第19話 ライバル
「パパ。勝手に部屋に入らないでよね。」
「何のことだ?」
「留守の間に、部屋の物が動いてるのよ。」
「結界があって入れるわけ無いじゃないか。」
「他に、誰がいるのよ。」
「天使だろうと悪魔だろうとあの世の者は結界の中へは入れないよ。スカートーとかいう人間じゃないのか。」
「ストーカーでしょ。対人用も効かないのよ。」
あの世の者でも人間でもないとないとなると動物だろうか?
「怪しいやつを捕まえましたよ。お嬢さんの家の周りをうろついてました。急いできてください。」
小悪魔が、全身緑色で背中に甲羅があるやつを捕まえていた。
「放せ。わしゃ、河童じゃ。」
あの世とこの世の狭間にいる魑魅魍魎の類か。
「お前が部屋を荒らしていたのか?」
「調査だよ。ある人に頼まれてな。」
「ちょっと、うちの手下返してもらうわよ。」
ふくよかな若い女性が部屋に押しかけてきた。
「お嬢さん、面目ない。」
角のついた頭は、人目見て閻魔の一族だとすぐにわかる。
「あんたかい。彼をたぶらかしてる泥棒猫ってのは。」
女はあっ子に向かって悪態をついた。
「何よ、泥棒猫って。聞き捨てならないわね。」
「聞いてない?最初に告られたのよ私。」
ウダの言っていた閻魔の娘というのがこいつか。
「振ったくせに、何よいまさら。」
あっ子もサタンの娘だけあって、一歩も引かない。
「はあ、あんたも狙ってんでしょ。こんなお宝だったなんて知ってたら、手放すんじゃなかったわよ。」
「お宝?何、訳のわからないこと言ってんのよ。」
「親父から聞いてんでしょ。復活した魂が上物だって解ってるわよね。しかも三つよ。こんなおいしい話がある?」
サタンはあっ子にウダの家族の天国での過去をしぶしぶ話した。
「何で、黙ってたのよ。」
「いや、お前には関係ないし。人間たちだって天国での記憶は消えてるから。」
「ただいま。」
ウダが帰ってきた。
「ウダ、私のこと覚えてる?」
「どちら様でしょ。」
「初恋の相手よ。」
「いやあ、すっかり大人っぽくなって。ちょっとドキドキするよ。」
「サタンの娘。どっちを選ぶかウダに決めてもらうってのはどう?」
「閻魔の娘。望むところだ。」
「ふふん。ねえ、ウダ?あのころは私まだ身も心も幼かったのよ。でも今は違うわ。私を選べば閻魔ゆずりの豊満な体を自由に出きるのよ。あんな男みたいな体がいいわけないわよね。男性はこういうの好きでしょ。」
ウダはそわそわ落ち着かない様子だ。
「ほうら、体は正直。」
閻魔の娘は勝ち誇ったように微笑んだ。
「私、女らしくないよね。ウダは自分の思うままに決めていいのよ。」
あっ子は自分でも容姿が女性らしくないことは自覚していた。だから、きっとウダは手を出してこないのだと思っていた。
「あっ子、ごめん。」