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異世界転生妄想部  作者: 安田座
8/10

八話:ホテルの高級プールはスルー

 

 高速道路を三十分ほど走るとかなり大きな街に出た。 出口を出てそのまま一般道を四、五分走り、かなり大きなホテルの駐車場に入り地下三階層まで進んで駐車した。

 車から降りた二人は、バイク男に連れられて近くのエレベータに乗る。 なお、先ほどのメイド服の少女も運転手も車に残った。

 エレベータは最上階まで上がり、降りると、屋上プールの受付ロビーだった。

 派手な水着姿の人々が、かなりなセレブ感を醸し出しつつ歩いている。

「ここなのか?」

 守護がバイク男に聞く。 高校生には場違い過ぎるのだ。

「ああ、ちょっと待っててな」

 バイク男は、答えると受付に向かった。

 守護は、警戒すべくロビーを見回す。 すると、少し離れたソファで手を振って合図する賢至と勇の姿があった。

 由美香が、小さく手を振って答える。

「行こう」

 守護は、賢至たちの方へ向かった。バイク男がまだ戻って無いが、まずは合流を優先する。


「何か聞いてる?」

 守護は、賢至たちに聞く。

「いや、連れて来られただけだ」

「僕らも、来てからまだ五分くらいしかたってないよ」

「ふむ」

「あいつは?」

 賢至がバイク男について聞く。

「味方みたいな敵みたいな味方?」

「まぁ、お前が付いて来たんじゃ、大丈夫じゃろ。 来たぞ」

 賢者みたいな賢至が納得する。

 そしてバイク男が戻ってきた。

「それぞれこのキーの個室更衣室に入ってくれ、入ればわかる」

「なんか高そうだけど、あんたが払ってくれるのか?

 あと、水着はレンタルしなくていいのか?」

 守護の視線が一瞬由美香に向いて戻る。

「しなくていい、更衣室へ行けばわかる」

「女性用は絶対安全なんだろうな? 合理的に引き離す作戦じゃないだろうな?」

「保証するよ。 信じて欲しい。 それに、すぐに合流できる」

「あんたの保証を信じる根拠は無いが、ここまで来た以上、わかった、行こうぜ。 絵野沢さん、一人にするけど落ち着いてね」

「ありがとうございます。 大丈夫そうです。 今、不思議なくらい落ち着いています」

 由美香が、確かに普通な感じで答えた。

「おっけー、じゃ、急ごう俺達は」

 守護は、由美香にもこの数日の事件でいろいろな耐性がついたのかもと考えたが、思い出させたく無いので言葉にしなかった。

 そして、賢至達を急かすように更衣室に向かった。 案内板も出ているが、方向は、バイク男が指さして教えてくれた。

 女性用は反対方向で、由美香も小走りで向かった。


 更衣室に入って数分後、四人は、バイク男と一緒にまたエレベータに乗っていた。 上って来たのとは別なエレベータだ。

 指示された番号の個室更衣室に入るとメモが置いてあり、指示された様に鏡に向かうと、隠し扉が開き、そこを通ってエレベータ前で集合、先に待っていたバイク男と合流しエレベータに乗ったのだ。

 エレベータは下がっていく、階数など特に表示物は無く、操作ボタン類も無い、派手では無いが高級そうな柄の壁と床の模様が状況に異様さを足す。

「地下に行く」

 バイク男がいちおう説明した。

「こんな大げさな仕掛けが必要なほどの何か、いや誰かか」

 賢至がつぶやく。

「そうだな、誰というのも無い事は無いが、それほどの組織だよ」

「ふ~ん。 そんなすごい組織なら、ちょっとくらい高級プールで遊ばせろよ、いや、せめて水着用意しとけよ」

 守護が興味無さそうに感心し、思い出した様に悔しがる。

「いや、わしもてっきりそういう流れと思ったぞ」

「僕も、由美香ちゃんの水着姿見たかった」

「お前ら……」

 バイク男は呆れるしか無いのだろう。

「……」

 由美香も言葉は無かった。 だいぶこの三人に慣れて来ている。

 そういう会話をしつつも、三人は由美香を囲み守るように立っている。

 由美香は、ずっと守護の袖を掴んでいたが、ふいに守護はその手を取って賢至の袖に移した。

 エレベータが減速した。 その時、守護は一瞬でバイク男の腕を取って背中に回して首にも腕を巻きつける。

 賢至が由美香を隅へ誘導する。 勇は戸袋の辺りに体を隠す様に待機した。

「まじか……」

 バイク男はあっけにとられた様にぼやく。

 エレベータが止まり、ドアが開く。

「誰もおらんやん」

 賢至もぼやいた。

「この階の奥の部屋だよ。 ちゃんと案内するから大人しく付いてきてくれ」

 バイク男が、困った様に言う。

「だって、よくあるじゃん、エレベータ出たら銃を構えたやつらがいっぱい待ってるやつ」

 守護が、バイク男を押し出しつつ、ゆっくりと左右を見回しながらも思ってたことを説明する。

「知らんわっ」

「そうですか、ごめんなさい」

 守護は詫びつつバイク男を自由にした。

「なんも無いから、大人しく付いてくるんだぞ。 それから、追ってくる怪しい車があったから、まどろっこしい手間かけてるだけだからな」

「ああ、そりゃ車とか準備してるか、他にもバイクに発信機とか付けられそうだしな」

「俺のバイク、そういう対策は完璧さ」

「ここまでで何もないなら大丈夫じゃろう」

 賢至が、バイク自慢を流して偉そうに口を挟んだ。

「じゃ、案内よろしく」

「ああ、行くぞ」

 地下何階にあたるのかは不明だが、普通のエレベータで来れる階で無いのはわかる。

 エレベータホールは、それなりの広さがあり、待合室の様にソファやテーブルが並んでいる。調度品はエレベータの内装と同様に高級そうに見える。

 ホールから出ている廊下は左右と正面の両端にあり、バイク男はその正面右の廊下へ向かう。

 廊下の左右には、ホテルの部屋と思われるルームナンバー付きの扉が並び、そこを横目に最奥にある扉を入る。

 ここもホールだが、奥にも幾つか扉がある。バイク男は右端の扉に向かい、ノックした。

 すぐに扉が向こうから開いた。 廊下もホールも監視カメラだらけだったので、何者が来たか把握済みなのだろう。

 バイク男を先頭にして中に入る。 勇は後方を確認しつつ、さらに扉が閉まらない様に押さえている。

「こいつら、警戒心強すぎる」

「いやいや、どう考えても不自然な事態だろ? 警戒して当然だ」

 守護は、少しだけイラついてる感じを出す。

 部屋は細長い形で奥行きは二十メートル以上在るが横幅は二メートルほどしかない。 左側の壁にはカウンターの様なでっぱりが端から端まで繋がり、そこから上がカーテンに覆われている。

「いらっしゃい」

 カウンターの前に椅子を並べていたスーツ姿の女性が、バイク男に顔だけ向けて声をかけた。

「いいから、お前ら椅子に座ってくれ。 あと、飲み物は希望あるか?」

 バイク男は、並んだ椅子を見て守護達に指示した。

「メニューあるから、ちょっと待ってね」

 スーツ女性が言葉を引き継ぐ。

「わかったよ。 勇もいいぞ、座ろう」

 守護が、皆に声をかけると、皆警戒しつつ席についた。

「ふぅ、めんどくせぇやつらだなぁ。 あと十分くらいで始まるそうだからくつろげ」

 バイク男のその言葉の最中、スーツ女性がメニューを見せて飲み物を聞いていた。

「あなたは、生姜湯でいいのよね?」

 スーツ女性は守護達に聞き終わるとバイク男に確認した。

「それでお願いします、やえこさん。 あ、扉は開けておいてね」

「りょうかいよ。 じゃ、用意しますね」

 やえこさんは、そう答えて奥に向かおうとした。部屋の最奥に大げさなドリンクコーナーがあるのだ。

「飲み物なんて悠長に飲んでるくらいなら要件をとっとと済ましてくれ」

 守護は、本音を伝えた。

「あの。 彼女の件は聞いています。 休める部屋を用意してありますから、いつでも言ってください」

 やえこさんは、そう付け足しドリンクコーナーへ移動した。

「ほんとにいいのかなこのままで」

 守護は、賢至に何かしらの指示を仰ぐ。

「わたしなら大丈夫です。 眠くなったら、ここで構いません。 その時は、お願いします」

 賢至が何か答えるより先に由美香がそう言いながら、テーブルに伏せて寝る仕草をしてみせた。

「ああ、まかせとけ。 なるべく触らない様に抱っこして送っていくよ」

「……」

「ところで、俺がそのこに話したかったこと、聞いてくれるかい」

 バイク男が、真面目な口調で切り出した。

「ああ、それが目的だったんだっけ?」

「そうだ、それだけの任務だったのに、どうしてこんなめんどくさい事に」

「俺たちが聞いてもいいなら、どうぞ」

「……お願いします」

 由美香は少しだけ心の準備的な間をとってから答えた。

「今朝、そのこの盗撮動画がネットに公開された」

「なんだと? ん? うん」

 守護は、反応しつつ色々想像していた。

「え?」

「着替え中だったがブラの一部がちらっと写ってるくらいでたいした内容じゃない、顔もわからない」

「いやいやいや、たいした内容だろう。 俺も見たいくらいだ、絶対見ないけど」

「どうして……」

 由美香は、動揺が隠せない。

「ええと、顔は映ってないっていうから大丈夫だ」

 守護は、根拠もなく元気づける。

「無いぞ」

 そして、賢至はスマホを睨んでいた。

「既に削除されている。 だが、それを見て、驚いた偉い方々がいたのよ」

 バイク男が補足する。

「偉い人、そんな事してるのか?」

「ええと、組織がそういうアンテナ張ってて、報告を受けたんだと思うぞ」

「変態か」

「ああ、すまない、君は少し黙っててくれ。 なんか違う話になっている」

「これか」

 必死にスマホと格闘していた賢至が何かを見つけた。

「お?」

 勇がのぞき込む。

「今朝のタイムスタンプで文章だけあった。 ”あのエルフの動画削除されてるな”だ」

「そういうことだ。

 着替えの途中で姿が変わったのさ、エルフみたいにな」

「なんてこった」

「普通は加工したものだと考えて勝手に納得してくれるんだろうけどな、監視AIは真偽を解析して拾い上げてくる」

「我々が知ったのは、転載分が削除されはじめてからだがな」

「変態と変わらないやん」

「それで、お嬢さんに危険が及ぶと考えたうちの上層部が、保護するべく検討を開始。

 とりあえずその事を伝えに俺が行った」

「じゃ、俺と敵対しようとしたのは?」

「君の正体知らねぇもん。 騙して確保してる可能性を探ってみた」

「な」

「だって、普通の高校生が、あんな危ないやつらと戦おうとするか?」

「う」

「あれは、たぶん組織の末端か、足の付かない無関係なやばいやつらだ。 実際、個人個人普通に強いはずだ」

「あんなコスプレ集団がか」

「後で、強引にもみ消すのにコスプレは最適だからな」

「ちなみに、俺のもそうだ。 機能はすごいが、ご当地ヒーローとかに見えなくないだろ」

「普通に変な趣味のおっさんでしょ」

「ああそうかよ」

「で、保護してもらうためにここに連れてきてもらったでいいのか?」

 守護が確認する。

「さぁな。 これから、それがわかるんじゃないか」

 バイク男は本当に知らないのか、守護の相手がめんどくさくなったか。

「ここに来させたのは、やつの指示だ。 かなり話が動くぞ、守護も覚悟すべきかもな」

 賢至は、”これからわかる事”をある程度想定できている口ぶりだ。

「僕もそんな気がしています」

 勇も同意する。

 そして、離れたところから小さく機械の作動音がしたかと思うと突然カーテンが自動で開いた。

「お」

 バイク男が、やっとかよと顔の向きをカーテンの方に向ける。

 その先には、皆が想像していた様に別室が現れた。 出入口は左に二か所、右に非常用らしいのが一つある。 窓は無いのか塞がれているかだろう。

 部屋の真ん中にU字型の大きなテーブルがあり、守護達から見て左に女性、右に男性と一人ずつ座っている。

 どちらも四十代くらいでそれなりの風格もあり、それぞれに同性のSPらしき者が左右に立つ。

「気付いてると思うが、マジックミラーだ」

 バイク男が、いちおう説明する。

「ほんとに?」

 守護が聞き返す。

「はぁ~。 わかった。 そういう設定と考えてくれてもいい」

「そうする意味は説明してもらえるのかな?」

 賢至が問う。

「ええと、そのお嬢さんがここに居ると知られないためだ」

「なるほど」

「話を聞いて損は無いから静かに注目しとけ。 といいつつ俺もわかってない」

「そうなのか。 でも、わるいね、こんなやつらで」

 守護は、自分が一番こんなやつだとは思っていない様だ。

「いや、そういうの嫌いじゃないんだ。 でも、やっぱりめんどくせぇ~」

「ははは、あんた面白いよね」

「だから、静かにしとけって」



 奥の壁に百インチほどの画面が現れた。

 そこに一人の男が写っている。 五十歳は超えていそうな風貌だ。 スーツやネクタイが高級そうなのが画質の良さで伝わってくる。

「今日は直接来てもらって悪いね。 それでは、はじめますかね」

 その男が口を開いた。

「彼女は本物のエルフなのですか?」

 早速、左の女性が質問を返した。

「いきなりですね」

「そういう話をしに来ました」

「そうですか。 では、答えはノーです」

「なんですと? もう調べたのですか?」

「これからどうするかですが、エルフかと問われればノーです」

「ずるいですね」

「前提を間違える訳にはいきません」

「確かに。 先走った様です。申し訳ない」

「彼女の調査は必要だとは思いますが、本題は、ついに天晴あまはるグループが動いたということです」

「そういうことですか」

「既に、支援国を集めはじめています」

「戦争する気か」

 右の男が想定した言葉を入れる。

「この期に及んでは、我々も表立って動く必要があります。

 ご賛同願えますでしょうか?」

「具体的に、何か考えがあるのか?」

 右の男は厳しい顔で追及する。

「方針が三つあります。

 どれか一つでも賛同いただけない場合、その組織は国によって解体され、構成員はしばらく拘束されます」

「脅迫みたいに聞こえるぞ、最後のは要らんだろ」

「いちおう免責事項ゆえ」

「どのみち我々は役に立たないから、勝手なことをするなと言うことですよね?」

 左の女性が、理解した内容を確認する。

「そうゆうことですが、各組織数名にはご協力要請が入るでしょう」

「そして、実際の指揮権は政府では無いよな? あんた以外はほとんど何も知らないはず」

「そうですね、すぐにわかる事ですからお教えしましょう。 倉田生体科学研究所です」

「知らない組織だ」

「わたしも初耳です」

「そこがやつらをこっそりモニターしていたってことか」

「その様です。 資料をテーブルのモニターに表示しますのでご覧ください」

 それぞれの座席の前のテーブルにモニターが現れ、そこに資料が表示された。 モニター画面はタブレットを操作する感覚で拡大やページ送りが可能だった。



「はい、わかりました」

 唐突だが、やえこさんがインカムで何か連絡を受けた様だ。

「さて、君たちはここまでだそうです」

 受けた連絡の内容だろう。

「おい、ほとんどなんも聞いてないぞ」

 守護が抗議する。

「お嬢さん以外は、少しは思うところがあったのでは無いかしら?ってことらしいけど」

「なんじゃそりゃ」

「では、お部屋にご案内します」

「部屋?」

「今日からしばらく当ホテルに滞在していただきます」

「そういうことか」

「おれは、ここに残りたいが聞いてみてもらえないか?」

 賢至には、言うからには残れる算段もありそうだ。

「聞くだけ聞いてみます」

「お手数かける」

「あなた一人だけなら良いそうです。

 では、他の方は付いてきてください」

 賢至を残し、やえこさんに続いて、守護、勇、由美香は部屋を出る。

 扉が閉まる前に賢至が勇に声をかけた。

「勇、お前はわかってるな」

「もちろん」

 勇の返事とともに扉が閉まる。




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