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15話 それぞれの決意 ヴェルフェの場合


「みな、ついに学長から外出許可証を手に入れ、ようやく学園敷地の外へ出られるわけじゃが……」


 生徒会室にてヴェルフェが全員を見回す。そしてぺらりと机上に広げた新聞をめくる。


「前にも言ったが、ノワール地方にグレイハウンドの群れが発生してるそうじゃ。依然として群れは暴れ回っていると最新の記事にも書かれておる」


 そう言って該当の記事を指差し、さらに続ける。


「魔鉱石があると思しきノワール地方は極寒地帯じゃ。それにわしたちはルイーザの件で無力さを思い知らされたが、今回は準備を整えていこうと思う」


 ふたたび一同を見回すが、反論を唱えるものはいなかった。全員ルイーザの屋敷で痛い目にあったのだ。


「出立は一週間後にしようと思う。それまでに各自、装備や準備を整えておいてほしい。そこでじゃが……」


 リリアのほうを見る。


「リリア、ルイーザの件ではツナギを作ってくれたな。今回は極寒に備えて防寒服を作ってほしいのじゃが、頼めるか?」

「もちろんです! まかせてください!」


 リリアがふんすっとガッツポーズを取りながら。


「次にテン、お主はもう二度と魔鉱石を飲み込むという馬鹿な真似はしないでほしいのじゃ」

「あの時は緊急事態だったとはいえ、もうこりごりだヨ。それ以外の方法でサポートする手を探してみるネ」


 うむと頷き、次いでヴィクトリアのほうへ。


「ヴィクトリア、ノワール地方へ向かう馬車の手はずを整えてくれるか? それと何か役に立ちそうなものを作ってほしい」

「がってんだよっ! ボクにお任せあれ!」


 副会長がどんと胸を叩く。会長がうむと頷き、最後に真壁のほうを。


「真壁よ、お主は……そうじゃな。馬車に荷を積み込むのを手伝ってくれんか?」

「まぁ……俺はみんなと違ってスキルがあるわけでもないしな。というか俺、雑務係だし」


 ぽりぽりと頭を掻きながら言う。その時(チャイム)が鳴った。


「今日はここまでじゃ。それでは各自準備に取りかかってくれ」


 生徒会一行が部屋を出、それぞれ自室に戻るなかヴェルフェだけは生徒会長室とは別の方向へと歩く。

 しばらくしてから目的地の扉の前に着いた。ノックしようとして一旦止める。

 ふーっと深呼吸してから意を決してノック。


「開いとるでー」

「失礼する」


 扉を開けると、そこにいたのは生徒会の顧問であるシルヴィーだ。

 足元まで届く銀髪をした魔女は机に腰掛けながら、長煙管を咥える。


「珍しいこともあるもんやな。あんたがひとりでここに来るなんて。で、用件は?」


 ぷかりと煙を吐く。


「先生、実は」


 生徒会で話したことをかいつまんで話す。


「ということで、一週間後出立するまでに(おのれ)を鍛えなおしたいのですじゃ」


 話を聞いていた顧問はふーんと事もなげに言うとふたたび煙をぷかりと吐く。


「よーするに魔法を強化させたいっちゅーことやね?」

「うむ。時間がないなかすまないが、ぜひお願いしたいのじゃ」

「んー」


 すっくと机から立ち、棚の方へと。


「あんたらが行くところってノワール地方やったっけ?」

「うむ」

「ほうか」


 がさがさと小物が乱雑に並べられた棚をあちこち探る。

 

「ノワール地方は極寒地帯やし、そのうえグレイハウンドの群れとはなぁ……あ、あったあったわ」


 シルヴィーが取り出したのは一振りの杖だ。魔法の杖である。それをヴェルフェに手渡す。


「これは……」

「アカシアの木から造られた逸品や。モノはええで。それにその杖は持ち主の魔力に合わせて強化されるっつー代物や」


 指揮棒のように構えると羽根のように軽い。


「ここじゃなんやから練習場行くで」


 

 練習場は学園の外にあり、(まと)と思しきカカシが一列に並ぶ。

 

「まずはここから始めてみよか」


 シルヴィーのいるところからカカシまでの距離はおよそ十五メートルといったところだ。


「ほな構えてみぃ」


 ヴェルフェはごくりと唾を飲み込み、杖を構える。狙うは真正面のカカシだ。近いように見えて遠く感じる。

 たかが十五メートル、されど十五メートルという微妙な距離感がうまく掴めない。それでもヴェルフェは意識を集中して杖の先端に魔力を込める。

 やがてぽっと火が()き、呪文の詠唱が終わると同時に火の球はカカシに向かって翔ぶ――――


 だが、火の球は半分の距離で落ち、ぶすぶすと音を立てて消えた。

 そこへゴツンとシルヴィーからの長煙管による鉄槌が頭に下される。


「いっ……!」

「遠いと思ってるから(りき)みすぎなんや。肩の力抜け。肩の力を」

「う、うむ……」


 続けて構えるが、やはりこれもさっきと変わらない。めげずに何度もトライする。



 ――十数分後。


 魔力を使い果たしたヴェルフェは肩で息をしながら地面に手をつく。依然として的のカカシは無傷のままだ。


「魔力がからっけつやな。もうここまでにしよか」


 ぷかりと煙を吐きながら言う。


「い、いや……少し休んだらまた挑戦を!」

 

 そう言う彼女は息も絶え絶えだ。はーっとシルヴィーが溜息をつく。


「魔力を上げるなんて一朝一夕ではいかんのはあんたもわかっとるやろ?」

「わかっております……! でも、それでも……」


 なんとか立ち上がり、ふたたび杖を構える。


「それでも、わしは生徒会長として(みな)を守守らんと……!」

「……その無鉄砲さ、キライじゃないで」


 ふーっとシルヴィーが煙をくゆらせながら。



 出発まであと七日――。


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