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第3話 パパ活

「年寄りはわけがわからん。こんどは若いやつにしよう。」

「そうですね。社長。とりあえずお試し期間を設けるのはどうでしょう。」

「クーリングオフってやつだな。」


「おじさん、社長さんなの?」

 いきなり女性がサタンに声をかけてきた。若作りをしているがアラサーだ。

「まあな。」

「へえ、すごーい。一緒に食事にでも行かない?」

「社長、これって逆ナンっってやつじゃないですか?」

 ベルゼブブがサタンに耳打ちする。

「そんなんじゃないよ。ビジネス。契約してもらえば、どんな冴えないおっさんでも一緒に食事に付き合ってあげるって言ってるの。」

「契約してもらいたいのはこっちだ。」

 サタンは女性をおいてそのまま去ろうとした。

「いいよ、お互い契約すれば、Win-Winじゃん。」


「どこにいく?」

「新橋のガード下とか。」

「これだから、おっさんは。クリスマスなんだから、もっとオシャレな店に連れてってよ。」

 そう言われても、悪魔がそんなところを知っているわけが無い。

「青山に知り合いがやってるすてきなイタリアンがあるんだ。そこ行こう。あ、秘書さんはここまでね。」


 サタンの魔力を持ってすれば、地上のことはどうにでもなる。とりあえず、言われるままにお店へ入った。

「いらっしゃいませ。」

「いつもの席、空いてるかしら。」

「はい。」

 白い壁に赤い絨毯、東京の夜景の見える窓際のテーブルにはロウソクの炎が怪しくゆらめいている。メニューには値段が書いてない。

「私いつもの。おじさまは?」

「子羊のステーキ、超レアで。」

 とりあえず、食べられそうなものを頼む。

「お酒は?」

「飲まない。」

 以外だろうが、悪魔は酒は飲まない。なぜならアルコールには殺菌作用があるからだ。

「私は、ワイン白。」

 女性は勝手に頼む。それほど裕福には見えないのだが。

「こちらは、当店のスペシャリテ、大間のマグロステーキ、津軽りんごのソース添えになります。」


「今日はラッキーだったわ。昨日クリスマスイブで、ホストの彼氏に支払いしたからピンチだったんだ。ところで、おじさんの仕事って何?契約って車とか?」

「命に関わること。」

「あ、保険屋でしょ。願いって遺言みたいなことかな。だったら、親に迷惑をかけたくないから、保険金でホストのツケを清算してもらいたいな。」

「今なら、七時間以内なら解約できるクーリングオフもありますよ。」

 食事が終わると

「これ連絡先。また寂しかったら呼んでね。ご馳走様。」

 そういい残し、女性はそのまま店を出て行った。


「料金は5万円になります。」

 サタンは初めておごらされたことに気付いた。

「カードのほうがポイントがついてお徳ですが。」

 悪魔がカードなんか持ってるわけないだろ。もっとも悪魔の使う現金は一夜明ければただの紙切れになるんだが。

「現金で。」

 悪魔は地獄耳というくらいで耳がいい。カード情報をスキミングする機械をレジ下に戻す店員の「チッ」という舌打ちが聞こえた。


「なんだかひどい目にあったな。」

「社長、とりあえず契約できたんですから。」

「あんな願いじゃ、百魂にもならん。」

 魂の価値は、色とサイズと輝きで決まる。色は罪の深さ、サイズは欲望の大きさ、輝きは若さを表している。

「とりあえず、監視はつけておきましたから。」

「勝手に死なれたら元も子もないからな。」


「社長、助けてください。」

 夜明けと同時に小悪魔が飛び込んできた。

「あの女、ビルから飛び降りるわ、電車のホームからは落ちそうになるし、さっきは風呂場でリストカットしようとして。」

 小悪魔はふらふらだった。

「社長、契約中は自殺できないって伝えてなかったんですか。」

「契約書に書いてあるから。」

「最近の人間は書類を読まないんですよ。」

「そりゃ、人としてアカンだろ。」

 悪魔の契約によって運命を変えた者は、魂が穢れることで地獄落ちる。だから先に死なれては困るのだ。


 サタンとベルゼブブは女性の元へ向かった。

「死ななきゃ保険金下りないじゃない。それとも先払いしてくれる?」

 女性がサタンに詰め寄る。

「願いをかなえてからでないと死ねないんで。」

「じゃあどうやって借金を返すのよ。」

「ご自身で稼いでいただくことになります。われわれはあくまで、サポートするだけでして。」

 ベルゼブブは契約書を見せながら説明する。

「もう疲れちゃったの。会社にも借金がばれてクビになったし。彼氏は海外の風俗なら簡単に稼げるっていうけど。」

 風俗を斡旋された時点でもう見限られてる。

「なんで、彼にそこまでするんです?」

「ホストなんて威張れる仕事じゃないけどさ、いつかトップになるんだって。田舎者が都会でテッペン取るなんて格好いいじゃない。でも、死ねないなら、解約する。」

「残念ですが、七時間をすでに越えました。」


「お金を稼ぐなら、方法は色々選べますよ。お急ぎならカジノで一発コース。ただし、それなりの元手はご用意いただきますが。」

「わーには、もう命しかゼニコさ成るものがねえ。」


 しばらくすると、警察がやってきた。サタンたちは消えた。昨夜の店の従業員が偽札を使って捕まった。偽造カードを作ったり、さらには料金を消した裏メニューでぼったくって差額をピンハネしていた。女性はホストの彼氏から客引きを手伝うように脅されていた。


「彼氏も捕まり、借金も自然消滅。契約は無効になってしまいました。」

 留置所にいる女性の前にサタンが現れて状況を告げた。悪魔を騙したものは相応の報いを受ける。

「あんたたち、何者?」

「魔王のサタン。」

「さたんさん?私、魔王と契約してたの?これってすごくない。友達に自慢できる。」

「そうですね。しかし、契約が無効となってしまったので、私達のことは記憶から消えます。」

「ここから出して。また契約すればいいんでしょ。」

「命を粗末にしてはいけない。そんな魂は悪魔でも買いませんよ。あなたは、じきにここから出られるでしょう。それを早めたところで運命を変えたとはいえません。」


 子供は死者に会うことで欲望を満たし、老人は自分のミスを帳消しにしようとした。彼女の罪は欲望ではなく、絶望によるものだ。

「地上の罪を清算したら、またお会いすることもあるかもしれません。では、さようなら。」

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