六話:転生の真実
翌日の朝。
朝食を終えたところで、賢至が由美香と母に改まった雰囲気で話かけた。
「エルフちゃん。お母さん。
少し、わしの話を聞いてくれ。 君たちは、知っておいた方がよさそうじゃ、今後少なからず関わる事になるじゃろう」
母が頷く。
「……はい」
由美香は、エルフちゃんの部分に少し引っかかったのか少し遅れて返事した。 日曜日で、魔法を掛けられていないためエルフの姿だ。
「あの小説、まぁ映画も、事実とはかなり違うと言ったじゃろ」
「はい」
「あの戦いはまだ続いている。 その真の物語をお話しよう」
「え?」
母は、考えた事が無かったのかもしれない。
「負けはしたがここに居る。 向こうへ戻って再戦する。
そもそも、あの話は長い歴史のほんの一部じゃ。
じゃから、再戦のために、わしはこちらの世界で力を蓄えておる」
「俺も戻るために生きている」
守護が続く。
「僕は検討中です」
勇はしょうがないなぁと合わせる。 昨日と同じだ。
「向こうの世界の侵略者は、ずっと以前から計画的に転生を繰り返している。
王役を数人が順番に入れ替わる事でな」
「そんな事ができる…………のですね」
「そう、方法は確立しておる。単純な流れ作業と言ってもいい。
少し説明すると、魂は一度魂界に行く、そこはバケツにビー玉を放り込むみたいにイメージしてくれ。ビー玉は知ってるじゃろ?」
「はい」
「見たことないですけど、わかります」
由美香は、ビー玉遊びもしたことが無く、ラムネも飲んだことが無いらしい。
「話が逸れたが、魂界とは仮に付けた名前で、そこを介して異世界とこちらの世界を行き来するバッファーじゃな。
こちらの世界、魂界A、あちらの世界、魂界B、こちらの世界の様にな、つまり人類全員転生者ということじゃ。
そして、転生時に記憶を保持したままの者が極極稀に存在する。
さて、先ほど、魂界はバケツと言ったじゃろ。
そこから各世界の魂が必要な器がビー玉を拾う。
で、その時に条件がある。
魂は、ラストインファーストアウト、つまり死んですぐに生まれ変わるのが基本、数が合わなければ前から入ってる魂が使われる。
そして、それぞれの世界の魂は、別な方の世界に拾われる。
さらに、世界同士で場所が近いところが優先される。
それらの条件から、こちらでは大きな産婦人科を持つ病院、向こうの世界では城を用意する。
病院では、多くの命が常に生まれている。
城で死ねば、こちらの病院に生まれてくる。逆もまた然り。 物心ついて記憶が戻れば養子にすればいい。
この方法にどれほどの人数が必要かまでは知らんが、そうとうな数が居なければ、タイミングを失うだろうな。
じゃから、望まない出産をする母を助けると言って囲い込む方法もあるじゃろう。
酷い事はあまり想像したく無いが他にもあるじゃろう。
ただし、間違って人間以外、脳が発達していない種族に転生した場合、人間の記憶は消える様じゃ」
「それでは、皆さんも何度も記憶を持って転生されているのですか?」
「いや、弟子とその協力者以外はわしも含めて今回が始めてじゃ。
負けなければ、その必要も無かった」
「とりあえず、記憶保持転生者は転生者でいいんじゃね、通じるよ」
守護が、皆思ったであろう事を口にした。
「そうじゃな。 それで続けよう。
転生時には、転生ギフトと呼んでいるが、身体能力等に影響を受ける事がある。 マイナスは気付かんがプラスに出ると神童の様に見えるじゃろう。
力が強いとか足が早いとか単純には割り切れんし、腕の筋肉が強いとかよりももっと細かい部分に影響する。それらが総合して高い能力として現れる。
転生者には顕著にそれが現れる。
わしらは他者より知恵が高い様だし、運動能力の一部も高い。
守護は、いろいろとんでも無いがな」
「それはそれでいろいろ苦労しますし、そもそもこっちの世界では要らないですよ」
守護は、本心から望まない力なのだ。
「そうじゃな、お前にとってはな」
「いや、みんないらんでしょ。 なんであるんだろ」
「判明した事実から適当にこじつけているだけじゃし、理解できるものでは無いじゃろう。 そもそも魂がよくわからん。
それでもなにかしらのギフトが存在する。 エルフの外見も遺伝子へのギフトかもな。
昨日、魔力補給の件で転生種の話があったが、絶対数の多い動植物に限らず、人間にも稀にそれが出ると言う事じゃろう。
お母さんの魔法能力もエルフの遺伝子が関係しているのかもしれぬ」
「おい、それは」
守護が遮るが時遅し。
それは、由美香が将来子供を生んだ場合、またはそれ以降の子孫に影響が出る可能性だ。 対策が無いなら、自分の代で断ちたいと思うかもしれない。
「言わない方が良かったかの?」
「いえ、想像はしていましたし、わたしからは言えなかったと思います」
母が、申し訳無さそうに由美香を見る。
「わたし……」
「今じゃなくてもいいだろ」
「いや、恐らく、そう遠く無く覚悟が必要になる」
「なんでだよ……」
守護は抗議するが、賢至はそれを手で制止てから話を続けた。
「話を続けようか。ここからは長くならん様にかいつまんで行くぞ。
転生者であるやつらは、こちら側の知識を巧みに使いそれを覚らせることなく世界を踏みにじっていった。
やつらの企みに気付き、わしと弟子達は阻止するべく立ち上がった。
だが、全く勝算が無い事を思い知らされた。
多くの国と徒党を組んで対抗するのにも遅かったのだ。
そこで、わしらも転生法を生み出し、計画を作った。 実行するために弟子を何度か転生させた。
わしは不老ゆえ、そのサポートをしていた。
そんな折り、遠方に勇者の噂を聞き協力を得るために向かうと、能力は確かにすごいが、奴隷、いや実験動物に近い扱いじゃったので救出した。勇じゃ。
ある時、エルフの大国が攻められているときに助力を求められ向かった。 じゃが、時遅く、城は落とされていた。
そして、お姫様であるお母さんとその護衛の守護が崖から落ちるのを見た。
落ちた湖から助け出したが、残念ながら姫は助かりそうになかった。会った事が無いのはそういうことじゃ。
弟子は、姫に転生法を使った。
守護は、なんとか生き延び、しばらく行動を共にした。
その後、王が再起する際に協力した。
そして敗北し、勇者が死ぬときに、弟子の提案により、我らも転生する事にしたのじゃ。
対策を学ぶことと、よしんば転生ギフトを得て戻るために」
「戻って戦うのは俺達だけだ。姫も絵野沢さんも関係無い」
「そうじゃの、だが、もし、こちらで戦う事になるとしたら?」
「そんなこと……あるのか?」
「こちらでは。 あいつが主に活動している。
わしらは、三人ともまだ蚊帳の外じゃ。
計画は、向こうの世界で決着を付けるのを主としているが、こちらの世界を想定していないわけでも無い。
わしらは、そのつもりで向こうの世界で役に立てるように知識を広めている。
さて、話が変わるが、わしもあいつも向こうではエルフじゃった。
発端は、そこじゃよ。
エルフの長寿命それが欲しいのじゃ。
エルフは子供をほとんど生まぬから、転生してうまくエルフとは行かない。
やつらは、多くのエルフを城に囲って子を生ませようとしておったがの。
じゃから、わしは一族でやつらに見つからぬように暮らしておった。
それでも、賢者として魔法に自信を持っておったわしはちょっかいを出して、さっきも言った様に勝算無しを思い知らされた。
その際に一族にも犠牲を出し、目的は復讐に変わった」
「ぁ……」
由美香は、何か言いかけて言葉に詰まった。
「慰めは良い、そういう感情はもうないからの……」
「そうか、エルフがこちらの世界に居るとしたら、やつらは」
守護も気付いた。
「気付かれれば、巻き込まれる」
「もっと早く……あ、そういう事なのか」
「今は、知っておればよい。
まずは、わしの仕事じゃ。
他にわしの知っている事を共有しておこう。
こちらの世界に居る敵は天晴グループだ。
それから、他に、転生者を保護する組織がいくつも存在する。
日本には四つ、国家組織が一つ、一般の組織が一つ、そして独自路線の天春、さらにそれらと協調しない倉田生体科学研究所だ。
研究所を除いた三つの組織で情報統制を行い一般人に認知させない様にしている。
天晴グループを敵と言ったが、誰もがご存じの様にやつらはこちらの世界ではとにかく善行のみを行っている。 どれも感嘆に値する。
ゆえに、やつらを攻撃することは悪の所業となる。
それでも、向こうの世界との関係性は、どの組織も把握している。
歯痒い思いを皆がしているのだ。
今回はここまでじゃ。 物語程度に心の隅にでも止め置いてくだされ」
「はい、賢者さま」
母が手を上げる。
「質問は別な機会にしてくれるかの、なお、倉田の名は気にしなくていい」
「わかりました。 貴重なお話をありがとうございました」
「いやいやいや、俺も聞きたいことが山ほどあるぞ」
「守護、まだ時では無いのだろうし、あの人を信じよう」
めずらしく勇が守護を制した。