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30話 怪盗ダーク・テール登場!


 こんにちは。私はパンデモニウム女学園にて図書委員を担当しているティアです。

 見てのとおり私は黒猫の獣人で、普段は図書室のカウンターで本の貸し出し、整理、修復を行ってます。

 暇なときはこうして好きな本を読んだりしながら過ごしていますが……


「退屈ですね……」


 ぱたりと読んでいた本を閉じ、眼鏡を外してひとり図書室でふぅっとため意をつく。

 この時間は生徒はあまり来ないのでがらんとしていた。


 まぁ、そもそも本に興味を持つひとが少ないので当然と言えば当然ですが……。

 

 背もたれに身を預けると、ぎしりと軋む音。ふとカウンターに目をやると、レポート用紙が。


「あ、忘れてました。レポート提出しないと」


 レポート用紙を手にたたたと図書室を出る。

 

 先生は締め切りにうるさいから早くしないと……!


 廊下を駆け足で歩き、角を曲がろうと――


「うわっ!」

「うおっ!」

「きゃっ!」


 出会い頭にぶつかり、その拍子にレポート用紙を落とす。


「ってーな! どこ見て歩いてんだ!」

「はわわっ、す、すみませんっ!」


 なんということでしょう。最悪のタイミングでクラスメイトのワーウルフ(狼女)ワータイガー(虎女)とぶつかってしまいました!


「ん? なんだこりゃ?」

  

 ワータイガーが床に落ちた紙を拾い上げる。


「そ、それは先生に提出するレポートなんです……! 明日までに出さないといけないんです!」


 ふたりの獣人が顔を見合わせ、すぐににやりと顔を歪めた。


「なぁ、これちょっと貸してくんない?」

「あーしたち、まだやってないからヤバいんだよね」


 ワータイガーがぴらぴらと振りながら言う。


「え、そ、それは困ります! というか、そもそもレポートは自分の力で書くもので……」

「いいじゃーん。同じクラスのよしみでさぁ」

「そーそー。困ったときはお互い助け合わないとね♡」


 ワータイガーがぬっと鼻先を近づける。狼と虎に睨まれた黒猫には打つ手はない。


「あ、あの、あの……」


 おどおどする黒猫の獣人を残しながらふたりの獣人は嗤いながらその場を後にした。

 やがてふたりが角を曲がって見えなくなると、ティアはふぅっと溜息をつく。

 

 しかたありませんね……できればこんな手は使いたくなかったのですが。


 ◇◆◇


 雷鳴が轟くなか、ティアは学園の尖塔のひとつの屋根にいた。双眼鏡で彼女が見つめる先にはふたりの獣人がいる部屋だ。

 どうやらふたりとも眠っているらしい。

 双眼鏡を下ろし、次に眼鏡を外すと猫特有の細長い瞳孔が露わになった。

 制服を脱ぎ捨てると艶めかしい黒装束に身を包んだ。


「普段は図書委員のティア。しかし、それは世を忍ぶ仮の姿! 怪盗ダーク・テール参上! ()()()のレポートを返してもらうよ」


 腰のベルトから取り出したのは鉤縄(かぎなわ)だ。

 先端がフック状になったそれを振り回し、充分な速度がついたところで十五メートル以上先の屋根めがけて投げる。

 フックが引っかかり、二度三度引っ張って確かめたのちに屋根から飛び降りた。

 壁にふわりと巧みに着地し、指から爪を伸ばしてそのまま俊敏(しゅんびん)な動きでよじ登っていく。

 やがて目的の部屋の窓まできた。横からそろりと様子を伺う。やはりふたりとも眠っている。

 片手で壁につかまり、ポケットから小物を取り出す。小さなコンパス状のものだ。

 それを窓ガラスに当て、針を刺したのちにくるりと一周。針を抜くとぽっかりと穴が開いた。

 コンパスをポケットに戻し、穴に指を通して鍵を解錠する。

 ゆっくりと窓を開き、するりと流れるような動作で部屋に足を踏み入れた。

 目当てのものはすぐに見つかった。机の上に置かれたレポート用紙をベルトに取り付けられたポーチへとしまう。

 ふと机の横を見ると、ティアのレポートから転記した二枚のレポート用紙が。


 ……あたしの書いたレポートをそのまま写してもすぐバレるのに……。


 ふうっと溜息をつきながら首を振る。そこへぴんと頭に閃くものが。

 ペンを手に取り、ふたりのレポートに何かを書き付けていく。

 最後に一枚の紙――名刺をレポートの上へそっと置く。

 仕上げを終えると、窓を開けて外へと出る。後は入ってきた時の状態だ。


 ◇◆◇


 翌朝――


 廊下で怒号があたりに響き渡った。


「ちょっと! 何なんですの!? このレポートは!」


 上半身が人間、下半身が蛇の女教師が二枚のレポート用紙をワーウルフとワータイガーに見せつける。そこには教師の悪口が用紙一面に書かれていた。


「あーしたちが書いたんじゃないんすよ!」

「ちゃんとやってきたんす! 絶対こいつのせいですよ!」


 ワータイガーが一枚の名刺を見せる。


『怪盗ダーク・テール参上!』


 名刺には猫の顔が直線で描かれていた。


「すぐに人のせいにするんじゃありません! 罰としてレポート追加ですからね!」


 ふたりの女生徒がげっと顔を曇らせる。

 その様子を遠くから伺う女生徒がひとり――ティアだ。

 ふふっと微笑んだのちにその場を後にして眼鏡を外す。


「このあたしに盗めないものなど、ないんだからね♡」


 にゃあっと鳴き声をあげたのちにウィンクをひとつ。


 普段は大人しい図書委員のティア。しかして、その正体は神出鬼没の怪盗ダーク・テール――


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