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27話 慰めの報酬 〜温泉へ行こう!〜 後編


 数分前――


 脱衣場を出ると、温泉には真壁ひとりだけだった。


「おお! まさにザ・温泉って感じだな!」


 ちゃぽんと足から浸かり、だんだんと体全体で一番風呂を楽しむ。


「ふぅうう〜極楽極楽♡」


 岩に頭を預け、リラックスしているとがららっと引き戸が引かれる音が。

 見ると、ヴィクトリアが全裸でこちらへ駆けていくのが目に入った。彼女の裸を見るのはこれで二度目である。


「ぶっ!」


 驚きのあまり、足を滑らせて湯に潜り、そのまま岩の裏側へと隠れる。そして今に至るというわけだ。


「そもそも混浴など、はしたないしのぅ」

「えー? でもボク平気だよ? イタルとは以前一緒に入ったし」

「ちょ、ちょっと待ってください! いま一緒に入ったと言いましたか!?」


 狼狽するエリザの問いにヴィクトリアがうんと答える。

 

「失礼ながら、お二人はお付き合いされているのですか?」

「んー……同級生としての付き合いくらいかな?」


 指を顎に当てながら答えるヴィクトリアにエリザの顔がますます赤くなった。


「そ、その……恋人同士でもないのに一緒にお風呂に入るのはいかがなものかと……」

「すまんのぅ。ヴィクトリアはすこし常識が欠落しているのじゃ。頭は良いのじゃが……」

「ワタシも同感だヨ」

「さすがにサキュバスの私でもそういうのはちょっとまだ早いと言いますか……」


 テンの横でリリアが顔を赤らめる。


「なんだよーみんなして! それじゃまるでボクが頭のおかしい子じゃん!」

「俺もそう思うぞ……」


 陰で真壁がぽつりと呟く。


「ん? いま誰かの声がしませんでしたか?」


 リリアが耳に手を当てながら。


やべっ! 思わず心の声が出ちまった!


「真壁じゃろ? 隣の風呂にいるようじゃしな」

「それもそうですね」

 

 スルーしてくれたようなので真壁はひとりほっと胸をなでおろす。


「それにしても今回は危なかったヨ。さすがのワタシもヒヤヒヤしたネ」

「ええ……本当に。ボウガンが使えなくなったときはどうしようかと思いました」

「うむ。わしもギリギリまで魔力を削られたしのぅ……もっと精進せねばな」

「ボクも帰ったらピストルを改良しなきゃね!」


 ヴィクトリアが手で水鉄砲をつくってお湯を飛ばす。


「私も今回の討伐で自らの未熟さを思い知らされました……学園に戻り次第、剣の腕をさらに磨かねば……!」


 ぎゅっと拳を強く握り、さらに続ける。


「ですが、ライカンに真正面から挑んだ真壁殿は勇敢でした。あの姿こそ、(まこと)の騎士の姿……」


 岩の後ろで聞いていた真壁は思わず鼻の下を伸ばす。


「それにしても、エリっちってホントに良いカラダしてるよね」

「え? そ、そうですか……? まぁ、日々の鍛錬のたまものというか……」


 ヴィクトリアの言う通り、均整な体つきだ。


「すごいです! 私の目から見ても立派な体つきですよ!」


 サキュバスからお墨付きをもらったエリザがますます顔を赤らめる。

 そのやり取りを仏頂面で見つめる者がひとり。


「わしも背が伸びて胸がもう少しあれば……」


 ヴェルフェが自らの実り乏しき胸を見下ろす。そこへぽんと肩に手が置かれた。見るとテンがふるふると首を振る。


「昔から言うネ。『隣の芝生は青く見える』だヨ」


 ぐっと親指を立てながら。


「なんの慰めにもなっとらんわ! 青どころか、黄金に輝いて見えるわ! だいいちお主もわしより多少膨らみがあるじゃろが!」


 ぎゃあぎゃあと丁々発止が繰り広げられたのでリリアとエリザが止めに入る。

 

「お、落ち着いてください! 会長」

「会長! 会長はそのままでも充分見目麗しいです!」


 二人がなだめようとしても(なし)(つぶて)だ。そこへヴィクトリアが手を挙げる。


「ボクだったら胸を大きくする機械つくれるよっ!」

「ま、真か……!?」


 食いついたヴェルフェがぴたりと動きを止める。


「うん。ただ、機械で伸ばすからそれなりの痛みが伴うんだ。最悪、千切れちゃうかも……」

「もういいわ! お主の発明に期待したわしがバカじゃったわ!」


 ふたたびぎゃあぎゃあと丁々発止。


「あ、あの会長。もしよければ私のマッサージを受けてみませんか?」

「マッサージじゃと?」


 ヴェルフェの問いにリリアがこくりと頷く。


「はい。私たちサキュバスは胸を大きくするマッサージの心得があるんですっ」


 たちまちヴェルフェの顔がぱあっと明るくなった。


「よ、よし! それではそのマッサージとやらを施してくれんか? ()は急げじゃ!」


 失礼しますとリリアがヴェルフェを自らの前に座らせ、胸のほうへと手を伸ばす。

 

「ここを刺激するように揉むと効果があるんですよ」

「む、むぅ……くすぐったいが、効果があるのなら……」

「なるほど。要はリンパ腺を刺激するってわけだねっ」

「はい!」


 女性陣が興味津々で見つめるなか、真壁もそろりと岩の陰から覗く。

 そしてごくりと生唾を飲む音。


ヴェルフェじゃなくてエリっちか、リリアなら良かったのに……。ヴィックは……まぁ見慣れてるか。


 心のなかでぼやくなか、マッサージは続けられた。


「これでひと通りは終わりですよ。ご自分で揉んでも効果はありますからね」

「そ、そうか! 感謝痛み入る……!」

 

 さっそく教えてもらったマッサージを試す。


「むぅ……心なしか効果が感じられてきたぞ」

「よかったです!」


 リリアがぱちぱちと拍手を。その横でエリザがごくりと唾を飲み、ものは試しとマッサージを施す。

 ただでさえ形の良い胸なので、マッサージで膨らみが強調されていく。


「うぉ……でっか……」

「あれ? また聞こえたよ。しかもなんか近いような」

 

 心の声が漏れたことにしまったと慌てて口を押さえるが、後の祭りだ。


「まさか、真壁殿が覗きを……?」


まずい……! 何とかしてごまかさねーと!


 とっさに猫の鳴き声を真似してみる。古典的だが、その堂に入った真似は全員が信じてくれたようだ。


「なーんだ猫か」


 ヴィクトリアが言うと、いきなりエリザがざばっと立ち上がる。


「ね、ねこちゃん!? そこにいるのですか!?」


しまった! 逆効果だったか!?


 湯の中でエリザがざぶざぶと近づく音がした。今の真壁にとっては死刑宣告の音が近づきつつあるように感じられたことだろう。


「ねこちゃーん♡」


 嬉々として近づくエリザにその時、ひゅうっと寒風が吹く。その寒さにぶるりと身を震わせる。

 そして――――


「へっ……くちゅんっ!」


 盛大なくしゃみと同時に首がぽちゃんと落ちる音。

 わたわたと自らの首を拾おうとするが、首はそのまますぅーっと前の方へと流れていく。

 やがて岩のところまで流れ着いたエリザの前には――


「ま、真壁殿……いったいそこで何をしてるのですか……?」

「いや、これはその……」

「なに? どーしたの?」

 

 ヴィクトリアがばしゃばしゃと駆け寄ってくる。むろん裸のままで。


「あれ? イタルじゃん! なんでここにいるのさ?」

「いやだから裸で来るなっての!」

「まさか……覗きを働いていたのでは……騎士としてあるまじき行為……!」


 エリザの身体が真壁の前に現れた。手には鞘に納まったままの剣が。


「違う! 誤解なんだってばぁああああ!」


 だが、首なし女騎士は剣を上段に構える。


「や、あの、エリザさん? もしかしてその剣でぶったたくおつもりで……?」

「騎士の情けです。最後に言い残すことはありますか?」

「え、それはえーと……ゆるしてにゃん?」


 可愛らしい猫のポーズを取るが、今の女騎士には通用しなかった。


「成敗ッ!」


 真壁の頭に剣が振り下ろされ、そのまま湯の中に倒れる。


 ◇◆◇


「……くっそ、ヒドい目にあったぜ……」


 村を後にして馬車の手綱を取りながら真壁が悪態をつく。


「まあまあ、誤解は解けたんだしさ。学園まで手綱を取ることで済んだわけだし……」


 隣でヴィクトリアがなだめる。


「だいいち、混浴だってことを前もって伝えてくれりゃこんなことにはならなかったのに……」

「その割にはまったく名乗り出てこなかったがのぅ……」


 ヴェルフェ含め、荷台にいる全員は顔を真っ赤にしていた。

 無理もない。風呂で覗かれたり、話していたことが筒抜けだったのだから。


「そういえばヴィック、今回手に入れた魔鉱石って6%なんだよな? こんな遠くまで飛んできたわりには小さくないか?」

「『魔鉱石が大きければ大きいほど遠くへ飛ぶ』の法則だね☆ たぶん飛んでいるときに分解したんじゃないかな? ほかに魔鉱石は見当たらなかったし」

「ロケットのように分解しながら飛ぶってわけか……デカい魔鉱石期待してたんだけどな」


 溜息をつく真壁の隣でヴィクトリアがふたたびなだめる。


「でも少しずつ前進してるよっ。この調子でいけば全部集めるのも夢じゃないよ!」

「だよなぁ……期待してるぜヴィック」

「うん! あ、そうだ。帰ったら魔鉱石ゆずってほしいんだ」

「そりゃいいけど、今度は何をつくるんだ?」

「んふふー。それは完成してからのお楽しみだよ☆」


 荷台にて二人のやり取りを見たエリザが首をひねりながら言う。


「本当にあのふたり、付き合ってないのでしょうか……?」

「同じ人族だから相性がいいんですよ。きっと!」


 リリアも微笑ましく見つめる。


「ワタシの計算によれば、ふたりの相性は」


 先を続けようとしたところへリリアに口を塞がれた。


「それは言わぬが花ですよ。テンさん」


 しーっと唇に手を当てながら。

 そこへエリザが「あの」と声をかける。


「もし、これからもまた旅をするのであればぜひまたお供させていただきたいのですが……」


 ご迷惑でしょうか?と皆の反応を伺う。すると全員が首を横に振った。


「迷惑なんてとんでもない! エリっちがいたら心強いよっ」

「うむ。お主がいれば百人力、いや千人力じゃ。わしも魔法の腕を磨かねばのぅ」


 ヴェルフェが杖を取り出して眺める。


「ぬ?」

「どうしたのですか?」


 横でリリアが様子を伺う。


「いや……杖の形が少し変わったような気がしてな……待てよ、そうか! これはわしの魔力が強化されたことによるものじゃ!」


 全員が杖に注目する。


「シルヴィー先生が言っておったな。この杖は持ち主の魔力に応じて形を変えるとな」

「要はレベルアップしたってわけか。ますます頼もしくなってきたな!」

「うむ!」


 魔力の強化を目の当たりにしたヴェルフェは力強く杖を握った。


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