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17話 それぞれの決意 リリアの場合


 生徒会招集の翌日、パンデモニウム女学園の敷地内にある牧場――

 そこでは牛や馬に似た動物が飼い葉をのんびりと()んでいた。

 そこへ飼い葉を手押し車でえっほえっほと運ぶ女学生がひとり。


「こんにちは。ハルちゃんさん」


 後ろから名前を呼ばれ、手押し車を止める。振り返らずともその声でわかった。


「こんにちはなの! リリアさん!」

「昨日お話した件なのですが……」

「もちろん大丈夫なの! こっち来て!」


 下半身が鳥、上半身が人間で背中に羽根を生やしたハルピュイアのハルは手押し車を押しながら案内する。


「助かります。今度ノワール地方へ行くのに防寒服を作らないといけないので……」

「防寒服に詰める綿ならこっちにあるの! でも……」


 さっきまで明るい笑顔を見せたハルがしゅんとなる。


「どうしたのですか? ハルちゃんさん」

「実は問題が……とにかく来てくれればわかるの」


 数分後、やがてふたりは囲いのある牧草地に着いた。そこには羊に似た動物がやはり草を食んでいる。

 だが、いずれも毛は生えていなかった。


「この時期だと毛がまだ生えてない子が多いの……」

「それは困りましたね……なにか代用できるものを」


 ハルがううんと首を振る。


「一匹だけいるの。あそこに」


 ハルが指さしたのは厩舎(きゅうしゃ)だ。ハルが扉を開け、リリアとともに中に入る。

 動物はすべて牧草地に放たれているが、一匹だけ奥の方に残っていた。

 

「毛があるのはあの子だけなの。メイちゃんっていうの」


 見ればなるほど、その一匹には生徒会一行五人分以上の毛に覆われている。

 ハルがメイの首にかけられた綱を引っ張るが、びくともしない。


「メイちゃんの毛がいるからお外に出てなの!」


 いくら引っ張っても微動だにしない。メイは面倒そうにぶすっとした表情を浮かべるだけだ。

 

「……このとおり、どうやってもお外に出てくれないの」


 ぜぇぜぇと肩で息をしながら。


「まぁ。困りましたね……」


 リリアが人差し指を顎に当てながらしばし考える。


「ハルちゃんさん」

「なに?」

「毛を刈るハサミはありますか? あれば貸していただきたいのですが」

「ハルが使っているのでよければ……どうぞなの」


 ハサミを渡し、リリアが礼を言う。


「それと、すこしの間外に出てもらえますか?」

「? それは構わないけど、気をつけてなの」


 ぱたりと扉が閉じられたのを確認すると、メイのほうへ向かう。そして屈んで目線の高さが同じになるようにする。


「こんにちはメイさん。生徒会のためにあなたの毛が必要なんです。なので刈らせてもらえませんか?」


 だが、メイはメェーっと鳴くとそっぽ向いてぺっとつばを吐く。


「……あらあら。イケない子……」


 糸のように細い目が開き、桃色の瞳孔があらわになる。


「言うことを聞けない子には、たっぷりとお話をしないといけませんね♡」


 そう言うとぺろりとハサミをひと舐め。




「リリアさん大丈夫かな? ケガしてないといいんだけどなの……」


 すると、目の前で扉が開かれた。そこから出てきたのはほくほく顔のリリアだ。両手には大量の毛が。


「……す、すごい。リリアさんすごいなの!」

「心を込めてお話したら刈らせてくれました」


 にっこりと微笑む。


「手押し車借りますね」

「うん! どうぞなの!」


 リリアを見送ったのち、気になったハルは厩舎へと入る。そして奥には丸ごと毛を刈られたメイがガタガタと身を震わせていた。

 


 自室に戻ったリリアは毛を傍らに置き、机に腰掛ける。


「厚手の生地、毛は揃いましたね。あとは……」


 机の引き出しから数枚の紙を取り出す。紙にはそれぞれ大きさの異なる寸法の型が記載されている。

 以前ツナギを作った際の型紙だ。

 型紙を参考にしながら生地をハサミで裁断し、ミシンで各部を縫い合わせていく。

 もちろん生地の裏側には防寒のために刈り取った毛が縫い付けられている。

 一時間後、ひとまず上着が出来上がった。

 手に取って高く掲げ、ほころびやほつれがないか確認したのちにうんと頷く。


「と、これを忘れるところでした」


 上着の左袖に校章をバックにして生徒会一行を表した星が並ぶワッペンをマチ針で固定し、慣れた手つきで縫い付けていく。

 ルイーザの屋敷で偽物に気づいたキッカケになったワッペンを御守り代わりにと糸を通し、最後に玉留めしてから糸を切断する。

 最後にずれていないか確認する。自分でも満足のいく出来栄えだ。


「この調子で皆さんの分も作らないと!」


 さっそく次の作成に取りかかるなか、ワッペンの生徒会一行を表す星がランプの光を受けてきらりと光る。


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