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14話 ルイーザ・マンション④


「しっかし、こんな伸び放題の草は初めてだな」


 そう言いながら真壁はナタで身の丈を超える草や茎を刈って進む。

 鬱蒼(うっそう)とした暗い森の中を一行は慎重に歩く。


「長らく放置されていたからのぅ。管理する者もおらんのじゃ」

「ですね。方角はこちらでよろしいのでしょうか? テンさん?」

「うん。このまま道なりにまっすぐだヨ」


 コンパスを手に地図を見ながら。そこへヴィクトリアが横から覗く。


「この分だとあと50メートルってところかな?」

「マジかよ……ぜんぜん目的地の館が見えないぞ。ホントにこの道で合ってんのか?」


 ふたたびばさりと草を刈る。


「テンは計算だけでなく測量もお手のものじゃ。信じて進め」

「はいはい」

「そーいえばリリアの作ってくれたこのツナギ、めっちゃ動きやすくていいよ!」


 ヴィクトリアが灰色のツナギを嬉しそうに見回す。全員が同じものを装備している。


「うふふ。気に入っていただけて嬉しいです! 以前着た防護服より動きやすいほうがいいかと思って作ってみたんです」


 お裁縫は得意ですからとにっこりと微笑む。


「それに皆さまの左胸に生徒会をイメージしたワッペンも縫い付けたんです」

 

 見ればなるほど、校章をバックにして星が五つ並んでいる。リリア曰く、生徒会一行を表しているのだそうな。


「そーいや俺の制服を仕立ててくれたのもリリアだったな。そういえばヴィック、お前の作ったこのヘルメットもなかなか良いぞ」


 真壁が炭鉱夫が被るようなヘルメットを指さす。正面にはヘッドライトが付いているので闇夜を明るく照らしてくれる。これも全員装備だ。


「でしょー☆ カンテラだと手が塞がっちゃうからね。魔鉱石を分割したけど、ある程度は長く照らせるよっ」


 自称天才美少女発明家がふんすっと胸をそらす。


「ボクが改良した機構だから、電流をあえて交流させることによって――」


 さらに自説を続けようとしたところ、一行はすでに先を進んでいた。


「あーちょっと! みんな待ってよー!」



 事の発端は二日前に遡る――


「あなた達にお願いしたいことがあります」


 学長室にてエウリアが生徒会一行を見すえながら言う。


「当校の裏側に位置するルイーザの館は私が幼少の頃からある(ふる)い家なのです」


 次に首元に下がっているネックレスに手を触れながら。


「その館のどこかにこれと同じネックレスがあるはずなのです」


 ですからと続ける。


「ぜひ生徒会の皆さまに探し出してほしいのです」


 しばしの静寂。それを破ったのはヴェルフェだ。


「あいわかった。学長の願い、必ずや生徒会一行が叶えてみせようぞ!」

「ありがとうございます……! ではこのネックレスと地図をお渡ししますね」


 二人のやり取りに魔王がうんうんと頷く。


「それでこそ我が娘だ。そうだ、これを持って行くがよい」


 念のために持ってきたものだと魔王が取り出したのは黒いケープだ。フードがあるので頭まで被れるようになっている。


「特別に造らせたケープだ。これがあれば太陽の下でも活動できる代物だ」


 ヴェルフェ、リリア、テンの三人がおおっと目を輝かせる。それもそのはず、三人は太陽の光を嫌うのだ。


「感謝する! 父上!」

「さすが魔王様です!」

「まるであつらえたようにピッタリネ!」


 エウリアがふふふと微笑む。


「発つ前にしっかり準備はしておいてくださいね? 期待してますよ」


 最後に、怪我には気をつけてくださいねと念を押す。


 閑話休題――。


「まだなのかよ? いいかげん疲れてきたぞ……」


 もう何度振るったかもわからないナタをふたたび振る。ばさりと草が落ち、さらにナタを振るおうとした時だ。

 

「きゃっ!」


 少女の悲鳴が聞こえた。


「うおっ! 大丈夫か!?」


 真壁が背後の生徒会一行を見やるが、全員が首を横に振る。

 

「今のは……?」


 すると、その問いに答えるかのように茂みの向こうから声が聞こえた。


「あ、あの! すみません! わたしこの近くに住んでいるものですっ」


 見ると茎と茎の間から少女がこちらを見るように。


「危なかったですね! もしナタで切ってたら危うくその子を傷つけるところでした」


 リリアがほっと胸を撫でおろす。


「お主、近くに住んでいると言ったが、それはどこなのじゃ?」

「わたしの家は向こうです」


 少女が背後のほうを指さす。


「とにかくこのままだと前に進めないから下がってくれないか?」

「あっ、そ、そうですね! すみません! 今すぐどきます!」


 安全なところまで下がったのを確認してからナタを振るう。

 ばささっと音を立てて茎がなぎ倒されたので、少女の姿がはじめて(あら)わになった。

 年は10歳もいかないくらいだろうか。長い白髪が腰まで伸び、これまた白いワンピースを身に着けている。


「あ、あのっ。わたし、ミアといいます……」


 ミアという名の少女が手を胸に当てながら言う。


「皆さまはいったいここでなにを……?」

「俺たちはこの先にあるというルイーザの館を目指してるんだ」


 ルイーザの館と聞いてミアが目を見開く。


「そこ、わたしが住んでいるところです……! よければご案内しましょうか?」


 少女の提案に一同がおおっと声をあげる。


「願ってもない僥倖(ぎょうこう)じゃ。ミアよ、案内をよろしく頼むぞ」

「はっ、はい! ではこちらへどうぞ」


 一行はミアを先頭にして進む。その先には草や茎はなく、道が続いていた。


「いやーよかったな。案内人が出て……ん? どうした? テン」


 見ると、テンが細い指を顎に当てながらなにか考えている様子だ。


「……妙だヨ。学長が言ってたネ。あの館は廃屋になってるっテ」

「確かにのぅ……考えてみれば妙な話じゃ」

「つい最近住みつくようになったんじゃないでしょうか?」

「とにかく先に進もうよっ。ボクちょっと疲れてきたし……」

 

 一行がひそひそ話をするなか、ミアがこちらを振り向いた。


「どうしました? みなさん? 館はもうすぐですよ」


 そう言うとくるりと向きを変え、ふたたび歩く。


「……ここでいくら考えても、らちは明かんな。先を進むぞ。学長の願いに(むく)いるためにも」


 ちらりと真壁を見上げる。


「お主が元の世界に戻るためにもな」

「……おう!」

 

 真壁たち生徒会一行はミアの後に続いて歩き始めた。


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