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14話 ルイーザ・マンション⑪


 ミアを先頭にして生徒会一行は慎重に歩く。コツコツと足音が響くなか、ヴェルフェが声を発した。


「だんだんと魔素が濃くなっていくのがわかるな……元凶に近づいてきてるんじゃな」

「ええ……もうすぐです」

 

 すると目前にふたたび赤色のカーテンが。


「ここです。この奥にルイーザがいます」


 全員がごくりと唾を飲む。真壁が念のためにとナタを構え直す。

 全員の覚悟が決まったのを見てミアが頷き、カーテンのほうへ向き直る。


「ルイーザ様。客人をお連れしました」


 カーテンの奥からびりびりと震わせる声量で返答が返ってきた。


「やっと来たのかい! さあこちらへ連れてらっしゃい!」

「承知しました」


 ミアが金糸の紐に手を掛けるが、微かに震えている。目をつむり、ぎゅっと引っ張る。

 左右に開かれたカーテンの向こう側にはこれまた白黒の市松模様の床が。

 そしてその中央に位置するのはルイーザが。いや正確に言うならばルイーザの頭部だ。それも天井まで届くほどの巨大さだ。


「な、なんだよこれ……」

 

 ルイーザがじろりと真壁を睨みおろす。


「ふん、今回はドブネズミがいるみたいだねぇ。食べ応えがありそうなのは……」


 睥睨(へいげい)するかのように一行を見やる。


「人間の女にサキュバス、そっちはキョンシーかい? それとちんちくりんなのがひとり」

「誰がちんちくりんじゃ! わしはパンデモニウム女学園の生徒会長、ヴェルフェゴール! かの魔王の娘じゃ!」


 魔王の娘と聞いてルイーザの目がかっと開かれた。


「魔王の娘だって? それならますます食いでがあるじゃないか! 決めた! あんたは食後のデザートに取っておいてやるよ! キョンシーと人間の娘は前菜(オードブル)、サキュバスの娘はメインディッシュ、ドブネズミのあんたはさしずめ、デザートの前の口直し(ソルベ)ってところだね!」


 そう言ってけたけたと(わら)う。次にふーっと息を整えたので、一行が風圧でよろけそうになる。


「さて、ミア。案内ご苦労だったね。あとは私がいただくから――」

「私……もうこんなことやめます!」

 

 きっぱりと言い放った彼女の一言にルイーザはぱちくりとしたが、すぐに怒気をあらわにした。


「あんた……何を言ってるのかわかってるのかい?」


 だが、ミアはきっと睨み返す。


「もうイヤなんです……! 迷い込んだ人たちをここに連れてきて、あなたの養分にさせるなんて……!」


 ルイーザは怒気をあらわにするかと思いきや、紅の塗られた唇をにやりと歪める。


「そうかい? そう言うならあんたが欲しがっているものを粉々にしてしまってもいいんだねぇ?」

「……ッ! それだけは……!」


 やっぱりねとルイーザがふたたび唇を歪めた。


「あんたの大事なものがあたしの手元にあるかぎり、あんたはずっとここであたしのために働くんだよ!」


 そして耳障りな笑い声で嗤う。


「ひどい……! どうしてこんなことをするんですか!?」

「あんたもサキュバスならわかるだろ? 美貌を保つためにはそれなりの対価がいるのさ!」

「対価って……自分の美貌のために食べたの!? 信じらんないよ! どうしてそんなことができるのさ!?」


 ヴィクトリアが三つ編みの赤毛を振り乱しながら。

 

「ふん! 小娘風情が知ったような口を! 今にあんたもわかるさ! だんだんと年を取っていくと自らの美貌が衰えていく恐怖ってものがね! これを見な!」


 ルイーザが顎をしゃくったので、そのほうを見る。そこには特大の鏡が掛けられていた。屋敷の中で一際大きい鏡だ。

 磨き上げられた鏡面にはうっとりとするルイーザの顔が映っている。


「特別に仕立てた鏡さ。黒魔術のおかげであたしはいつでもこうして美貌あふれる顔をいつでも見られるってわけさ!」


 顔の角度を変えながら恍惚の表情を浮かべる。


「ぬぅ……! かつて人間だったとはいえ、魔族の風上にも置けん!」


 ヴェルフェが目を閉じて呪文を唱えると、彼女の手から炎の玉が現れた。


「わしの父に代わって成敗じゃ!」


 めらめらと燃える炎の玉をルイーザめがけて投げつける。


「ふん! そんなちっぽけな火で!」


 思いっきり息を吸い込んだかと思うと突風のように吹き出された。火の玉はあっけなく消え、生徒会一行は風圧で壁に叩きつけられる。


「も、もうやめてください……! 何でもしますから……!」


 ミアがぎゅっと目をつむりながら。


「黙ってな! あんたにはあとでたっぷりと分からせてやるからね!」


 意識がミアへとそれたためか、風圧はおさまり、一行は今度は地面に叩きつけられた。


「ッう……!」

「大丈夫か!?」

 

 真壁がヴェルフェを助け起こす。


「う、うむ……大事ない。じゃが、どうすればあやつを……」

「ボクたちには武器がないから太刀打ちできないよっ」

「私のムチでは効果は薄いですし……」


 一行が攻めあぐねているなか、ただひとりテンだけは冷静だ。

 目を閉じ、じっと黙考をしたかと思うといきなりかっと目が見開かれた。ツナギのポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認すると頷く。

 そしてすぐさまペンを取り出し、壁に図のようなものを描く。


「みんな、鏡があった場所を教えてほしいネ!」


 テンが描いたのは屋敷の見取り図だ。一階と二階に分かれているが、テンが探検したところのみしか詳細が描かれていない。


「ボクたちが行ったところはここにあったよっ」

「俺たちはここのあたりだ!」


 それぞれペンで記憶している鏡の配置と図面を描いていく。

 程なくして全体図が完成した。完成したそれをテンはじっと見たのちに少し考え、ペンを受け取るとふたたび壁にペンを走らせる。

 今度は図面でなく数式らしきものだ。


「テン? いったい何をしておるんじゃ?」

「なんとかしないとルイーザが……」


 リリアが不安そうにルイーザをちらりと(うかが)う。当の本人はまだミアを怒鳴りつけているようだ。

 すると、ペンを走らせる音がぴたりと止んだ。


「……見えたヨ。勝利への道標(みちしるべ)ガ」


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