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異世界転生妄想部  作者: 安田座
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十話:学校襲撃

 


 翌朝、朝食後。

 守護達三人とバイク男は、昨日と同じ会議室に集められた。 由美香だけは部屋で待機だ。

 昨日との違いは、部屋の内外に武装が強化された戦闘服姿が相当数待機していることだろう。


 会議室の壁に設置された百インチのプロジェクター画面にはテレビのニュース番組がリアルタイムで流れている。 それが、突然切り替わると、昨日の人物が映された。

「おはようございます。 よく眠れましたか?」

「答えたら、向こうに聞こえるのか?」

 守護がバイク男に聞く。

「聞こえますよ。道仙君」

 画面の男が答えた。

「お、おお、そうか、じゃ、おはようございます」

 守護が返事をすると、他の二人も続いて挨拶を返す。

「さて、御集りの方々へ紹介しておこう、本件の総指揮官倉田生体科学研究所所長だ。 道仙君たちには紹介の必要は無いかと思いますが」

 紹介された男が画面内に入ってきた。

「倉田生体科学研究所所長の倉田です。

 早速だが、引き渡した母親だが、所在は判明している。

 現在奪還作戦を検討中だ」

 倉田は、手早く挨拶し、いきなり本題に入る。


 ――――

 ここではわざわざ説明されないが、母親の所在について、

 研究所の所員を変身魔法で母親に化けさせて引き渡した。

 様々な方法で追跡したが見失う。

 だが、敵地に到着したところで偽物であることを明かし、人質となってから本人との交換に応じた。

 向こうは、目的の本人さえ手に入れば、それ以外は全て些事なのだろう。たとえ噂の地下帝国の場所が知られても、そして鉄壁の自信もあるのだろう。

 よって、母親の所在は判明している。

 二度と通じない手であった。

 ――――


「今更だが、倉田さん含めて、あんたらはなんなんだ?」

 守護が聞く、知った顔だが今までこの様な疑問を抱いたことが無かったのだ。

「転生を隠匿するための組織だよ。天晴もね。

 世間に、転生がリアルであり、その方法も在ると知れたらどうなる?」

 倉田がすぐに答えた。

「ええと、やってみたい?」

 守護があまり考えもせずに答えた。

「まぁ、現代の若い者達は、まずそう考えるかもしれませんね。

 向こうの世界は、本当にこちらで言うファンタジーですから。 エルフや獣人がいて、魔王に支配されているときてる。天春という魔王ですが。ああ、向こうではガラグリムでしたね。

 少しでも人生に不満を抱いた者が簡単に自殺を選ぶ。

 普通に死ぬどころか、自爆テロ、鉄砲玉さえも、ついで感覚に平気でやるかもしれない。

 臓器提供のためとかもあるかもしれない。事情は様々でしょうが。

 死刑さえも安易に行われる様になるかもしれない。いや、これは逆かもしれないか。

 わたしがちょっと想像するだけでもそんな感じですね」

「なるほどな」

「さて、奪還作戦にはお三方にも御協力いただきたい。

 敵は君たちの強さを知らない。 それを充てにさせて欲しい」

「わしの嫁たちは?」

 賢至が確認する。

「数名は同行させます。

 他の工程のサポートも頼ってますから」

「早く全員に逢いたいわい」

「申し訳ございませんが、あなたの原案ですので……」

「わかっとるわい」

「失礼しました」

「倉田さん。

 折を見て聞きにいくつもりだったのだけど、今少しいいかな?」

 話の重要度が下がったからか守護は切り出した。

「由美香さんのことかい?」

「ああ、江野沢さんを治せるのか?」

「研究中ですよ」

「目処は?」

「この段階で期待を持たせる言葉を口にすべきでは無いのですが、あなただから答えます。

 わたしを信じてください」

「了解した」

 守護は頷いた。

「では、わざわざ集合していただいたのに手短で申し訳ないですが話は以上です。

 なお、現在作戦立案中ですので、各自部屋での待機をお願いします。

 なに? あ、皆さましばしお待ちを……」

 倉田は、インカムに傾聴し、そして、部屋を去ろうとしていた者達を制止した。

「どうした?」

 賢至が何事かと聞く。

「了解しました。

 警護部隊は、そのまま独自判断による迎撃でかまいません。

 緊急事態が発生しました」

 倉田は、インカムに指示を出すと賢至の問いに答える様にあらためて口を開いた。

「どこじゃ?」

「学校です」

「俺は行くよ。

 バイクを貸してくれ、大型の免許は持ってる」

 守護は出口に向いてから、バイク男に向き直って頼んだ。

「いいぜ、ほらよ」

 バイク男が、答えながらバイクの鍵を放った。

「いいのか?」

 守護は鍵を受け取って答える。頼みはしたが愛車を貸してくれるなんて望み薄と認識していたのだ。

「ああ、乗れるんだろ?」

 バイク男は、事の重要性を理解しているのだ。嗜好にこだわる場合では無いと。

「守護、待て、説明している暇はないが、バイクはこちらで手配する」

 バイクの件が決着した直後に倉田が制止した。

「じゃ、早くしてくれ。

 ありがとう」

 守護はバイク男に鍵を投げ返しながら促す。

「守護様、こちらへ」

 スーツ姿の女性やえこさんが扉を開けて守護を呼ぶ。

 守護は駆けだしていた。

「守護っ、春ちゃんを頼む」

 勇が守護の背に向かってコスプレ部部長有栖川春子の事を叫ぶと、守護は右手をあげて応えた。

 急ぐ守護の目的も一番はそれかもしれない。



 十分後、守護は山道を走行していた。一部未舗装の部分があっただけで悪路では無かった。

 手配されたのはオフロードバイクで、ナビゲーションに従って走っているだけだ。

 ナビゲーションシステムは、ヘルメットに内蔵されており、シールド部分に簡易的地図が表示されているが、組織のオペレータが無線の音声によるナビゲーションをしてくれるのでそれに任せて走ってきた。

 実は、ホテルへ移動した際の高速を使ったルートを戻るより、この山道を通った方が学校には近いのだ。

 山道を抜けると学校の裏手側にある通用門の前に出る。。



 守護が出て行った後の会議室。

「想定される拠点の中でも学校が襲撃される可能性は高くないと考えていたが、守護をかなり評価されてしまった様だ。

 守護にとっては誰が人質でも同じ様に動くだろうが、幼馴染の有栖川さんが居る学校はやはり精神にダメージをもらう。

 本来の目的は陽動だろうが、あわせて有栖川さんの拉致を狙うかもしれない」

 倉田は、話を続けた。

「春子は、あいつにとっては最大の急所かもしれん。

 もっとも、ダメージをくらうのは、ここにも居るがな。

 そして、陽動なら、こっちに本隊が来るか……いや」

 賢至は動揺を隠せない様子の勇を見ていた。

「そうですね、この場所にも何かしら仕掛けてくるでしょうが、どっちも時間稼ぎかもしれません」

「ふむ。

 では、やはり奪還作戦を強行すべきか」

「はい。

 とりあえず、こちらも時間稼ぎとして、米軍に敵基地付近の爆撃と制空権の確保をお願いしてあります。 もちろん各国との調整も」

「母上は、大丈夫なのか?」

「人質は大丈夫でしょう」

「そうじゃな。 確かにボスと一緒に安全なところだろうな」

「せめて他への移動をさせない様にしておきたい」

「航空戦力はこちらに分がありそうじゃの」

「明確には言えませんけどね。

 彼女の存在が分かった時点で想定はしていたのですが、情報の漏洩の方が怖かったので、とにかく逐次打てる手を打っていきます」

「あんたに任せるよ。

 わしも言うほどの力は無いしの」

「充てにはしますよ。

 勇君ともどもね」

「はい、僕もやります」

 勇が、ようやく口を開いた。 力強い口調は覚悟の証だろうか。




 学校の外には傭兵らしい者達が数十人はおり、学校に向けて銃撃を続けている。敵だ。

 対して、学校の中や屋上からはそれに対して応戦がされていた。あらかじめ国から派遣された護衛部隊だ。

 戦闘は校舎外で開始されたが、護衛部隊は押され気味で校舎内に入っての応戦となっている。

 また、校舎内にいる生徒や関係者は順次保護されていた。

 朝、土曜ということもあり、生徒はまだあまり登校していなかった。

 ただ、コスプレ部部長有栖川春子は部室に居た。手掛けている衣装の締め切りが近いのだ。

 衣装の制作作業を始めた直後、銃撃の音や爆発音が聞こえ始めた。

「何の音? 工事とか聞いてないけど……」

 思案を始めたとき校内放送で状況が説明された。

『緊急放送です。校内に居る全生徒は急いで職員室に集合してください。不審者の侵入があった様です……』

 くり返し放送される内容をとりあえず言葉通りに認識した時、校庭側の窓ガラスを突き破ってドローンが侵入してきた。

 敵が放った捜索用のドローンだ。相当数が飛び、そのほとんどは撃墜されていたがある程度の数が学校への侵入に成功していた。そのうちの一機だ。

「何? 逃げないと……」

 春子は、突然のことにパニック症状になっているのか、体がうまく動かない様に尻もちをついてから後ずさるように出口に向かう。

 部活棟から本棟へは各階の渡り廊下で繋がっている。

 その時、廊下側に甲高いエンジン音が聞こえた。

「こっちからも……」

 行き場を失った春子の動きはそこで止まった。体の震えは止まらない。

 そして、重量物が何かにぶつかる音と共に扉が開いた。

「え?」

 問答無用で部室に入って来たのは守護だ。

「逃げるぞ」

 守護はすぐに春子を抱きかかえて廊下に出た。

「はぃぃぃ……」

 返事をしようとした春子の都合など待つ事もなく素早い行動だった。

 廊下の奥に出ると、奥で倒れたオフロードバイクは車輪がまだ回っているのが見えた。

 廊下の反対側にはドローンが向かってくるのが見えた。

 いったん止まっていた中のドローンが動き出した。

 その動きに守護は違和感を感じた。

「しっかり掴まってろよ」

「え? うん。 いや、はい」

 春子は、驚きに加えて別な感情で、言動がずれていた。

「後、ちょっと強く抱くけど、ごめんな。 そして、口閉じて」

 守護は春子を自分に押し付ける様に力を入れる。右手は胸をわしづかみにしていた。

「は? え? そこはだみゃぁぁぁぁぁ……んんん~~~~」

 守護が春子を抱いたまま吹き抜けを三階から飛び降りたのだ。

 その直後か同時か、ドローンが自爆した。

 吹き抜けの一階は、中庭になっていて丁度芝の生えた場所に着地し、体をひねってから後転して立ち上がる。後転は、春子への衝撃を減らすためだ。

 胸を掴んだり自分に押し付けたのは、慣性ダメージを一番影響受けそうな部位だったという言い訳だが言葉にすることはない。

 守護はさらに間髪入れずにその場を離れた。 そして、ドローンの爆発による瓦礫がバラバラと落下した。

「あ、あ……」

 春子は何か言おうとして言葉が出てこない様だ。

「どこか痛いとことかあるか?」

 守護が真面目な顔で確認する。

「あ、え、い、いえ、だ……」

 春子が答えようとしている時、守護の視線は前方を向いていた。

 吹き抜けから本校舎に向かう出口に身長二メートルくらいの巨漢と百七十センチくらいの細身の女性が立っていた。


「貴様、何者だ? いや、こいつじゃ無いのかい? ターゲットの一人、変態少年ってのは」

「何だよその呼び方は」

 守護の怪訝な顔は抗議だろうか。

「自覚は無いのか?」

 巨漢の視線は春子の胸の手だ。

「こいつみたいですね」

「本人の方が現れたらどうするんだ?」

「今、指示がありました。

 好きにして良いとのこと」

「あんたら、余裕かましてるけど、俺に勝てるのか?

 俺が勝ったら、そっちの女のケツにデカいやつのピーをツッコんでやる」

「ははは、ちょっと負けてもいいと思っちまったよ」

「こんな奴のなんて嫌に決まってるでしょ」

「ほら、美人なおねぇさんも負けを想像してるじゃないか」

「言うねぇ。

 じゃ、こっちが勝ったら、お前のピーをその娘のピーにツッコんでやろう」

「俺にそんな言葉が通じると思うなよ」

「そっちのお嬢ちゃんはまんざらでもなさそうだがな?」

「え? なっ、何言ってるのよ、絶対嫌だもん」

 春子は暴れながら拳を守護のアゴにヒットさせる。

「ぐわっ……まさか言葉の応酬で物理ダメージもらうとは思わなかった」

「お前、こっちに付けよ。

 そしたら、その娘も利用価値無くなるだろ」

「せっかくのお誘いだし、気を使ってもらって申し訳ないけど、

 俺、そういう誘いには自分の判断で応えられないんだわ。

 部活とかも全部断ったし」

 その時、守護の横に一人の女性が現れた。上から来た様だ。

「あんた、忍びの人か? その姿……」

 女性の上半身の衣装の破損が激しく、下着もチラチラ見えている。

「お気になさらず。

 ライ様、こちらを」

 守護の耳にインカムを付け終わると、剣の形に似ている鉄の塊を差し出した。刃は無い。

(「誰? らい”さま”って聞こえた様な……」)

 春子はシノと呼ばれた者の顔を見ながら思案した。

「ありがとうございます

 ウェラリンだね。

 このこを頼みます」

(「ウェラリンって、誰? ああ、……」)

 春子は守護の顔に視線を移してからさらに思案した。

「お任せを。

 なお、侵入者は五名です」

 シノは、守護から春子のお姫様抱っこの受け渡しに応じ、ついでに武器を受け渡した。そして、敵の数を教えた。

「え?」

 思案中の春子は、このやりとりに付いていけてなかった。

「じゃ、他の人も引いてくれ、救助とかに回ってくれればいい。

 他の三人も俺に任せて」

「了解しました。 他のものは、既にドローンの破壊に回っております。

 ライさま、ご武運を」

「おい、さっきの女、続きをやろうぜ」

 さっきの女とは、シノの事で、少し前に戦闘を行ったのだ。

 シノは、形勢不利であった事もあるが、守護の到着を知り、そのサポートに移行するため撤退していた。

 他のものがドローンの破壊に回ったのも同じタイミングだ。守護に任せろとの本部からの指示だ。

「いや、あんたの相手は俺だ」

「そうか、じゃ、準備はできたかい? 変態君。

 ん? 嬢ちゃんも連れて行くのか」

 巨漢が問いかけた時、シノは、既に退避に移っていた。

「悪いがさっきご提案いただいた件は早速破棄だ。

 まぁ、あんたら程度、さっさと倒して他へ行かせてもらうよ」

 守護は、銃弾を鉄剣でゆうゆうと弾きながら答えた。 シノに向けて拳銃を撃ったのは細身の女性だ。

「まぁ、変態君を殺れば、お嬢ちゃんを逃がしても問題無いからな」

「そういうことは先に言ってくれよ」

 守護は、鉄剣を巨漢に突きつけ、戦闘開始の合図とした。

 細身の女性が少し下がり気味に距離を取る。 タイミングを見て援護射撃でもするのだろう。

 巨漢は、ゆっくりと前進しながら背中に携えていた大きめの斧を手にした。

「お前、人造人間か?」

 巨漢は、前進しながら問いかけた。

「あんたはそうなのか?

 俺は人造でも人間じゃ無い、あえて言うなら人型兵器だよ」

 守護は、答えるとそのまま巨漢に接近し、鉄剣を振るう、振り下ろされていた斧をたたき割り、体を軽く吹き飛ばす、あばらは粉砕されているだろう。

「ひっ」

 細身の女性は、眼前の惨劇に悲鳴をあげた。反撃の為の銃もその手毎消えていた。

「どうする?」

 守護は、細身の女性の喉元に鉄剣を突きつけて問う。

「こ、降参します。 ゆるして……ください」

「あんたは、指揮官か?」

「ち、違います」

「じゃぁ、指揮官に引き下がるように伝えてくれないか?

 でないと、全員、殺すよ。

 俺、そうとう頭に来てるから。

 もし理解して無いなら教えてやるけど、俺は転生者だ。

 そして、向こうでは戦の中で命を落とした。

 だから、まだ俺の魂は戦時中だ」

 守護は少し凄みを効かせた様に言葉をぶつける。

 細身の女性は後ずさりながら、襟に付けてある小型の通信機に口を寄せた




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