第14話 雨降って地固まる
「大変です。娘さんが裁判に呼ばれました。」
「何だって?」
裁判といえば、魔女裁判。
「まさか、魔女だってばれたのか?」
「火あぶりになる前に、逃げるぞ!」
サタンは魔界トンネルであっ子の部屋の押入れから飛び出る。
「部屋に勝手に入らないで。」
「証人として呼ばれてるだけだから。」
「何の?」
「痴漢の。」
「何?!どこのどいつだ。裁判の前にわしが直接、お仕置きをしてやる。まさか、犯人はやつか。ウダが何かしたのか?」
「やめてよ。痴漢されてる子を助けただけだよ。電車から引きずり降ろして、逃げようとするそいつの手の甲に悪魔の烙印を押してやった。」
サタンが現れてから、ちょっとだけ魔力が増えたようだ。
「痛そうだな。」
魔女の仕打ちは、悪魔と違ってとても陰湿だ。
「昔よりマシですよ。性器を切り刻まれてたようですから。」
追いかけてきたベルゼブブが淡々と解説をする。
「それはもっと嫌だな。」
「引越し便です。」
大きなトラックが家の前に止まった。
「引っ越すのか?もしかして、俺たちが来るから?」
サタンはオロオロし始めた。
「違うよ。ウダが来るの。」
「認めん。若い男女が同じ部屋で暮らすなんて。」
サタンの息は荒い。
「別に部屋をシェアするだけだよ。最近は物騒で、一人暮らししてても不安なんだ。」
娘の言い分も一理ある。
「それに、害虫駆除にもなるし。」
「虫?ゴキブリか?」
「似たようなものかな。赤くておっきいやつ。」
「いつでもパパを呼べ。一叩きでつぶしてやる。」
ベルゼブブは、あんただよと突っ込みたい気持ちをぐっと抑えた。
しばらくして、
「ウダと別れたって?」
サタンは大喜びであっ子の元にやってきた。
「あいつ、急に怒り出して出てったの。」
「なんてやつだ。とっちめてやる。」
「彼女はいきなり、旅先でディアブロって言ったんです。」
ディアブロとはメキシコでは悪魔を指す。
「イワブロ、岩風呂って言ったの。早とちりなんだから。」
そういって二人はキスをした。国際結婚ともなれば聞き間違えでの喧嘩は日常茶飯事だろう。
「こら、親の前ではしたない。」
「何言ってんの。私達婚約したの。」
二人は、おそろいの指輪を見せた。
「いつの間に。大体、婚約ってのは互いの両親が会ってだな・・・」
「パパはいないし。ママは死んじゃったし。」
「人間界ではそうだけど、そうと解ればママを魔界から連れてくるさ。」
「会わせられるわけないでしょ。悪魔と魔女ですって。」
「会えます。天・・・」
そこまで言いかけて、ベルゼブブに制止された。天国で会ったことは人間たちの記憶を消していたんだ。
「始めまして?どこかで会ったような気がするんですが、思い出せなくて、歳のせいですかな。」
「似たような顔はたくさんいますから。」
人間に化けているとはいえ、魔王に似たやつがそういるわけないだろう。天国で会ったなんて口が裂けても言えない。
「悪魔みたいな方だと伺っていたのですが、一目見て、なぜか安心しました。外国の王族の方だそうですね。それで最近まで名乗ることもできなかったと息子から伺っています。なんだかほっとして、寿命が延びた気がします。」
確かに、一度死にかけたところ救ったんだから。肉体を捨てて魔界へいった母親は、影からそっと見ている。
「小さいですがメキシコ料理の店をやってます。」
ウダの父親は自家製のトルティーヤをサタンに渡した。
「私は会社経営をしてますが、内容は獄秘なので話せませんが。」
「息子の元社長と伺ってます。サタンサン、販売禁止になって残念でしたな。政治家のやることは気まぐれですからな。死ぬ気で働いても人間いつか死ぬんです。だから私らは、なるがままに気楽に生きることにしたんです。」
サタンは一度死んでますからーといいたい気持ちを抑えた。