間章 娘からの手紙
パンデモニウム学園よりはるか彼方の地方――
やはりそこも雷鳴が轟くなか、雷光が厳しい古城を浮かび上がらせる。
程なくして雨が降り始め、城門の門番兵であるオークの兜をしとどに濡らす。
「へっきし!」
門番兵が盛大なくしゃみをする遥か頭上で、一羽の白い梟が翼を広げながら城の窓のなか目指して翔ぶ。
やがて窓の桟に着地し、ホーホーと甲高い鳴き声を。
すると、絨毯が敷かれた廊下から年配の男――ケープに身を包んだ魔導士が歩いてくる。
「なにやら聞き覚えのある声がしたかと思えば、やはり御息女のペットでしたか」
ヴェルフェのペットである梟に近づくと、脚に金属製の筒が結わえられているのを認めた。
「これは……書簡ですか。どうやらお父上宛のようですな」
脚から筒を取り外し、ポケットにしまう。そして梟に「ご苦労。ヴェルフェゴール様によろしくお伝えください」と頭を撫でてやる。
ひときわ甲高い声で鳴いたのちに、ふたたび闇の中へと飛び立つ。
初老の魔導士は目前の重厚な扉の前に立つと、一呼吸置いてからノックをしようとしたところ――
「構わん。入れ」
扉の向こうから入室の許可が出たので、魔導士は一瞬面食らったが、すぐに気を取り直して「失礼します」と入室する。
そこは執務室らしく、声の主――魔王は執務机に座していた。
「どうしたダール。何用か?」
「は、閣下。実は御息女から手紙が来ておりまして……」
「なに?」
すぐさま机から立つなり、つかつかと歩み寄る。そしてダールという名の魔導士が手にしている手紙を受け取った。
「うむ……確かに我が娘からだな」
顔まで覆う兜を被っているので表情は読めないが、久々の娘からの手紙に破顔していることだろう。
一字一句大切そうに目を通し、ついに最後まで詠み終えるとそれを大事そうにしまう。
そして老魔導士のほうへ顔を向ける。
「ダールよ」
「は、何でございましょう?」
「すぐに出立の用意だ。学園に向かわなければならん」
「学園というと、パンデモニウム学園でしょうか……?」
ダールの問いに魔王がうむと頷く。
「最愛の娘の様子を目にしたいしな……それに」
コツコツと足音を響かせながら扉のほうへ。
「異世界からやってきたという少年に会ってみたくなったのだ」
ばさりと漆黒のマントを羽織ると、執務室を後にした。




