」

「ブラックかぁ……なんか戦隊モノみたいでいいな!」

「で、先生は『シルバー』だよ」

「はいよ」


 ぷかりと紫煙を吐きながら。


「最後にあたしのことは『ダーク』だけど、潜入のときは『お(かしら)』と呼んでほしいんだ」

「……なんかベタだな」


 真壁のつぶやきに全員がうんうんと頷く。


「う、うるさい! お頭と呼ばれるの夢だったんだよ!」


 全員への名付けが終わり、ダークもといお頭ことティアは地図をたたんでしまう。


「それじゃ明日作戦開始だよ。作戦名は『ワルキューレ』ね!」

「ワルキューレ?」

(いくさ)の女神の名前や」


 ブロンドことリリアの問いにシルバーことシルヴィーが答える。

 そのまま作戦会議は終了となり、全員は各自の部屋へと戻った。


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