13話 モンスターズ•カレッジ
終業の鐘がなり、授業を終えた生徒たちがわらわらと教室を出る。そのなかには真壁とヴィクトリアもいた。
「あー、やっぱ歴史の授業はかったるいな……」
「だねっ。ボクはどっちかっていうと理数系の授業が好きだよ」
他愛のない会話を交わしながら二人は廊下を歩く。
心なしか、すれ違う生徒たちから視線をちくちく感じる
「ねぇ見てよ」
「あれがウワサの……?」
「人間なのにねぇ」
そこかしこからひそひそ話が聞こえてくる。
「……なんか俺、ウワサされてるよーな……」
「そりゃイタルは生徒会始まって以来の活躍をしたんだし☆ ウワサになるのはトーゼンだよっ」
「そ、そぉか? そぉーかな? これなら俺に好意を寄せている子のひとりやふたりくらいいても……」
でへへとだらしなく鼻の下を伸ばしていると目の前に立つ者が。
「……そのようなだらしない顔で廊下を歩かないでくださる?」
胸の前で両手を組みながら言うのは委員長であり、吸血鬼であるスカーレットだ。
じろりと紅い目で睨む。
「あ、いいんちょ」
「お、いいんちょじゃねーか」
「いいんちょじゃなく、ちゃんと委員長と呼びなさい! というかふたり揃って言わないでくださる!?」
「まったく……」とため息をつく。
「とにかく、私のクラスだけでなく、他のクラスにもあなた達には感謝してますのよ。プールが開放されたのもあなた達のおかげだと聞きましたし」
「ああ、プール掃除の件のか……」
「それに最近、学食の野菜が美味しくなったような気がしますの。調理士のおばさまに聞いたらそれも生徒会のおかげだとか」
「でしょ! 特別な肥料を使ってるからね☆ なんたってあれは――」
先を続けようとしたところを真壁が口を押さえる。
「むぐっ」
「いやーあれは企業秘密というか……そのことについては話せないんで……」
はははと笑ってごまかす。
「……? まあいいわ。これからも新鮮な野菜が出来るよう、しっかり励みなさい」
最後に「期待してるわよ。癪だけどね」と後にした。
スカーレットが去ってから、ヴィクトリアの口から手を離す。
「ぷはっ! いきなりなにすんだよっ!」
「肥料のことは黙ってたほうがいいぞ」
無理もない。プール掃除の際に救出した中年スライムの老廃物を肥料代わりにしてるのだから。
「とにかく、生徒会室に行こーぜ」
その時、ふたたび視線が。今度は背後からだ。
振り向くと柱の陰からこちらを視つめる者が。
身体中に眼の生えたモンスターだ。すべての眼が真壁をまさに喰い入るようにみつめ、口からはハァハァとよだれを垂れ流していた。
真壁に気づかれたと見るや、きゃっとでも言うように手で顔の眼を覆うが、手にも眼があるので意味をなさない。
「……っ!」
背筋にぞわっと悪寒を感じた真壁はすぐに目線をそらしてふたたび歩く。が、視線はいつまでもグサグサと刺さる。
「あーいうのはお断りだな……どうせなら人間の子が」
ちらりと隣のヴィクトリアを見やる。
「ん? どーしたの? イタル」
「んにゃ、なんでもない……」
「?」
真壁はぽりぽりと頬を掻きながらふたり揃って歩く。




