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3話 フランケンシュタインズ•ゲート


「なぁ、まさかマジで俺を人体実験にかけようってんじゃないよな?」

「あははは、冗談だってば。冗談!」


 そう言ってごまかすヴィクトリアを先頭にして一行は学園の廊下を歩く。


「のぅヴィクトリア、さっきお主はこやつが元の世界に戻れる手がないわけではないと言ったな? それは(まこと)か?」


 ヴェルフェが半信半疑の目つきで見る。


「百聞は一見にしかずだよっ。実際に見てもらったほうがわかりやすいし……あ、着いたよ」

「ここって……俺が飛ばされた部屋だよな?」

「ご明答☆」


 ヴィクトリアがウインクしてドアを開けると、そこは真壁の言うとおり、ヴィクトリアと初めて会った部屋だ。

 一行は部屋の中へと入っていく。


「最初、ここにいたときはちゃんと見てなかったけど、なんか……実験室て感じだな」

「そうだよっ! ここはボク専用の部屋兼実験室さ!」


 ヴィクトリアの言うとおりその部屋はまわりが実験器具や参考文献で埋め尽くされており、天井にはパイプやケーブルが血管のように張り巡らされていた。

 パイプからはときおりごぉんごぉんと音を響かせている。

 

「しっかし……まさにザ•実験室って感じだな……かなり金かかってるんじゃないか?」

「それはヴィクトリアさんも含め、代々フランケンシュタイン家が使用している部屋なのです。ですからもともとあった物もあれば、ヴィクトリアさんの私物もあるんですよ」


 真壁の問いにリリアがおっとりとした口調で説明を。

 

「へぇー……ん? この容器は?」

 

 真壁が手にしたのはビーカーと同じくらいの大きさの真鍮製の缶だ。中身は見えないが、かすかに音が。

 耳を容器に近づけると、細々とした声が蓋に開けられた小さな穴から漏れる。


「――シテ……、コロ……シテ……」


 真壁はすぐさま元の場所に戻した。


「それじゃみんな、これを見て!」


 じゃーんとヴィクトリアが指し示したのは円形の金属製のフレームだ。

 大人ひとりが通れるくらいの大きさで、すぐ横には透明なカプセル容器が備え付けられているが、割れてしまっている。


「これ……もしかして、転移装置アルか?」


 テンが仰ぎ見る。


「正解☆ イタルが……あ、真壁のことね。人間界とのゲートがたまたま開いてここから出てきたってワケ!」


 ふふんとヴィクトリアが誇らしげに。


「で、このゲートを使えば俺は元の世界に帰れるってわけだな?」


 すると、さっきまで誇らしげだったヴィクトリアがしゅんとなる。


「それが……この装置を動かす動力が足りないんだ……」

「動力?」


 ヴィクトリア以外の全員が異口同音に発する。


「うん。これを見て」


 指さしたのは割れたカプセル容器だ。横には目盛りが刻まれていた。


「もともとここには魔鉱石(まこうせき)が満タンに入ってたんだ」

「魔鉱石というと、生徒会室にあった照明器に使ったアレかのぅ?」


 ヴェルフェの問いにヴィクトリアが頷くと、おもむろにポケットから何かを取り出す。それは淡い(あお)色を放った小石だ。


「ゲートが開いたとたん、爆発してカプセルが割れて飛び散っちゃったんだ。あの照明器はわずかに残ってたのを使ったんだけど、これだけじゃ全然足りないんだ……」


 ヴィクトリアいわく、この石でたったの3%なのだそうな。


「つまり、その魔鉱石をすべて集めれば真壁さんは元の世界に戻れるということなのですね?」


 リリアが細い指を顎にあてがいながら言う。


「それじゃ、さっそくその魔鉱石とやらを探せばいいんだな!? どっかそこらへんに……」

「それが……」

 

 ヴィクトリアが上を指差す。全員が見上げると、そこにはぽっかりと穴の開いた天井が。


「爆発の影響で天井に穴があいて、そこから飛び散っちゃったんだ……たぶん学園の外まで飛んでるかも……」

「なんだと!?」

「なんじゃと!?」

「アイヤー!」

「あらあら、まあまあ!」


 がくりと真壁が膝を折る。


「じゃ、俺はもう元の世界に帰れないじゃないか……!」

「まあまあ、こうなったのはボクの責任だし、なんとか散らばった魔鉱石を探す手を考えるからさ!」

「たまにしか発明が成功しないお前に言われてもなんの慰めにもならんわ!」


 なんとか真壁をなだめようとするヴィクトリアにヴェルフェが「ちょっと待て」と声を。


「魔鉱石を新たに採掘するのにどのくらいかかるのじゃ?」

「えーっとね、ボクのひいひいじいちゃんの代から集めてきたから……うん、300年以上はかかるね。少なくとも」

「300年!? その頃にはとっくに死んどるわ! 俺!」

「だ、だからさ、採掘するより探したほうが手っ取り早いと思うんだよっボクは!」


 ふたたびぎゃあぎゃあと丁々発止が繰り広げられる。これまたふたたびヴェルフェが制止の声を。


「もうよい! いくら議論してもラチがあかんわ! ここでわしから一つ提案じゃ」


 こほんと咳をひとつしてから真壁の方へと。


「魔鉱石が溜まるまでお主にはこの学園の生徒として生活してもらうのと同時に、生徒会の一員として働いてもらう! 幸い、雑務役が空いておるしな」

「雑務役ぅ? 俺が?」

「うん! それがいいよ! 生徒会には色んな相談事が持ち込まれるからね。もしかしたら魔鉱石を探す手がかりがつかめるかもしれないし! その間にボクは魔鉱石を探す方法を考えてみるからさ! この天才美少女発明家ヴィクトリアにお任せあれ!」


 額に付けたゴーグルを下ろして誇らしげに両腕を組む。

 その時、鐘の音が鳴り響いた。


「む、終業の(チャイム)か。今日はここまでにしよう。真壁よ、明日からお主は正式に学園の生徒として授業に出てもらうぞ。むろん手続きはこちらで済ませておくからのぅ」

「んな勝手な……」


 すると、テンが算盤をぱちぱちと弾いていく。


「計算の結果、生徒会の一員として活動した方が生還率が20%アップするネ」

「それならやらないよりはマシか……」

「それと、今ある魔鉱石が3%だから……」


 ふたたびぱちぱちと珠を弾く。


「うん、100%まであと97%必要と出たヨ」

「それ計算するまでもないからね!」


 横からヴィクトリアのツッコミ。すると、テンが1枚の紙を渡してきた。


「なにこれ?」

「ここの天井の修理代ネ」

「いくらなんだろ? えっと、ひいふうみい……」


 ゴーグルを外してケタを数えると、ヴィクトリアの顔がますます青ざめていく。

 ヴェルフェがちらりとリリアの方に向き直る。

 

「リリアよ。すまんが、真壁を部屋に案内してやってくれんか?」

「はい。真壁さんこちらへどうぞ」


 リリアがにこりと微笑む。


「あ、はい……」


 リリア以外の生徒会の三人を残してふたりはヴィクトリアの部屋兼実験室を後にする。


 

 魔鉱石が満タンになるまで、あと97%

 

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