33話 アンユージュアル・サスペクツ
「よーするに、ウチにパーティー会場に潜入してほしいってことやね?」
シルヴィーがぷかりと紫煙を吐きながら。
「はい。先生のその類まれなる美貌と知性を見込んでのことでございます」
真壁が揉み手をしながらおだてる。
「ま、目のつけどころは悪くないで。実際、うちのプロポーションは抜群やしね♡」
シルヴィーがうっふんとポーズを取りながらウインクを。
「ははーっ! それはもう! その若さ溢れる美貌に見とれない男はいませんとも!」
そこへヴィクトリアが「ん?」と首を傾げた。
「シルせんせーって、確かさんぴゃ」
先を続けようとしたところへシルヴィーががっしとヴィクトリアの両頬をつかむ。
「いま何を言おうとしたん? お嬢ちゃん」
「はんへほはひはへん……」
「次になにか余計なことを言おうとしたら、その口縫い合わせるで?」
つかまれたまま、こくこくと頷いたのを見てにっこりと微笑む。
「わかればええんやで♡」
一部始終を見ていた真壁は呆然と立ったままだ。
「いま、なにか聞いちゃいけない言葉が聞こえたような気がしたけど……」
ぽんと誰かに背中を叩かれた。見るとテンだ。
「女の人には触れちゃいけない地雷がいっぱいあるんだヨ」
「……だよな」
そこへヴェルフェがこほんと空咳を。
「とにかく、シルヴィー先生が加わったことじゃし、あとはティアじゃな」
◇◆◇
図書委員であるティアはやはり図書室のカウンターにいた。
生徒会一行が勢揃いでやってきたので、ティアは「はわわっ」と慌てて読んでいた本を閉じる。
「ど、どうされましたか? みなさん……」
「小芝居はよい。盗賊としてのお主の力を見込んで力を貸してほしいのじゃ」
「そ、そう申されましても……」
「ティア、いやダーク・テールよ。ブルジア王国で大仕事があるのじゃ」
ブルジア王国と聞いてティアの表情が一変し、眼鏡を外す。
「詳しい話を聞きましょうか」
図書委員、いや怪盗ダーク・テールはわずかに口元を歪めながら言う。
◇◆◇
「――というわけで、近々行われるパーティーにて魔鉱石を盗み出してほしいのじゃ」
生徒会室にてヴェルフェが事の経緯を話し終える。
「……なるほど。しかし、ブルジア王国は大陸一の財力を誇っていると聞きます。少なくとも、パーティー会場に協力者がいないことには」
「それはウチに任せとき」
シルヴィーが紫煙をぷかりと吐きながら。
「先生がいれば成功率はかなり上がりますね。ですが、問題がひとつ」
ティアがぴっと人差し指を立てる。
「会場の詳細な見取り図がいります。この地図では詳細はつかめません」
簡易的に描かれた世界地図をとんと指先で叩く。
「つまり、実際に現地に行って調べないといけないということですか?」
リリアの問いにティアがこくりと頷く。
「それと装備がいりますね。ただ、あたし一人ではこの仕事は困難を極める。そこで」
ちらりと生徒会一行を見回し、次に真壁を指さす。
「あんたにも手伝ってもらうわ」
「へ? お、俺が?」
戸惑う真壁から指先をそのまま横に動かし、ぴたりと止まる。
「あんたもよ」
「わ、私もですか!?」
指名されたリリアがうろたえる。
「私、泥棒なんてやったことありません!」
「いいや、あたしにはわかる。あんたには才能がある」
「ふぇえっ?」
ティアは戸惑いを隠せないリリアの顔から彼女の肢体へと視線を移す。
サキュバスだけあって、魅力的な身体つきだね。いざとなれば色仕掛け要員としても使えるし……。
「とにかくじゃ。さっきも言ったように時間はあまり残されていない。出発は明日の夜。それまで各自準備を整えておいてくれ」
全員が頷いた。
「しっかし……よく考えたら人間の世界に行くのって何気に初めてなんだよな。ピストルで人を撃ちたくないな……モンスターならまだしもさ」
「あ、そのことなんだけどピストル貸してくれない? 改良案を思いついたんだ☆ ついでに殺傷能力がない弾丸も造れるよっ」
「ホントか!? 頼んだぞ!」
まかせて!とどんと胸を叩く。が、強すぎたのか咳き込む。
それをよそにティアがふたたびリリアのほうを向く。
「リリア、聞けばあんたは裁縫が得意だってね。なら作ってほしいものがあるんだ」
「作ってほしいものですか……?」
こくりと頷き、さらに続ける。
「闇夜で目立たない盗賊の装束さ。あたしのは自前があるからいいとして、ひとまずあんたとそこの真壁という男のね」
やれるかい?と問われたリリアがこくこくと頷く。
「やれます! 二人分ならなんとか間に合うと……いえ、間に合わせます!」
むんっと自らを奮い立たせるように。
「そんじゃよろしく頼むよ。あたしはあたしでやることがあるからね」
じゃと手をひらひら振りながら部屋を出た。
「勝手なやつじゃのう……まぁよい。今日は明日に備えて解散じゃ」
◇◆◇
翌日、学園の入口前に一台の馬車が留められ、真壁は荷台に荷物を運び込んでいた。
「これでよしと」
「うむ。あとはティア、リリア、ヴィクトリアの分じゃな」
「ああ、でも馬はあれでいいのか? どーみても普通の馬にしか見えないけど。前みたいに骨だらけの馬じゃだめなのか?」
「スケルトンホースのことか? 今回は人間界に行くわけじゃからな。そこへスケルトンホースで乗り込んだらまずいじゃろ?」
「確かに……」
そこへリュックを背負ったティアがやってきた。
「よ、準備は整ってるかい?」
「まだリリアとヴィクトリアが来ておらんのじゃ」
「すみません! 遅くなりました!」
旅装束に身を包んだリリアだ。ヴェルフェの下へ着くと肩で息をする。
「ティアさんに頼まれていた盗賊の服を作ってきました!」
リュックから黒い装束を取り出す。全身黒ずくめでかつ、顔も隠せるようになっている。
「おお! まるで忍者だな!」
「ニンジャがなにかわかりませんが、間に合ってよかったです! ワッペンも付けようとしたのですが、ティアさんから身元がわかるようなものは付けるなと言われまして……」
リリアがしゅんとなる。
「今回は場合が場合じゃからな……と、ヴィクトリアはまだ来ておらんのか?」
副会長であるヴィクトリアは一向に来る気配はない。おかしいと思い始めたところへ担任であるシルヴィーがやってきたが、なにやら表情が険しい。
真壁たちのところへ来ると煙管を口から離してぷかりと煙を吐く。
そして一行のほうへ向き直る。
「ついてきぃ。問題発生や」




