31話 キャッツ♡アイズ 前編
学園から離れたところにある植物園――
そこでは一匹の中年スライムが精を出しながらせっせと農作業をしていた。
ひと区切りついたのか、ふぅっとひと息つきながら腰にあたる部分をとんとんと叩く。
そこへ声をかけるものがひとり。
「よぅ、ひさしぶりだな。おっさん」
振り向くと学園でただ一人の男子学生――真壁が立っていた。
「ややっ真壁さんじゃないですか! お久しぶりですね!」
「おっさんも元気そうだな」
ふたりが会うのはプール事件以来だ。ろ過器に巻き込まれたスライムを助け出し、それ以来植物園で農作業を行っている。
「いやあ、ここに来て働いてから心なしかスマートな体型になってきたんですよ。ほら腹筋なんてこんなに割れて……って、わし筋肉なかったですわ!」
はははと笑う。
「それはそうと何かご用でしょうか?」
「ああ、実はネルに会いたいんだけど、いるかな?」
「いますよ! 案内しますね!」
ネルは学園の生徒であり、植物園の管理人でもある。以前ヴィクトリアとともに狂暴化した植物のトラブルを解決したときに初めて会ったが、彼女は上半身が人間、下半身が植物のアルラウネと呼ばれるモンスターだ。
「ネルさーん、お客さんですよー」
中年スライムの声でぱちりと目を開け、真壁に気づくとにこりと微笑む。
「こんにちは真壁さん。お久しぶりですね」
「ネルも変わりないようだな。こっちは相変わらず魔鉱石集めや新しい仲間ができたりと忙しいけど」
ふふっとネルが微笑み、「それで、どんなご用件でしょうか?」と尋ねる。
「あー、実は……」
事の起こりからかいつまんで説明をする。
事の発端は今から三十分前に遡る――
◇◆◇
生徒会室の扉がいきなりばんと開かれた。
会議中の生徒会一行がそのほうを見る。そこには肩で息をするワーウルフとワータイガーのふたりが。
「どうしたんじゃ? いまは会議中じゃぞ」
「そんなことよりどうにかしてほしいことがあるんだよ!」
ワーウルフがずんずんと前に進み出、ばんっとテーブルに叩きつける。そこには一枚の名刺と同じくらいの紙が。
「こいつのせいであーしらは先公に絞られたんだよ!」
「生徒会って困ったひとを助けるためにあるじゃん? どーにかしてほしいわけよ」
事の経緯を聞き終えたヴェルフェが名刺を手に取る。直線で描かれた猫のイラストに流れるような筆記体でサインが――
「怪盗ダーク・テール?」
はてとヴェルフェが首を傾げると、リリアがぱんっと手を叩く。
「私、知ってます! なんでも神出鬼没の怪盗で、狙った獲物は絶対に逃さないとか」
「ボクも聞いたことあるよっ。なんでも悪者からしか盗らないって!」
「義賊ってヤツだな。俺の世界にもいるぞ。まあマンガとかアニメの話だけど」
話を聞いていたテンがうん?と首を傾げる。
「悪者からしか盗らないってことは、ふたりは悪者ってことになるヨ?」
痛いところを突かれたふたりの獣人が「うっ」と声を詰まらせながら動揺を。
「話を聞くかぎり、おふたりはレポート用紙に落書きをされただけですよね? それなら書き直せばいいだけの話なのでは?」
リリアのしごく真っ当な意見にふたりがふたたび声を詰まらせた。
「い、いやー……それはほら、がんばって書いたレポートが台無しになったわけだし?」
「そうそう! せっかく書き写した努力が……」
ワーウルフが「バカ!」とワータイガーの肩を掴むが、もはや後の祭りだ。
「書き写したと聞こえたが、お主らもしや不正をしたのではあるまいな?」
ヴェルフェにじろりと睨まれたふたりの獣人がぶんぶんと首を振る。
「あっ! そういえば用事あるの思い出しました!」
「とっ、とにかく失礼しますねっ!」
下手な言い訳を繕うと、そそくさとその場を後にした。
ヴェルフェがふぅっと溜息をつく。
「まったく……我が学園の生徒としてはあるまじき行為じゃな……」
そこへ人造人間のクリスがティーカップを差し出してくれたので礼を言ってからひと口飲む。
「じゃが、件の怪盗ダーク・テールなる人物の行為は見逃すわけにはいかぬのぅ」
「でも義賊なら良いのでは? 実際悪い人からしか盗みは働かないようですし……」
「うむ。お主の言うことももっともじゃ。じゃが、リリアよ。このような事は一度許容してしまうと、真似をする者が後を絶たなくなる可能性があるのじゃ」
じゃからと続ける。
「一度、忠告したほうがいいのかもしれん。じゃが、問題はダーク・テールが何者なのか正体がつかめんことにはのぅ……」
ううむと唸りながら腕を組む。そこへヴィクトリアが名刺をつまむ。
「これを見る限り、ダーク・テールは猫型のモンスターか獣人みたいだね」
ほらと猫のイラストを指さす。
「うーむ。しかし、当学園には何人かおるでのぅ……」
「ワタシの計算によれば、学園には――」
「ガクエンニハ、6ニンノガイトウシャガイマス」
テンが答えるよりクリスが早く答えた。
「真か? しかし素早い回答じゃな……わしでさえすべてを把握してるわけではないというのに……」
「ふふーん。クリスは学園のあらゆるデータを詰め込んであるんだよ☆」
生みの親であるヴィクトリアが自慢げに胸を反らす。一行が目を輝かせるなか、テンは不満げにクリスを見る。
「でも人数がわかっても誰がダーク・テールなのかわからないんじゃしょうがなくないか?」
「真壁よ。お主はもう少し頭を働かせたほうが良さそうじゃな。よいか、このレポートは三年生のクラスにしか出されないものじゃ」
とんとんとレポート用紙を叩く。
「それなら該当者は狭められますね! さすがです!」
リリアがぱちぱちと拍手を。
「うむ。してクリスよ。三年生のなかに該当者は――」
「二名だヨ!」
クリスが答える前にテンがすばやく回答した。そしてクリスのほうをふふんとドヤ顔で見る。
「二名か……かなり狭められたが、どちらかじゃな……」
「待ってください。ひとりは病欠で授業には出ていないそうです。よってレポートはまだ提出されていないはず……」
リリアが名簿を見ながら言う。
「よし。これでひとりに絞れたな。名前はなんというのじゃ?」
「ええと……ティアさんですね。図書委員を担当していますので、この時間なら図書室にいるはずです」
「そうか! これで目星はついたな」
ヴェルフェが立ち上がり、胸の前で腕を組む。
「今回は我が学園の名誉に関わることじゃ。なんとしても正体を暴くぞ! パンデモニウム生徒会出動じゃ!」




