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29話 インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア 中編


「撤退だ! 撤退しろ!」


 将軍の指示を皮切りに軍団は退却を始めた。


「ぬぅう……! 覚えておれ!」


 ヴェローナ王国と敵対するバルデン王国の将軍は歯噛みしながら馬を飛ばす。

 一方、敵の砲弾を受けてあちこちから煙が立つヴェローナ王城では侍女のマドレーヌが息を切らしながら部屋を見回す。

 撤退したとはいえ、城には火が回り始めていた。


「殿下……! どこにおられるのですか!?」


 そう声をかけながら想い人である殿下――ヴィルヘルムの姿を探す。

 だんだん強くなる火を避け、咳き込みながらも探すが、見当たらない。

 その時、奥のほうに人の気配を感じた。

 

「殿下……?」


 だが、呼びかけには反応しない。それでも確かめずにいられない侍女は瓦礫をよけながら進む。

 するとはたして若き王はいた。絨毯の上に目を閉じたまま横たわっている。

 そして胸には一本の矢が――


「殿下……っ!」


 愛する者の下へと駆け寄り、そっと手を触れる。


「しっかりしてください! 殿下! マドレーヌですっ……! 貴方の愛する者はここにいます!」


 ぽたりと涙の雫がヴィルヘルムの頬に落ちた。

 次の瞬間、ぴくりと目蓋が反応を。


「……マド、レーヌ……?」

「殿下!? ご無事だったのですね! でも、矢が……!」

「あ、ああ……これか」


 マドレーヌの手を借りて半身を起こす。そして軍服のボタンを外した。

 矢は服を貫通していたが、胸の前で懐中時計に刺さっており、即死を免れたのだ。


「この形見の懐中時計が防いでくれたんだ……母のおかげだ」

「ああ……殿下!」


 無事を確認したマドレーヌが涙で顔をしとどに濡らす。


「心配をかけたな。すまない。そういえば戦況は……」

「バルデン軍は撤退しました。もう戦争は終わったんです……」

 

 そうかと頷き、軍服のポケットへ手を伸ばす。取り出されたのはビロード張りの小箱だ。


「戦争が終わったら、伝えようと思っていたんだ……」


 小箱を開けるとそこにはきらりと輝く純銀の指輪が。


「ああ……殿下」


 ふたたび手で顔を覆うが、ヴィルヘルムが彼女の名を呼んだのではっと顔を上げる。


「殿下でなく、ヴィルヘルムと呼んでほしい。もう王と侍女の関係じゃないんだ。俺と結婚してくれるかい?」

「……ッ!」

 

 侍女あらためマドレーヌはたちまち顔を赤らめた。そして遠慮がちに夫となる最愛の人の名を呼ぶ――


「はい! もちろんです。ヴィルヘルム」


 にこりと微笑むマドレーヌの顔のペン入れを終えたスカーレットはことりとペンを置く。


「つ、ついに出来た……私の最高傑作が……」


 自室にてスカーレットはひとり感慨にふける。原稿を手に取り、内容をチェックする。

 塗り忘れや修正が必要な箇所がないところを確認するとうんと頷く。


「あとはこれを出版社に……!」


 ◇◆◇


 翌日、パンデモニウム学園の休校日――


 街に出たスカーレットはその足で出版社へと。出版社に着くと、頭に角を生やしたデーモンの担当者が出迎えてくれた。


「スカーレットさんですね?」

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

「そう固くならなくても結構ですよ。こちらへどうぞ」


 促されるまま、通されたのは応接室だ。テーブルを挟んでソファーがあり、ふたりは向き合うようにして腰かける。


「今日は原稿をお持ちだそうですが、ひとまず見せてもらえますか?」


 スカーレットは鞄から封筒に入った原稿を取り出して渡す。


「拝見します」


 担当者が眼鏡を取り出し、ぱらぱらと原稿をめくる。それこそちゃんと読んでいるのか不安になるくらいに。

 

「なるほど……身分違いの恋愛漫画ですか」

「はい!」


 ふむと頷くとふたたび原稿に目を落とす。部屋は柱時計のこちこちと時を刻む音だけが響き、読み終えるまでの時間が長く感じられた。

 やがて最後のページを読み終えた担当者が原稿をとんとんと揃える。


「最後まで読ませていただきました。私の率直な感想を申し上げてもいいでしょうか?」

「ええ、ぜひ!」

「わかりました。まず――」


 自信作の評価にスカーレットはごくりと固唾を飲んで待つ。


「あなたの作品は、その、なんと言いますか……端的に言えばありきたりです」

「あ、ありきたり……です、か?」


 担当者がこくりと頷き、眼鏡を外す。


「前提として身分違いの恋愛劇はかなり出回っていますし、展開が途中で読めてしまうんです」

「はあ……」

「ただ、画力はありますし、コマ割りも読みやすいよう工夫されてますからテーマや展開をもっと磨けば良くなると思います。ぜひスカーレットさんには(から)を破っていただきたいんです。今回は残念ですが、落選ということに」


 その後、スカーレットはどうやって学園の自室に戻ったのか覚えていなかった。

 自信作がありきたりだと言われ、呆然自失となったスカーレットはそのまま部屋の棺桶のなかへと潜り、しばらくすると棺桶からすすり泣きが漏れてきた。


 ◇◆◇


「――というわけよ。」

「なるほど……で、俺たちにどうしろと?」

「と言ってもボク、漫画には詳しくないよっ」

「真壁さん」


 スカーレットが真壁のほうに向き直る。


「あなたはもともとここではないほかの国から来たのでしょう? あなたの国ではどんな漫画があるのかしら?」

 

 参考にしたいのと迫られたので思わず後ずさった。


「まぁ、俺の国じゃ漫画は世界的にも有名だしな……それこそ色んなジャンルで溢れてるし」

「詳しく聞かせて!」


 いつの間にかペンとメモを手にしている。


「そうだな……流行りで言えば追放ものとか、婚約破棄とか……」

「なにそれ!? 聞いたことないよ!」


 驚くヴィクトリアの横で真壁が詳しい内容を話すと、スカーレットは必死に書き留めていく。


「未知のジャンルだけど、これは参考になるわ!」


 メモを見ながら何度もうんうんと頷く。


「でも……話を聞くだけでは絵が浮かばないのよね……せめて実物があれば」

「だな。そんな都合よく現物が……あ」


 初めてこちらの世界に来た時のことが思い出された。コミケで購入した18禁の薄い本をヴェルフェに取り上げられたのだ。


「なぁヴィック、俺がここに来た時に持ってた本って、あれどうなったんだ?」

「イタルが持ってた薄い本のこと? それなら生徒会長室の金庫に保管されてるよ」

「まって、それはいったいどういう本なの!? ぜひ異国の漫画があるのなら読ませてちょうだい!」


 ずずいっと前のめりに。


「いやー……なんというか、あの本はいいんちょにはまだ早いというか、次元が違うというか……」

「お願い! 自分の(かて)にしたいの! 今ならいいんちょと呼んでもいいから!」


 鼻息荒く、さらにずずいっと前のめりになったので、真壁がたじろぐ。


「そう言われても、肝心のブツが金庫のなかにあるんじゃかんたんに手に入らないだろうし……」

「ボク、開けられるよ?」

「へ?」


 真壁と委員長が同時にヴィクトリアのほうを見る。


「忘れたの? これでもボク、副会長だよ?」

 

 自分を指差しながらウインクをひとつ。


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