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29話 インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア 後編


 その日の夜――

 

 全員が寝静まった頃、学園の生徒会長であるヴェルフェの部屋の扉の前に三つの人影が伸びる。

 ヴィクトリアが扉に耳を当て、様子を伺う。何も音がしないのを確認して頷く。

 ゆっくりとノブを回して部屋に足を踏み入れる。明かりは窓から差す月明かりのみだ。

 真壁、ヴィクトリア、そしてスカーレットの三人は音を立てないよう慎重に金庫めざして歩く。

 まず執務室の机が目に入ったが、金庫は見当たらない。


「なぁ、金庫はどこなんだ?」

「えっとね、たしかベッドの近くだったはず……」

「あのドアが寝室のようね」


 三人ともひそひそ声で交わし、寝室のドアのノブに手をかけ、ゆっくり回す。

 ドアを開けると、やはりそこにはベッドが置かれていた。そしてそこにはナイトキャップをかぶり、いびきをかきながら爆睡するヴェルフェが。

 

「あれが金庫ね」


 スカーレットの言うとおり、ベッドの横に頑丈な金庫が。どうやらダイヤル式のようだ。

 三人はそろりと足音を立てないよう金庫へと近づく。ヴィクトリアがダイヤルに手を触れ、ゆっくりと回す。


「えっと……たしか、右に三回だったかな?」

「おい、大丈夫なのか?」

「ふだん金庫開けることないからうろ覚えなんだよ」


 ヴェルフェがいびきをかくなか、ヴィクトリアは必死に思い出そうとしながらダイヤルを回していくが、カチッとした音が響くので気が気でない。


「よし、だんだん思い出してきたよっ」


 その時、ベッドから「んがっ!」と同時に寝返りの音がしたので三人がびくっと身を震わせる。

 だが、ヴェルフェは目を開ける様子はない。ただの寝言だとわかるとほっと胸をなでおろす。


「まだかかりそうかしら?」

「ここまでくればあと少しのはず……!」

 

 ガチャッと解錠音があたりに響く。金庫の扉を開き、そこから目当てのものを取り出そうと――


「くぉらっ! 何をしておる!」


 ふたたび三人が身を震わせる。ベッドのほうを見ると当の本人はまだ眠っている。


「地面に落ちたものを食うなと何度も言っとるじゃろ? まったくしょうがないやつじゃな。真壁は……むにゃ」


 よだれを垂らしながらさらに寝言を続ける。


「いったいどんな夢見てんだ。こいつは……」

「まあまあ、目当てのものは手に入れたんだし。もう行こうよっ」

 

 薄い本を手に入れた三人はまだ夢を見ているヴェルフェを後にして部屋を出た。


 ◇◆◇


「こ、これが……異国の漫画なのね?」


 自室に戻ったスカーレットが本を手にして言う。


「すごい……! 色がついてるなんて! こんな色づかい見たことないわ! 見たところ、サキュバスが主人公のようね」


 スカーレットの言うとおり、表紙にはフルカラーで彩られた艶めかしいポーズを取るサキュバスが。

 その魅惑的な描写に思わずごくりと唾を飲む。

 

「ところで、なぜふたりはそんな重装備を?」


 見ると、真壁とヴィクトリアのふたりはオレンジ色のゴム製の防護服に身を包んでいた。以前、プールの排水溝で魔鉱石を探すときに使ったものである。


「刺激が強いからいちおう念のためだよ☆」

「言っとくが、俺は忠告したからな?」

「そ、そこまで刺激が強いものなの……?」


 ふたたび表紙に目を落とす。そしてぎゅっと目をつぶってから首を振る。


「いえ、やるわ! 今こそ殻を破るときなのよ!」


 かっと目を見開き、ページを開く。めくるめく官能的な描写が目の前で繰り広げられる。


「え、ちょっとまって! こんな描写していいの!? これも漫画なの!? 漫画なのよね!?」


 ぐるぐると目を回しながら、しだいに顔が赤くなり、未知の情報を受け止めきれなくなった彼女はついに鼻血を盛大にぶちまけた。

 それこそ真壁とヴィクトリアのふたりにかかるように。


「ね? 用意してよかったでしょ?」

「ああ、ここまでとは思ってなかったがな……」


 ◇◆◇


「す、すごいわ……あなたの国ってとんでもない性癖を持つ人が多いのね……」


 スカーレットが肩で息をしながら鼻血を拭く。


「まぁ、俺の国じゃ色んなジャンルの作品が溢れてるからな……褒め言葉として受け取っておくよ」

「別に褒めてるわけじゃないと思うけど……」


 真壁とヴィクトリアが委員長を助け起こす。吸血鬼である彼女は大量に血を失ったためか、貧血ぎみだ。


「大丈夫か? いいんちょ」

「大丈夫よ。それにしてもこの漫画、画力もそうだけど構成といい、見たこともない技術が使われてるわね……自分の力が未熟だと思い知らされたわ」


 ふぅっとひと息つき、ふたたびペンとメモを手に取る。


「でもここでへこたれる私じゃないわ! お願い、他にどんなジャンルがあるのか教えて!」

「それは別にいいけど……少女漫画だと有名どころしか知らないし……」

「それでもいいの! さあ教えてちょうだい!」


 そこへヴィクトリアが手を挙げた。


「どうせなら学園を舞台にした漫画描けばいいんじゃないかな? 学園にいるわけだし……」

「それだわ! まさに盲点だわ! 燭台(しょくだい)下暗しとはこのことね!」

「それならBLとか百合もいいかもな」

「び、びーえる? 百合って、花のことよね?」


 スカーレットに意味を教えると、たちまち委員長は目を輝かせてすばやくペンを走らせる。


「アイデアが浮かんできたわ! さっそく描かないと!」


 そう言うとすぐさま机に座るとペンを手にした。


「えっと、これで問題は解決でいいのかな?」

「まぁ、あとは本人の努力次第だろ。俺たちにできることはすべてやったわけだし」

「だね。じゃがんばってね、いいんちょ」

「無理はすんなよ。いいんちょ」


 一心不乱にペンを走らせる委員長を残してふたりは部屋を出た。


 ◇◆◇


 次の休校日――


 スカーレットはふたたび出版社にいた。同じく担当した編集者が出迎え、応接室へと通す。


「まさか、こんなに早く新作をお持ちいただけるとは思っていませんでした。あの、大丈夫でしょうか?」


 スカーレットの目の下にはクマが出来ており、短期間で描き上げたことを物語っていた。


「大丈夫です……今度の作品は自らの殻を破って描きあげました」

「そ、そうですか……では拝見します」


 原稿を受け取って眼鏡をかけ、ぱらぱらとめくる。


「ほぅ……今度は学園が舞台ですか。良い題材ですね」


 あらためて一枚目をめくる。

 

「え!? ウソ!」

「私たち……!」

「「入れ替わってる――!?」」


 学園に通うふたりの女学生が互いに入れ替わるところから始まり、元の体に戻ろうと奮闘する話のようだ。

 次にふたりは元凶となった魔法使いの捜索に移る。


「あたしが得た情報によれば、魔法使いはこのお店によく来るみたい」

「なるほど……張り込みってワケね」

「そうよ! 絶対に捕まえて元の体に戻してもらうんだから!」

 

 ぱくりと棒状の菓子を口に運ぶ。


「あ、ちょっとまって」

「え、なに?」


 さらりと髪に触れる。


 え、ちょっとまって。いきなり髪に触れるなんて、もしかしてキス――――?


「お菓子、髪についてたよ☆」


 カリッと音を立ててかじりながら。


 う、わ――――反則だよぉ、こんなの……


 最後のページはついに魔法使いの居場所を突き止め、元の体に戻すよう迫る場面だ。


「ついに突き止めたわよ! さぁ元の体に戻してちょうだい!」


 だが、魔法使いの放つ強力な魔法でなかなか近づけない。


「くっ……! このままじゃ近づけない……!」

「私にまかせて!」

「え、どうするの!?」

 

 それには答えず、流れるような動き――彼女いわく、カンフーというのだそうな。

 とにかく、踊るような動きでカンフーを駆使し、なんやかんやで魔法使いをぶっ飛ばすのであった。


「やった……やったよ!……って、あれ? あたしたちの体、元に戻ってない……?」

「どうやらもう元には戻らないみたいだね……でも」

「?」

 

 ぐいっと肩をつかまれる。


「あたしら愛し合ってる仲だし、体が逆でも別にいいんじゃないかな?」


 トゥンク……♡ そのひと言だけで人間界を征服できちゃいそうだよ……!


 かくしてふたりは晴れて結ばれ、幸せに暮らしたのであった。


 

 トントンと原稿を揃え、テーブルに置かれる。次に眼鏡を外して指で目蓋をもむ。


「あ、あの……どうでしょうか?」

「うん……」


 眼鏡をポケットにしまい、スカーレットを真っすぐに見る。


「疲れているんだね……この原稿は見なかったことにするから休んでください」


 ◇◆◇


「だから言ったんだぞ! 俺は!」

「あなたのおかげでこっちは恥をかいたんですのよ!」


 学園の廊下にて巨大なコウモリに変身したスカーレットは逃げる真壁を執拗に追いかけていた。


「前衛的な作品になったこの責任、どーしてくれますの!?」

「男の俺に少女漫画の相談するほうが悪いんだろーが! いいんちょ!」

「委員長と呼びなさい! おまちィイイイイ――――ッ!!」


 廊下に真壁の悲鳴があたりに響いた。


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