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第2話 老人と悪魔

「子供はこりごりだ。もっと騙し易い人間はいないか?」

 サンタはベルゼブブに愚痴をこぼしていた。

「巷ではオレオレ詐欺というのが流行っているとか。」

「なんだそれは?」

「電話で息子を騙って、お金を巻き上げているようです。」


「そこの方、息子の一大事なんじゃが、手伝ってくれんかの?」

 80歳は超えたであろうか、背中のまるまった老婆が声をかけてきた。

「カモがきましたよ。」

 ベルゼブブがサタンに耳打ちをする。

「どうしたんです?」

「息子が会社の金を落としたとかで、立て替えてくれというじゃが。銀行の窓口は閉まってるからATMでというんじゃ。しかし、やり方がわからん。教えてくれんか。」

 そういわれても、悪魔もATMなど使ったことは無い。

「会社の人が、電話で教えてくれるというが、耳も遠いし一人では不安での。」


「おばあさん、私らも暇じゃないので、タダではお手伝いしかねますが。」

「謝礼くらいは払いますよ。」

「こちらのお金はいらないんです。それよりも契約していただきたいものが。」

「なんじゃ、保険屋か?息子のことが片付いてからにしてくれんか。一刻を争うらしくてな。」

「社長、うまくすれば契約にこぎつけますよ。」


 サタンは老婆と一緒に銀行のATMの前に立った。

「この度は、息子がご迷惑をおかけして。はい、今ATMの前です。」

 老婆と一緒に携帯電話から流れてくる声に従い、画面を操作していく。

「カードはありますね。ところで暗証は覚えています?」

「何じゃたかな。爺さんの命日。いや、誕生日かな。とりあえず試してみます。0101、違うな。0430、またじゃ。」

「ゆっくりでいいんで、思い出してください。次間違えると取引停止になりますから。」

 電話の声も焦り気味になってきた。

「そうじゃ、車の番号じゃった。1522。」


 無事50万の引き出しができた。表に出ると、二人組みの男が近づいてきた。

「多摩警察の者ですが、ちょといいですか?」

「何です?」

「今、封筒を受け取りましたよね。中身は何ですか?」

「これは、息子の上司に渡すお金です。」

「息子さんとあなた方のご関係は?」

「関係も何も、こちらのご婦人にこのお金を渡すのを手伝ってくれと頼まれまして。」

「さっきから拝見してたんですが、ATMで指示されてましたよね。」

「すぐに息子さんの上司が受け取りにくるそうなので。」


「いらっしゃいませんね。」

「そうですね。」

「本当はそんな方はいらっしゃらないんじゃないですか?ちなみにあなたの名前は?」

「サタン。」

「さたんさん。珍しいお名前ですね。ご職業は?」

「魔王。」

「はあ、そうゆう設定ですか。詳しい話をお伺いしたいので、ちょっと署までご同行願えませんか?」

「何で?」

「しかたありません。特殊詐欺容疑で現行犯逮捕します。お金は証拠としてお預かりします。」

「面倒だ、逃げましょう。社長。」

 ベルゼブブはまばゆい光を放った。警官たちが目を開けるとそこには、老婆もサタンも消えていた。


「どうなってるんです?」

 サタンが老婆に尋ねた瞬間に、携帯が鳴った。

「警察に連絡したんですか?息子さん、捕まってもいいんですか。」

「とんでもない。向こうが勝手に来たんですよ。」

「今どこです?」

「自宅です。」

「お金は用意できましたか?」

「はい。親切な方たちが手伝ってくれて。」

「それじゃあ、すぐに向かいますから。」


 やがて、一台の車が老婆の自宅に到着した。

「あれ?一人じゃないんですか?」

「こちらはATMの操作を手伝ってくれた方たちじゃ。」

「そうですか、それはご親切に。では、50万確かにあずかりました。」

 そういって、若者は去っていった。

「心配しているだろうから、息子に知らせておいてやろう。」


「ばあちゃん。何の話だ。」

 老婆は初めて詐欺にあったことを知った。

「どうしようかね。」

 老婆はおろおろしながらサタンに相談した。

「契約をしてくだされば、すぐにでもお金を取り戻しますよ。」

 ベルゼブブが老婆に説明をする。

「あんたら探偵さんかなにかかね。」

「まあ、そんな感じですかね。」

「料金はいかほどです?」

「お金はいりません。代わりにあるものいただきたい。」

「何です?」

「魂。」

「そんなんでいいんですか。すぐに用意しますんで。」


 悪魔にとって、人間の詐欺師の隠れ家を見つけるなど目をつぶっていてもできる。

「よくも、サタン様を騙してくれたな。全員地獄に送ってやろうか。」

 サタンのあまりの形相に詐欺師たちは

「お金は返します。」

 といって、逃げていった。後には、50万円と警官の制服が残っていた。


「お金は取り戻したぞ。さっそく魂をもらおうか。」

「奥に用意してあります。新鮮なうちにどうぞ。」

「ずいぶんと手際がいいな。こういう連中ばかりだと仕事が捗る。」

 サタンたちは案内されるままにテーブルに座った。目の前には汁椀が置いてある。

「タニシ汁ですじゃ。」

「タニシじゃなくて魂。」

 サタンは老婆の耳元で大声を出した。

「何がやましいじゃ。田舎者だと思って馬鹿にする気か。多摩市だって東京じゃ。」


「話にならん。さっさと魂を抜いて帰るぞ。」

 サタンは老婆に向かって手を近づけたが、触れることができない。

「なんだ。契約ミスか?」

「サインは入ってますよ。大仁義三おおひとよしぞう。これ誰の名前です?」

「死んだ爺さんのだ。すべて契約書は爺さんお名前で代筆しておったでな。」

 死人の代筆なんて聞いたことが無い。

「これじゃあ、魂は連れてけません。」

「善人そうな名前じゃないか。天国にいれば連れて行けるぞ。」

「地獄にいますね。名前とは正反対の因業爺だったようで。だから車も1522と。」


「おばあさん。死んだ人のサインはダメですよ。これからは気をつけてください。」

 サタンは老婆を諭すとベルゼブブと共に地獄に戻った。

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