第12話 尾行
「パパ、職場にまで来ないで。」
あっ子は相当おかんむりだ。
「職場って?」
「ヒゼニーランド。今、あそこでバイトしてるの。日給で払ってくれるから、人気なの。」
「お前たち、職場でデートしてたの?」
「休みだったし、二人とも遊ぶとこ知らないし。従業員割りもあるしさ。」
「俺たち無料だったぞ。」
「昨日はハロウィンだったからでしょ。恥ずかしくて仮装なんてできないわ。尾行のために変装してたんでしょ。」
「冗談じゃない。仕事でもないのに人間に変装して歩けるか。」
「ちゃんと尾行つけてるか?」
サタンは秘書のベルゼブブに問いただした。
「はい、定期的に報告が入っております。本日は、二人で水族館にいってます。」
「水族館ってあの薄暗い場所か?」
「最近は見るだけでなく、触れるのが人気ですね。」
「みつかったら、怒られますよ。」
「見るんだぞ、触るんだぞ。なんというふしだらな。」
悪魔がふしだらとかいうかな。ベルゼブブはサタンの親ばかぶりに少々あきれていた。
「後ろを向いてるから、状況を説明しろ。」
「手を突っ込んだ。今度は足です。ぺろぺろしてます。」
手をいれると魚たちが指を舐める水槽で遊んでいるだけなのだが。
「出たり入ったしてますよ。」
定番のチンアナゴの水槽。
「ダメ。心臓に悪い。外で待ってるから。」
「ホテルに入りました。」
「すぐに行く。目を離すとこれだ。まだ認めたわけじゃないからな。」
「ここのケーキバイキング、一度来てみたかったのよ。」
あっ子とウダは、ガイドブックを眺めながら、次の目的地を物色している。
「社長、もういいでしょ。社長の娘さんなんですから、大丈夫ですよ。」
「だから心配なんだ。悪魔は多数の魔女と契約するためにだなあ・・・」
「それは昔のことでしょ。今時、魔女を志願する女性はいません。」
余計なことはするなと釘を刺されている身としては、一刻も早くこの場から去りたい。
「露天風呂が有名らしいの。宿泊客でなくても入れるって。」
あっ子の声が聞こえてきた。
「風呂って言ったか?水着を持ってきてるのか?」
「この国では風呂は皆さん裸で入ります。」
「見たことあるぞ。男女が一糸まとわず、湯に入るってやつだ。一緒に風呂なんて何を考えているんだ。先回りするぞ。」
「待ってください。」
「おい、二手になっているがどっちだ。」
「現代は、男湯と女湯がわかれていますから。ほら、隠れて。」
「貸しタオルお願いします。じゃあ、30分後にね。」
受付を過ぎて二人は別々の暖簾をくぐった。とりあえず安心だ。引き上げようとすると、数人に力士がやってきた。
「やつらだ。わしが見た絵では男は、あんな髪型をしてた。」
「いつの時代の話ですか。マゲを結ってるのは相撲取りぐらいですよ。彼らも男湯です。」
「社長、娘さんを結婚させたくないんですか?」
「いや、そりゃ魔女の子として苦労もあったろう。人並みに家庭を持たせてやりたいとも思うよ。」
「お孫さん楽しみですね。」
「それって、子作りするってことだよね。いかん、いかん。考えただけでも恥ずかしくなる。」
「何を想像してらっしゃんですか。そんなことより、結婚となると色々物入りえですよ。」
「子作りの儀式儀式以外になにがあるんだ?」
「招待客にご馳走を振舞うのか?で、旅行代も親が出すの?新居までってやり過ぎだろ。」
人間の親ばかぶりにさすがのサタンも呆れた。