28話 フランケンシュタイン 恐怖の実験室
暗雲から雷鳴が轟き、雷光がパンデモニウム女学園の一室を窓越に照らし、怪しげな実験器具、機械が浮かび上がる。
雷鳴が轟くなか学園の生徒であり、生徒会の副会長――ヴィクトリア・フランケンシュタインはゴーグルを装着しながら機械を動かす。
次にゴム手袋を嵌め、電極棒を両手に持つ。棒を合わせると火花が飛び、電流が流れてるのを確認したのちに目の前のモノに刺す。
電極棒はそれぞれケーブルで天井へと繋がっている。
「これでよし。あとは……」
様々な目盛りが付いた機械の前へ移動し、レバーを掴む。力いっぱいに引くと外に設置された金属棒が露わになり、ふたたび雷鳴が轟くと同時に金属棒が稲妻を捉える。
そのまま棒を伝わって繋がれたケーブルへと伸びていき、それの体全体に数千万ボルトの電流が流されていく。
高圧の電流を浴びた体は痙攣するかのように両手両足を小刻みに動かす。
やがてケーブルから火花が飛び、機械の目盛の針が激しく左右に動く。
ヴィクトリアがレバーを戻すと、それは動きを止め、そのまま静止した。
作業台に横たわるそれに近づき、電極棒を外してやる。そしてそれの腕に手を触れた。
ひんやりとした感触が伝わったかと思うと、ぴくりとそれの指が動く。
「や、やった……! 実験は成功だよっ!」
ゴーグルを外して目の前の成果をじっと見つめる。
「やっぱりボクって天才だね☆ 自分の才能が恐ろしくなってきたよっ」
両手を組みながら「はーっはっはっは!」とさながら悪の天才科学者のように高笑いを。
「なにをしとるんじゃ?」
後ろからヴェルフェが声をかける。生徒会一行も勢ぞろいだ。
「わあっ! いつの間に来てたの!?」
「お主が見せたいものがあると言うたじゃろが」
「そーいえばそーだったね!」
こほんと咳をひとつ。
「実は長年の夢が叶ったんだよっ。こないだ手に入れた魔鉱石で造ったんだ!」
じゃーんと作業台に横たわるものを手で指し示す。
「これは……人形でしょうか?」
リリアの言うとおりそれは人の形をしていた。青い髪のウィッグに端正な顔つきをしており、皮膚に見立てた薄い膜で覆われているので、ぱっと見は人間と見分けがつかない。
「ふーむ……見たところ、女性みたいだな」
真壁がまじまじと胸の膨らみを見ながら。そこへテンがぴしゃんと頭をはたく。
「それで、これを造ったのはどういうことネ?」
「よくぞ聞いてくれました☆」
テンの問いにヴィクトリアがびしっと指さす。
「イタルには前に話したけど、ボクはフランケンシュタイン家の末裔だからね。発明家の一族に生まれたからには人造人間を造ってみようって思ったワケ」
ふんすっと胸を反らす。
「ま、先祖が造ったのとは違って中身はあくまで機械だけどね。さ、起きて」
人造人間に話しかけると両眼がぱちりと開く。
「カシコマリマシタ。ゴシュジンサマ」
創造主の命に従って半身を起こす。
一行からおおっとどよめきが漏れるなか、向きを変え、全員のほうへ体を向けた。
ヴィクトリアが人造人間の胸にあたるプレートを開ける。すると中には淡く輝く魔鉱石が埋め込まれていた。
「石が溜まってきたから保管する場所がいるかなと思ってね。それと色んなこともできるんだよっ。例えば……」
ヴィクトリアが人造人間の頭部に手を触れたかと思うと、両眼から強い光が照射された。
「ァアアアア! 目が焼けるゥウウウウ! 光を出すなら先に言わんかい!」
「ごめんごめん!」
ふたたび頭部に触れると光は消えた。
「それと、魔鉱石探知機の機能も兼ね備えてるんだ」
試しにとヴィクトリアが魔鉱石の欠片を取り出し、手頃なところへ放り投げる。
「さあ石はどこかわかる?」
人造人間が作業台から起き上がり、石の方へ顔を向け、指さす。指さした先には確かに魔鉱石があった。
「ね? すごいでしょ?」
おおーっと一行から感嘆の声と拍手。それに気をよくしたヴィクトリアがふふんと自慢げに。
「さらに極め付きはこのアタッチメントを付けると!」
取り出したのは先端が猫の手のように曲がった棒だ。人造人間の腕を外してそれを取り付ける。
ヴィクトリアが後ろを向くと、人造人間が取り付けられた棒で背中を掻きはじめた。
「こーすると、手が届かないところも搔いてくれるという優れものなんだよ」
「……その棒を使えば自分で掻けると思うがのぅ……」
「ま、まぁ……細かいことは気にしない気にしない!」
すぐさま棒を外して腕を元通りにする。
「とにかく、彼女も仲間として迎えてほしいんだ」
「私はぜんぜん構いません! にぎやかになりそうですし!」
リリアがぱんっと手を合わせながら。
「ワタシの計算では彼女を仲間に加えると効率が26%アップするヨ」
「俺も賛成だ。仲間は多いほど良いしな」
「うむ……これからの魔鉱石を探す旅でも重宝するかもしれん。よし、仲間に加えるのを認めてやろう」
会長の許可が得られたのでヴィクトリアが「やった!」とぴょんと跳ねる。
「ときに、名はなんと言うのじゃ?」
「あー……名前はね、実はまだないんだ。先祖は怪物と呼んでたけどね」
「さすがに『怪物』という名前はどうかと……」
リリアが人造人間を見つめながら言う。先祖であるフランケンシュタイン博士が造った人造人間は醜い外見をしていたが、彼女の造ったそれは当てはまらない。
「んー……じゃこういうのはどうだ? 『クリス』ってのは」
真壁の提案によれば怪物を意味する『クリーチャー』をもじったのだそうな。
「それいいね! クリスかぁ。うん! 良い名前だよ☆」
「ハイ。ワタシモ、ソウオモイマス」
人造人間あらためクリスがぺこりと頭を下げる。礼のつもりだろう。
そこへリリアが「あの」と遠慮がちに挙手を。
「その、さすがにそのままの状態ではかわいそうでは? なにか服を着せてあげたほうがいいかと……」
確かにクリスの身体は機械仕掛けだが、表面は人間に似せてつくってあるので目のやり場に困ることだろう。
「それもそうじゃな……ではリリア、なにか服を見繕ってくれんかの?」
「はい!」
「うむ、頼んだぞ。お披露目が終わったことじゃし、ここで解散じゃ」
◇◆◇
それから二日後――
授業を終え、生徒会室にはリリアを除いた面々が会議で進捗報告を行っているところだ。
「よし。この問題は後回しにして、次は目安箱じゃが――」
そこへコンコンとノックの音。ヴェルフェが許可すると「失礼します」とリリアが入ってきた。
「遅くなりました。彼女に服を着せるのに時間がかかってしまって……」
「気にするでない。クリスの服が用意できたのじゃな?」
「はいもちろんです! さ、クリスさん。こちらへ」
リリアに促され、姿を現したクリスは濃紺のワンピースに白のエプロン、頭部にこれまた白いフリルの付いたカチューシャを付けており、青い髪は後ろでまとめられている。
いわゆるメイドの出で立ちだ。
「彼女にはこの装いがピッタリかと思って仕立ててみましたが、いかがでしょうか?」
「おおっ! メイド服キターっ!」
「さっすがリリア! 似合ってるよ!」
「非常好!」
「うむ。いつもながら見事な出来栄えじゃ」
「ありがとうございます」
礼を言うリリアの横でクリスがスカートの裾をつまんでぺこりと頭を下げる。人間と変わらぬ典雅な仕草だ。
「アリガトウゴザイマス」
心なしか嬉しそうな表情を浮かべているように見えた。
「さて、リリアが加わったことじゃし、会議を続けよう。目安箱じゃが」
箱から回収した嘆願書を机にあける。
「いずれも緊急性の低いものばかりじゃが、気になるものがあってな……」
「気になるもの?」
全員が口を揃えて言い、会長がうむと頷く。
「これじゃ」
全員の前に出された一枚の紙には流れるような書体で書かれていた。
『副会長と真壁さんのお二人にのみ相談したいことあり。放課後に私の部屋で待つ。 S』
「このとおり、差出人が頭文字だけなんじゃ。心当たりはあるかの?」
ヴィクトリアと真壁を見ると、やはり心当たりがあるのか同時に頷いた。
「これってやっぱり彼女だよな?」
「うん。ボクもそう思うよっ」
二人の反応を見たヴェルフェがふむと指を顎に当てる。
「お主らにしか言えないことがあるようじゃな……二人とも、よろしく頼むぞ」




