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31話 キャッツ♡アイズ 後編

 

 その夜。学園の全員が寝静まった頃、ティアは暗がりの角から様子を見る。そこは真壁の部屋だ。そして扉の前にはエリザが直立不動で門番を務めている。


正面突破はできないこともないけど……というかそんなのスマートじゃないし。


 角から姿を消し、次に階段を登って尖塔の屋根へと。そこはちょうど真壁の部屋の真下だ。

 双眼鏡を手にして下の様子を伺う。風紀委員一同が手に松明(たいまつ)を持ちながら警備しているのが見える。


「……まるで貴族扱いね。でもあたしに盗めないものなどないのよ」


 にゃあんと鳴いたのちにベルトへと手を伸ばす。鉤縄の付いたロープを手頃なところへ結び、片方を腰に巻き付けた。

 そしてそのまま逆さまの体勢で慎重に壁を伝っていく。


「さすがに上からの侵入までは想定してないでしょ?」


 ついに真壁の部屋の窓まできた。当然窓には格子がはまっている。

 ダーク・テールは格子の隙間から中の様子を覗く。薄暗い部屋にはベッドが。そこで寝息を立てているのは真壁で、他には誰もいないようた。

 

不用心もいいところね……。


 ふとベッドの下に視線を移すとあるものが目に入った。宝箱だ。


「あら、わかりやすいことこの上ないわね」


 念のため辺りを見回すが、別の人物の気配や罠もない。ベルトに手を伸ばし、きらりと輝く紐状のものを取り出す。

 それを格子に回すときこきこと切断を。しばらくして紐がすり抜けた。次に隣の格子も同様に切断し、隙間ができた。

 小さな隙間だが、猫の獣人である彼女には難なくするりと抜けた。それこそ音もなく着地して部屋へと潜入を。

 次にベッドに近づき、真壁の顔を覗くようにする。

 侵入されたことに気づかないまま寝息を立ててはいるが、ダーク・テールは念のためにベルトからアトマイザーを取り出し、それを真壁の顔に吹き付けた。

 睡眠剤のコロンだ。より深い眠りについたことを確かめたのちにベッドの下へかがむ。

 やはり宝箱がそこにあった。手に持って仔細に調べ、振るとからからと音が。


「罠や仕掛けの(たぐい)もなしと……あとはカギか」


 自らの黒髪へ手を伸ばし、ヘアピンを取り出す。それを鍵穴に差し込み、かちゃかちゃ音を立てているとぴんと解錠の音。


「さて、どんなお宝が」


 蓋に手をかけ、中身を見ようと――――


「こ、これは……!」


 ◇◆◇


「――っ! ――か! くぉらっ! さっさと起きんか!」

 

 ばちんばちんと頬を叩かれ、真壁はゆっくりと目を開ける。そこにはヴェルフェが呆れた顔で見つめていた。

 部屋の入口からも生徒会一行が顔をのぞかせている。


「まったく……賊を捕らえるつもりが眠ってしまってはどうしようもないではないか」

「いや、眠らされたみたいだ……ててっ」


 はたかれた頬を押さえながら半身を起こす。すると、肝心の賊――ダーク・テールことティアは縄でぐるぐる巻きにされて床に座っていた。

 だが、様子がおかしい。その様子はまさに――


「うにゃあ〜いい気分だにゃあ〜♡」


 焦点が定まらないまま顔を紅くさせながら、ときおりひっくとしゃくりあげる。


「部屋から声が聞こえたので何事かと思い、捕らえたのはいいのですが……これはいったいどういうことでしょうか?」


 ティアの隣に立つエリザが訝しそうに賊を見る。


「どうやら効果覿面(てきめん)だったようだな。やっぱこの世界でも効き目はあったわけだ」


 真壁が宝箱に入っていたものを取り出す。植物園でもらったどんぐり状のものだ。


「それって……ネコナブリだよね?」


 ヴィクトリアがどんぐり状のものを見つめながら。


「ここじゃそういう名前なのか。俺のいた世界じゃマタタビっていうんだ。効果はまあ見てのとおりだな」

「何はともあれ、このままでは何も聞き出せませんね」


 マタタビの匂いによって陶酔状態になったティアをエリザが正気に戻すべく、何度も頬をはたく。

 

「……痛っ! 痛いにゃっ! ってなんだこりゃ!?」

「やっと正気に戻りましたね」

「げっ! エリザ!」


 逃げ出そうにも縄でぐるぐる巻きにされているので身動きが取れない。

 張本人である真壁をじろりと睨む。


「ヒキョー者! 泥棒にこんなことしていいと思ってんのかい!?」

「こうでもせんとお主は話すら聞いてくれんじゃろ?」


 ヴェルフェが腕組みしながらティアの前に立つ。


「ダーク・テール、いやティアよ。もうお主の正体は割れてるのじゃ。聞けばお主は義賊だそうじゃが、もうこんな真似はせんで欲しいのじゃ。学園の沽券(こけん)に関わるでのぅ」

「……ふん、会長様の頼みと言えどこればっかりはねぇ」


 ぷいっとそっぽを向く。


「貴様! 会長になんという口の利き方を!」


 エリザが剣の柄に手を伸ばそうとしたのでヴェルフェが止める。


「よい! 剣を納めよ!」

「し、しかし……!」


 ふたりが揉めるなか、ティアが真壁のほうを見やる。


「ねぇ、カッコいいおにーさん♡ この縄ほどいてくれない? 逃がしてくれたらイイことしちゃうかも?」

 

 猫なで声でぱちんとウインクをひとつ。


「はっ! 色仕掛けで来られても俺には効かねーよ!」


 毅然とした態度に生徒会一行から「おおっ!」とどよめき。


「うむ! よく言った! 真壁よ」

「えらいよ! イタル!」

「すごいです! 真壁さん成長しましたね!」

「ワタシも見直したヨ!」

「サスガデス」


 だが、ティアはあきらめずにさらに猫なで声で続ける。

 

「あぁんっ。縄が食い込んでいたぁあ〜い。だれかほどいてぇ♡ このままだとあたし、どうにかなっちゃうかも……」


 今度は身体をくねくねと動かしながらの誘惑だ。


「俺が同じ手に引っかかるかっつーの! 無駄無駄無駄無駄!」


 そう言いつつ、縄をほどこうとする真壁の頭にエリザが峰打ちを食らわせる。


「ッてぇ! はっ! 俺はなにを!? あぶねぇ! あやうく騙されるとこだったぜ! なんておそろしーヤツだ!」

「……今のはどーみても()に見えたけど」


 ヴィクトリアの言葉に全員がうんうんと頷く。


「反省するつもりがないのなら、わしにも考えがある。最悪、退学は免れんじゃろな」


 退学と聞いてティアの耳がぴくりと揺れる。


「退学になってはお主も困るじゃろ?」

「……ッ!」

「じゃが、わしも鬼ではない。そこで提案じゃ」

「会長様が泥棒のあたしに提案ですって?」


 ヴェルフェが真壁が別の世界からやってきたことから話し、これまでのことをかいつまんで話す。


「――というわけで、こやつが元の世界に戻るために力を貸してくれれば、今回の件は目をつぶってやらんこともない」

「ちょ、ちょっとまって! その前に『魔鉱石』って言ったわよね!?」


 真壁がそうだと答えると、ティアの目が見開く。


「やっぱ魔鉱石を集めてるってウワサはホントだったんだ……まぁ石ころひとつでも希少な価値はあるし……」


 ぶつぶつと呟いたのちに会長のほうへ向き直る。


「わかった。その提案のむよ。(しゃく)だけどさ」

「うむ。話が早くて助かるぞ。さてエリザよ。こやつの縄を……」

「ふっふっふ。実はもうほどけてるんだな。これが」

 

 じゃーんとほどいた縄をこれ見よがしにと。


「なっ! いつの間に!」


 エリザが剣を抜こうとした途端、破裂音が。何事かと考える前に部屋全体が煙に包まれた。


「今回はまんまとやられたけど、次はそうはいかないよ!」


 次第に煙が薄れていき、ティアが窓枠に腰かけているのが見えた。

 

「貴様……!」


 だが、ティアはすばやくするりと格子の間を抜け、まんまと脱出を。

 そしてあっかんべーしたのちにそのままするすると壁をよじ登っていく。

 エリザが窓から顔を出すが、もはや姿は見えなかった。

 

「……ッ! 次こそは!」

「よいエリザ」

「しかし!」

「泥棒でもあやつにも矜持(きょうじ)はある。今回の件でしばらくはおとなしくするじゃろう」


 ◇◆◇


 その頃、ティアは俊敏な動きで屋根から屋根へと飛び移っていく。


「魔鉱石か……量によっては一国の主にもなれるほどの価値があると言われている逸品! お宝はあたしのものだよ!」


あたしは怪盗ダーク・テール。あたしに盗めないものなどないんだからね!


 にゃあんと一際高い鳴き声をあげると、そのまま闇の中へと消えた――。


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