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間章 勇者、目覚める


 遥かかなたの、人知れずの地――


 深い森のなか、ぽつんと一軒建った小屋にて目を覚ました老人はベッドから体を起こす。

 伸びをすると身体のあちこちから軋みが。


「……年は取りたくないものじゃな」


 よっこらせとベッドから下り、居間へと向かう。独り身らしい簡単な朝食を済ませたあとは着替えて身支度をすませる。

 壁に立てかけた(ほうき)やはたきといった掃除道具を手にして小屋を出た。

 

 ◇◆◇


 木漏れ日が差す森の中、老人は小鳥のさえずりや小動物の鳴き声を聞きながら歩く。

 この森にはモンスターや魔獣などといった(たぐい)の生物は見当たらない。

 それもそのはず、この森は太古から聖地と呼ばれる場所で、老人が向かう先には勇者しか手にすることができない聖剣が新たな持ち主を待ちながら眠っているのだ。

 その聖剣を管理、手入れするのが老人の日課である。

 途端、辺りが静かになった。まったくの静寂だ。


「変だな……今までこんなことはなかったんだが……」


 おかしいなと思い、先を進む。ここまでくれば聖剣の眠る台座まではあと少しだ。

 枝や葉をかき分けながら進む。上から垂れ下がった葉をのけると、陽光が目を差した。

 眩しさに目を細め、手で(ひさし)をつくる。

 すると、台座に何者かが立っていた。眩しくてよく見えないが、若い男――どうやら少年のようらしい。

 少年はまさに聖剣の柄に手を伸ばそうとしているところだ。


「そ、その剣に触れちゃならねぇ! その剣は勇者しか――」


 年老いた管理人が思わず声を上げるが、少年はお構いなしに剣に手を触れた。

 そして、台座からゆっくりと引き抜く。次に剣先が露わになると、聖剣は完全に引き抜かれた。

 刃が陽光を受けて燦然(さんぜん)と輝く。

 その輝きに老人はその場にへたり込んだ。


「ま、まさか……勇者様か?」


 少年は剣を片手に台座から降りる。太陽の光を受けて金髪をきらきらと輝かせながら老人の下へと――


「勇者様だ……勇者様がお目覚めになっただ!」


 老人が手を組みながら、神に感謝の言葉を捧げる。そして勇者の顔をひと目見ようと顔を上げ――


 首元になにかが入る感触。それが(やいば)であり、自分は聖剣、そして勇者によって斬られたのだと悟ったときには地面に倒れ、事切れていた。

 勇者は血振りをくれると鞘に納め、そのまま台座を後にした。

 

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