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第7話 寿命

「現実を見すぎてるやつもダメだ。」

「社長は、一発契約を狙いすぎですよ。まずはもっと小さな契約から始めたらどうです。現実から逃げたい人間あたりからとか。」


「あー、なんで結婚なんてしちゃったんだろう。子供はうるさいし、出かけることもできない。飲み会なんてもってのほか、外食すら無理だわ。」

「奥さん、心の声が漏れちゃってますよ。」

 高層マンションの中庭でベビーカーの中で寝ている子を尻目に、ひとりブランコを揺らしている女性に声をかけた。

「そうとうストレスが溜まってますね。」

「ええ、旦那は仕事といって、毎晩飲み歩いてるくせに、私が出かけるといちいちうるさいの。最初は共働きで、家事も子育ても分担っていってくれてたのに、いざ結婚してみると全部押し付けて。共働きなんだから手伝ってって言ったら、時間が足らないなら専業主婦になればいいって。あげくには、俺の稼ぎで足らないのはお前のやりくりが下手なんだですって。」

「それはひどい。もし現実を変えたいということであれば、かなえてさしあげてもいいですよ。」


 女性はよほど精神的に疲れていたのだろう。サタンに言われるままに契約した。

「旦那と離婚。多額の慰謝料をもらいシングルマザーとして自立。」

 他人には簡単そうに聞こえるが、本人にとってはままならないほどの願いなのだ。この程度の契約は寿命が数年縮む程度で叶う。


 不満があるということは、それなりの兆候がある。どんな優秀な探偵でも悪魔と比べれば子供と大人ほどの差がある。数日後には旦那の浮気が発覚し、無事多額の慰謝料をもらって離婚できることとなった。それを元手に中古マンション一棟を購入。安定した家賃収入により、自立することもできた。

 しかし、苦労せず大金を手にした人間の末路は決まっている。無計画に経営規模を拡大し、次第に膨らむ負債にいらだつ日々が始まった。


「どうしました。」

 サタンが現れて、追加契約を結ぶ。傷みの目立たぬうちにマンションを高額で売って、小さいながらも人気の物件に買い換える。買い手は欲に吊られた連中をサタンが連れてくる。やがて、契約内容は生活から子供の学業に変わっていく。習い事や有名私学への入学。母親の子供への期待というのは留まるところを知らない。その度に自身の寿命が削られていくというのに。


「順調に契約が伸びてますね。一度成功を味わった人間は何度でも同じ事をします。最初に楽をして成功すれば、次もまた楽をしたい。その次も。これこそが悪魔のスパイラルです。」

 ベルゼブブは嬉しそうにサタンに報告をした。ただこの契約、悪魔側にとって手放しで喜べるものでもない。契約者の警護はもちろんだが、子供の命も守らなくてはいけない。子供の自立を進めるために、いい学校に押し込んで、一流企業に就職させる。就職したからといってすぐに一人で生活できる給料がもらえるわけでもない。

 無論、金銭だけでみればスポーツ選手や有名人への道もある。しかし、成功するのは一握りの人間で親の願いでなれるものではない。政治家ならば何もせずとも高収入は約束されるが、親の力でそれが可能なのは二世、三世の連中だけだ。


「もうあまり寿命が残ってませんが、今度は何です?」

「私が死んだら、財産はどうなるのかしら。」

 人間、死を意識し始める時は、欲が最大限に膨らんでいる。

「多額の相続税をとられます。お子さんの一生を思えば十分とはいえないでしょうね。」

「なんとかならない?」

「契約はしてあげたいんですが、もう十分な寿命がありません。まあ、魂そのものをいただけるのであれば別ですが。」

 悪魔が求める真の契約はこれだ。この段階では、寿命は計算上短くなっているに過ぎない。本当に寿命を縮めてしまうと記録に残ってしまい途中で天使にじゃまされる。なので、ここで止めれば早く死ぬこともない。サタンが一発契約にこだわったのもそのためだった。


 幸い元手は十分ある。魂の価値を考えて、宝くじで10億ほど当てる契約を交わした。悪魔にとって当たり数字を細工するなど造作もないことだ。当選発表の日、予想外のことが起こった。実は、宝くじの当たりを悪魔に願う人間はたくさんいる。高額当選となるとすでに何年も予約で一杯だった。

「順番きませんね。百年待ちですよ。当選本数を百倍とか増やしたらどうです。」

「それやった。様子見で十倍にしたら、ばれで失敗。せめて1億だったらな。このままじゃ当選する前に本当に寿命が尽きてしまう。」

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